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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第五章 マネジメントサイエンス
Section 2 ゴルフフィットネス

ゴルフに関するトレーニングシステムは、そのほんどが他の分野から導入されたもので、ゴルフにとって有益なもの、無益ないし有害なものまで含まれる。有益と思われるものを選択整理してマネジメントプログラム化したものをゴルフフィットネスというが、他のスポーツ領域に較べて見劣りするのは、ゴルフがフィジカルスポーツよりメンタルスポーツ性が強いせいかもしれない。しかしゴルフフィットネスの世界では、マネジメントの領域内に健康管理や予防医学、老化防止や体力増強も加えてトータルマネジメントと考えるようになっているので現代社会における位置付けは広がっているといえる。
ゴルフの指導というとスイング矯正しか考えないレッスン界にとって、ひとつの方向性を示唆しているし、ゴルフそのものの社会的意義を問われるとき大きな光明ともなり得る。ゴルフそのものは健康管理や予防医学、老化防止や体力増強いずれに対しても強力な手段になることは万人が認めるところである。人類が初めて体験するといわれる人口減少高齢化社会の到来を迎えて、そこに発生するもろもろの問題を含めて、時代の要請に応える無限の回答をゴルフフィットネスの中に見出すことができるのである。

フィットネスの意義

トレーニングは動機や目的が明確であるが、フィットネスは漠然としたところがある。筋力トレーニングにみられるように「強くなりたい」「いい体になりたい」という具合に動機も目的も実に明確である。「もっと飛ばすゴルフ」と言えば人が飛びつくが「老化予防のゴルフ」では年寄りも寄り付かない。ところがフィットネスは語源から解るように、動機や目的に対して即物的に対応することではなく、年齢や肉体、環境や精神、生活や人生に対して最適な適合条件をつくり出していくことだから、戦略的マネジメント概念の範疇で捉えなければならない。
フィットネスはトレーニングより大局的な意義や目的を有することから、ゴルフフィットネスについて考察すると無限の広がりを見出すことができる。例えば高齢化時代を迎えて寿命だけがいたずらに延びてしまって、心身の健康を害した高齢者が激増する現実をどうする、という問題に対してゴルフは役に立たないのか。リストラや失業によって職場や家庭に起きた人間不信、孤立や断絶に対してゴルフは役に立たないのか。孤独老人に生き甲斐や喜びを与える生活環境に、地方の倒産ゴルフ場は利用できないのか。などゴルフフィットネスの領域は無限の広がりを見せるだけに社会的意義も大きい。フィットネスの意義を本質から考え直すことによって、ゴルフの意義も大きく見直されるのではないかと思われる。

日常的ゴルフフィットネス

医療機関や商業サービス機関に依存したゴルフフィットネスはゴルファー自身の主体性が欠如する点で余り感心しない。キャディー付き接待ゴルフと同じでゴルファー自身の成長には何の役にも立たない。ゴルフフィットネスはゴルファー自身の自覚と自己責任のもとに生活環境や生活習慣を改善し、ゴルフライフを通して人格改善、精神安定、健康増進を図り、社会環境への融合、生き甲斐の発見、自発的な健康管理に役立つ最適環境をつくっていくことではないか。専門機関や専門指導員はそのサポート役であって、主体はあくまでゴルファー自身でなければならないはずだが、ゴルファー自身に他力願的な依存体質があるうちは本当のゴルフフィットネスにはならないだろう。専門機関や専門家の指導のもとに自分なりのゴルフフィットネスプランを立て、短期長期の目標を設定して日常的なフィットネスライフを実行したときに最適環境が実現するように思う。
私たちの日常生活は惰性に陥り易く、そこに喜びや感動が失なわれて精神衛生上も劣悪な環境に陥りやすい。まして経済情勢の変動や生活環境の変化によって日常生活そのものが脅かされたときには、それが精神病の原因にもなりかねない。現代社会が抱える最大の問題は精神衛生上、極めて劣悪な環境が生まれてきたことで、解決策は劣悪な環境から自ら脱出するか、自ら最適環境を創り出して対処する以外に手がない。国の政策や施策を待つうちに劣悪環境の中で自ら精神を病むくらいなら、積極果敢に日常生活にゴルフフィットネスを導入して快適環境をつくる方が早い。

ライフマネジメント

日常生活や生活環境を改善するために戦略的にゴルフフィットネスを導入したならば、そのパフォーマンスを発揮させるためには適切なマネジメントが行われなければならない。適切なマネジメントとは無理のないEasy & Simpleな方法にして一貫性と継続性の中に目的達成の確信が持てることを意味する。特にライフマネジメントは日常生活で行われる「顔を洗う」「歯を磨く」「化粧する」「髭を剃る」「休憩する」「風呂に入る」と同じように「ストレッチ」「ウォーキング」「ドリル」「エクササイズ」「ラーニング」「トレーニング」が日常生活化して時間の経過と共に規則正しい生活の中に健康維持、体力向上、ゴルフ上達が同時実現するものである。
私たちの日常生活を支えるスキル、例えば「箸を使う」「電車に乗る」「買い物をする」「文字を書く」「新聞を読む」「会話する」この当たり前のことが外国という環境に変わっただけで、全くお手上げに近い状態に変わることは多くの人が体験している。私たちの環境変化に対する順応性は意外にもろく、僅かなことで日常生活のリズムが狂ったり惰性に陥ることがある。自立したプロのスポーツ選手や専門家はライフマネジメントに卓越しており、少々の環境変化で生活リズムが狂うことはない。アクシデントによって日常生活が激変したとしても、速やかにライフマネジメントを変更し日常生活を立て直して、新たな最適環境とつくることに長けている。彼らには明確な目的や目標があるからライフマネジメントができるのであって、彼らでも目的や目標がなければすぐ惰性に陥る。ゴルフフィットネスとライフマネジメントは表裏一体の関係にあり、戦略的目標や明確な目的動機を必要とする。

ゴルフフィットネス戦略

「ゴルフの唯一の欠点はおもしろすぎることだ。」とヘンリー・ロングハーストが言ったという。ゴルフを少しやったことがある人ならば実に納得できる話で 男も女も、大人も子供も無条件に楽しめる。人間が不幸に思うときは間違いなくおもしろくないとき楽しくないときだから、ゴルフの唯一の欠点を現代社会の問題解決に利用する方法はないものか。
米国ノースカロライナ州パインハーストはゴルフメッカであると同時に、閑静な高齢者の生活コミュニティでもある。1万人にも満たない人口地域に多くの有名なゴルフ場と医療機関が集まっているが、ゴルフフィットネスを戦略に取り入れたコミュニティづくりに成功している。ゴルフ場を中心とした環境が豊かな自然と閑静な生活空間を提供し、クラブハウスを中心にした周辺環境が地域住人の交流コミュニティを提供しているので、自然に囲まれた閑静な環境に笑い声が絶えない。全米から現役を引退した医者や専門職の人達が移住しているので、ボランティアによるカウンセリングなどのサービスが充実している。パインハーストの住人は全てゴルファーであるから共通の価値観によって結ばれた絆は強い。ゴルフフィットネスのひとつの姿をみることができる。
ゴルフやゴルフ場を活用した最適環境造りをすればそれがゴルフフィットネスの戦略になるのではないかと考えられるが、本編で詳しく述べた如くゴルフの本質には人間にとって大切な多くの価値観が内包されている。倫理道徳と精神衛生、適正運動と日常対話、生活習慣と健康管理、世代交流と相互理解などの社会問題を解決する鍵が隠されていると思う。それゆえゴルフフィットネスを戦略的に活用すれば、きっと現代社会が抱える難問に対して理想的な解決策が見出せるに違いない。