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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第五章 マネジメントサイエンス
Section 3 ギアフィッティング

個別ワンスイングの時代を迎え、クラブはオプションギアとして機能別性能別に選択できる道具となった。メーカーサイドは多彩なスペック(仕様)を揃えて選択性を競っているが、ユーザーサイドの選択基準はまだ確立していない。本編第五章でボールフライトロウの発表がクラブ製造に画期的イノベーションをもたらしたことを述べたが、1960年代まではクラブが手作りの手工芸品だったために、スペックを揃えたり選択することは難しかった。そのために誰もが手元にあるクラブに合わせて自分のスイングを調整し、使いこなせるまで練習したのである。
ボールフライトロウが発表されてからは、スイングには万人普遍の原理原則があって、プレーヤーの技量経験にかかわりなくボールは物理反応によって飛ぶことが明らかになり、クラブ製造技術は科学的発展を遂げた。つまりプレーヤー側には生体原理に則ったワンスイング・スクウェアシステムが確立し、クラブメーカー側には物理原則に則った科学的開発技術が確立したのである。その結果、競って先端技術を使ったクラブ開発研究が進み、色々なメーカーから多彩なクラブが売り出され、クラブ毎に性能の異なるスペックが用意されてプレーヤーの好みに合わせて選べるようになった。
このように目的用途や使用者の好みに合わせて選択できる器械器具をオプションギアという。バーナード・ダーウィンはこのような時代の到来を「昔のゴルファーは少ないクラブで色々違ったスイングをしたが、現代は多くのクラブを使って同じスイングをする。」と表現した。

用具の進化

1960年代から70年代までは用具の製造技術にバラツキがあり一貫生産とはいい難かった。「スイングの変遷は用具の進化と共にあった」といえるのは1970年代までで、それ以降は用具の進化に加速度がつく反面、スイングに大きな変化が見られなくなった。つまり、同じ1912年生まれの三大巨匠といわれたフェードのベン・ホーガン、ストレートのバイロン・ネルソン、ドローのサム・スニードが近代スイングを完成させたといわれながら、この時代ののち新たな時代を築いたアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、リー・トレビノの三強豪からスイングの共通性を見出すのは難しかった。ワンスイング・スクウェアシステムが確立したのはニクラスの系統と考えられるトム・ワトソン、トム・ワイスコフ、トム・カイトの時代ではないかと思われるが、その背景にはゲーリー・ワイレン博士のボールフライトロウの発表があったことは見逃せない。
この「法則・原理・選択性の理論」によってスイングと弾道の因果関係が分断された結果、新時代のクラブデザイナー達はスイング論に惑わされることなく、独自の研究によって理想の弾道を求めてクラブ開発に没頭することができたと思われる。経済成長に伴う大量消費時代に支えられたメーカーは、科学技術を導入した量産体制から次々と多彩なスペックを揃えた新開発クラブを市場に送り出した。確かに製造管理の行き届いた一貫生産からクラブの機能や品質は飛躍的に向上した。特に米国も日本も中国に生産拠点を移してからは、どのメーカーも機能や品質では差別化できなくなって、「飛び」をセールスポイントに目先のデザインを変えてブランドと価格に依存するようになった。確かに何処のメーカーのクラブも機能・品質とも向上し良く飛ぶ。今では一本6千円のクラブも6万円のクラブも見分けがつかないほど良くできており、実際に使用してみても価格差の根拠がよく解らない。
スイングの変遷は用具の進化と共にあったというものの、果たして本当にクラブは進化したのか疑問である。ヒッコリーシャフトからスチールシャフトに変わったとき、パーシモンヘッドから中空スチールヘッドに変わった時には進化を感じたが、グラファイトシャフトやオーバーサイズヘッドの出現にはイノベーションを感じるような進化には思えなかった。現にグラファイトもオーバーサイズも旧来のものを凌駕するに至らず、共存する形で残っている。近年スチールシャフトやレギュラーサイズの使用者が増えてきていることからも納得できる。

製造技術の進歩

現代の用品製造技術は飛躍的に高まり、工業製品としての出来栄えは見事であるが、現代の工業生産技術の水準からすれば当たり前かもしれない。もともとクラブはヘッド、シャフト、グリップの三点部品で作られた単純な道具で改良の余地が少ない。そのうえルールによって構造規定が定められ、画期的な改良が禁じられているから、道具としての性能を高め製品としての完成度を高める以外に研究開発の余地がない。
ヘッドについていうならば軽量高金属を使って大型中空構造ウッドとワイドスポットのオーバーサイズアイアンを考案したのは工業技術と科学研究の成果に他ならない。シャフトについても固有振動数、しなり、キックポイント、軽量化など多くの実験や研究がなされ工業製品として飛躍的に進歩した。グリップについては皮からラバーに変わった後、厳しい構造規定もあって画期的といえるほどの進歩は見られない。
一見して何の変化も見られないボールは実際のところ大変な進化を遂げており品質、性能が向上したことは勿論だが耐久性が飛躍的に向上したことは大衆にとって大きな福音である。製造技術の進歩は製品の品質を向上させながら製造原価を低減させる力があるから、大衆にとってはまさに福音となり大衆普及に一層拍車がかかる。今では高級品と比較して何ら遜色ないクラブが安価で買えるので、製造技術の進歩と大衆化の時代を実感するが、米国にしろ日本にしろ製造拠点を中国や東南アジアに移転した効果は大きい。製造技術の進歩によって良質な用具が安価に買えることは大衆にとって嬉しいことだが、だからといってゴルフそのものが進化したわけではないことだけは承知しておかなければならない。

オプションギアの選択

製造技術の進歩によって良質安価なクラブやパーツが多彩なスペックを用意して次々と発売されている。英国と違って米国や日本では先祖伝来のクラブを家宝のように大切にしている姿を余り見ることはないが、クラブが消耗品となりオプションギアとなった現在では、趣味や好奇心によって簡単に買い替えられ捨てられている。メーカーサイドは科学的根拠に基づいた各種のデータを揃えて詳しく説明するが、ユーザーサイドは本当のところ理解していない。殆んどのユーザーは自分の腕は棚に上げて、趣味と好奇心によって購入してみるのだが「ひょっとしたらクラブやシャフトを変えると自分の腕も飛躍的に変わるかもしれない」という淡い夢を買っているのである。99%あり得ないことでも1%の可能性に掛けてみるのが大衆の夢で、ゴルフも人生もそれで成り立っていることは否定しきれない。だからといってそれを良しとしていれば、大衆は必ずいつか背を向けるが、現代社会の大衆知性は大変高いので、一端科学的根拠を理解すれば必ず深く根付くに違いない。
しかしその前提として、オプションギアの土台となるスイングそのものを確かなものにしなければ、いくらギアの性能を高めスペックの種類を増やして選択の幅を広げても、なかなかフィットしてパフォーマンスを発揮するに至らない。ギアフィッティングがメーカーサイドの販売手段ではなく、ユーザーサイドの目的手段になるなら、ゴルフのサイエンスは進化したと断言できるだろう。

ギアフィッティングの楽しみ

ゴルフがマネジメントゲーム化し科学的に進化しているにも拘らず、大衆ゴルファーの腕は一向に進歩も進化もしない。ダーウィンが言ったとおり「現代のゴルフは同じスイングで色々なクラブを使うゲーム」に進化したのだから、同じスイングができるようになったら、色々なクラブやスペックから自分にフィットするものを選択し、難度の高いコースに近代兵器を使って挑戦するのも楽しみのひとつではないか。トム・ワトソンは「何と言っても自分自身とクラブとボール、それしかない」と言ったが、ゴルフのパフォーマンスはプレーヤーとクラブとボールがベストフィットしたときに得られることはよく解る。ならば自分自身のワンスイングをつくりながら、明日の自分を想像して自分のスイングに合ったクラブやシャフトを選ぶのも、ゴルフの大きな楽しみのひとつであるに違いない。