- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 第二部 ゴルフマネジメント科学
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
セルフマネジメント - 第二章
コースマネジメント - 第三章
スコアマネジメント - 第四章
ゲームマネジメント - 第五章
マネジメントサイエンス - おわりに
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第二部 ゴルフマネジメント科学 -
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ゴルフという説明のつかない不思議なゲームに携わって30余年、何とか体系的に説明がつかないものかと悪戦苦闘した結果が本書となった。知れば知るほど多くの名手や研究家たちが、説明のつかないまま生涯を閉じていることが解り、私自身も「ゴルフとは説明のつかない不思議なゲーム」という結論に到達して生涯を閉じるのかと思うようになった。だから本書も「学習ガイドブック」か「参考書」くらいの意味しかなさないかもしれないが、それでも私なりに総括してみると、伝統と科学が対峙する経緯や体系を説明できたような気がする。
ゴルフの起源はよく解らないが、どの国の子供でもこの程度の遊びならすぐ思い付くはずだから、投石や弓矢と同じくらい昔からあったと考えてもおかしくない。ただしスコットランドゴルフの起源を1100年とするブラウニング説は大切にしないと、キリスト教騎士道精神を思想源流とする英国型伝統精神ゴルフの基盤が揺らいでしまう。闘い方としては一騎打ちや決闘と同じ人対人のマッチプレーからはじまり、ジェントルマンズクラブができた頃から大勢で一緒に遊ぶストロークプレーが行われるようになり、二種類のプレー方式として現在に至っている。マッチプレーとストロークプレーは根本的に性格が異なるが、それぞれの本質を理解しないと興味が半減する。英国は今でもマッチプレーが主流で英国型伝統精神ゴルフを守り続けている。一方米国では1970年代からストロークプレーの変革が起っているが、それはハンディキャップシステムの改革に端を発し、コンピューター時代の到来と深く関係している。
同時期に科学が導入され始めたが、影響を与えたのはアンスレー卿の実験研究「パーフェクトスイングの探求」であり、スイング論を統一したのはワイレン博士の「法則原理選択の理論」である。またゴルフをターゲットゲームに変革したのはロバート・ジョーンズの設計思想であり、そこからマネジメントゲームの概念が生まれたと考えられる。急速な用具の進化はこれら複数の要因に大量規格生産技術の発達が重なった時代の産物と考えられる。
変革やイノベーションといわれるものはひとつの要因によって起こるものではなく、時代や社会の変化から習慣や生活、思想や思考が変わるうちに、ちょっとした発見や発明が原因となって起こるようである。面白いことに変革やイノベーションの渦中に在る人たちは、その事実に全く気が付かず後になって「あれはイノベーションだった」と解るようだ。ジェームス・ワットは「これが産業革命だ」とは思わなかったろうし、坂本竜馬も「これは明治維新だ」とは夢にも思わなかったと考えられるからである。
私自身1970年代から米国ゴルフ界に深くかかわりながら一度としてイノベーションが起きていると思わなかったし、ワイレン博士やコットレル博士、NGFベディッツ会長やPGAアディスIII会長から一度としてイノベーションという言葉を聞いたことがない。正直なところ米国のゴルフイノベーションに気が付いたのは本書の構想を練り始めた頃である。ひょっとすると米国ゴルフ界の人たちの多くはイノベーションが起きたと思っていないかもしれない。彼らは頻繁にchangingとはいうがrevolutionとかinnovationとはいわないのだ。
20世紀末期からインターネットの出現もあって世界は急速にグローバル化が進んだが、ゴルフの世界にもグローバル化の波が押し寄せたことは間違いない。ゴルフが英国に発祥し米国に渡って発展したことは誰もが認めるところであるが、それゆえにゴルフに関するあらゆる基準が英国R&Aと米国USGAによって取り決められ、その他の国はそれに従うことによってグローバル化が進んでいることも見逃してはならない点である。
マッチプレーから生まれた英国型伝統精神ゴルフはメンタルゲームとしての性格を今後も堅持していくだろうし、ストロークプレーから生まれた米国型科学技術ゴルフはフィジカルゲームからマネジメントゲームに進化して今後も益々発展していくだろう。だからといってラグビーとアメフトのように別々のゲームになることはありえない。なぜならばゴルフゲームそのものにメンタル性、フィジカル性、マネジメント性が内包していて、どの要件を欠いてもゴルフの特性を失ってしまうからである。ゴルフの特性として倫理道徳を守るために自己審判制度を導入し、自律自制を守るために自己申告制度を導入している。この二つの制度によって人は自らを公平に裁くことの難しさと、正直に証言することの大切さを学ぶ。それゆえにゴルフは青少年にとっても大人にとっても人格形成や人間教育プログラムとして役立ってきた。
21世紀はグローバル世界として多様な価値観をもった人同士が人種国籍を越えて共存していかなければならない。そのような世界でゴルフの特性としての共通価値観は人と人の出会いや交流にどれほど役立つか言葉に尽くし難い。更に世代間の断絶や家庭家族の崩壊など、人が生きていくうえで絶対必要な基盤が揺らぎ始めている今、ひとり一人の精神基盤を支えるうえでも、ゴルフがどれほど役立つか語るに及ばない。我国のゴルフが日本型金融商業娯楽のまま終ってしまっては余りにもったいないし、世界第二位のゴルフ大国として今度こそ「ゴルファーのゴルファーによるゴルファーのためのゴルフ」として、品格を備えた大衆スポーツに進化して、広く国民の間に普及して欲しいものである。倫理道徳を弁え老若男女の全てが楽しめる生涯スポーツゲームなんて、ゴルフをおいて他にないことは、私のみならずゴルフを愛する全ての人が等しく認めるところだからである。
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