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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第一章 チームマネジメント
Section 1 経営方針と経営システム

コースや練習場の経営にはコンセプトといわれる一定の経営方針がなければならない。例えば会員以外は利用できないメンバー制か、誰でも利用できるパブリック制か、あるいはその中間のセミパブリック制か。メンバー制の場合どのようなメンバーによってどのようなクラブライフを目標とするか。会員資格にどのような条件を設けるか。
例えば欧米のプライベートクラブは厳しい入会資格条件を設けており、人種・宗教・所得・身分・職業など私たちの理解を超えた閉鎖社会を構成している。入会資格だけではなくプレーすることそのものに厳しい条件を設けている。ほとんどのプライベートコースがビジターをいっさい受け入れず、メンバーのゲストとしてクラブに承認されたものだけがプレーを許される。だからゲストプレーヤーとして承認されれば、クラブの賓客としてメンバー自身かクラブプロが同伴して大切にもてなされる。当然のことながらプレーを制限され、料金を請求されることなどあり得ない。このようなメンバー制コースは米国だけでも日本の全コース2500以上の4000コース近くある。
パブリック制の場合なら誰でもプレーできることを前提に、料金と難度でコンセプトを明確にしている。特に公営パブリックは料金が1000円程度に設定されていて、ジュニアやシニアはその半額でプレーできる。その代わり初心者、子供、年寄りが公園で遊ぶようにプレーしているからエチケット・ルールは自分たちで守り、お互いに注意し合わなければ秩序が維持できない。
上級のパブリックコースは料金も3000円前後するが、よく整備されていて難度も高い。このようなパブリックはハンディキャップ証明の提示を求められ、一定以上の技量がなければプレーを断られるし、スロープレーヤーは厳重に注意される。パブリックといえどもコンセプトを明確にしてカスタマーを選別している。
セミパブリックはクラブ会員制パブリックといわれるコンセプトで運営されるコースで、複数のクラブが共同で利用するパブリックコースと考えればよい。 欧米のゴルフクラブはコースを所有しているとは限らない。クラブとは同好の集まりのことで同好会を指している。各学校の同好会、職場の同好会、地域の同好会など全てゴルフを共通の趣味とする人の集まりを「ゴルフクラブ」といっている。例えば聖地セントアンドリュウスは公営ゴルフ場であるが無数のクラブが利用してクラブ活動をしているセミパブリックコースである。
リゾートホテルの付帯設備となっているコースの場合は宿泊客しかプレーさせないところが多い。リゾートコースは料金も高い代わりに、誰でもゆっくりとプレーさせてもらえる。有名なところではぺブルビーチ、パインハースト、パームスプリングス、ハワイ、川奈などに見ることができる。リゾートコースはプレーヤーを限定せず、技量はもちろん人種・宗教・職業・身分一切を問わない。そういう意味ではプライベートコースと正反対のコンセプトにある。

経営方針

本来経営方針はコース建設の計画段階に立てられている。一般的にコースの建設計画はフィロソフィー・基本コンセプト・グランドデザイン・コースデザイン・土木工事計画・マネジメントプランの順に立てられる。出発点に計画者のゴルフに対する考え方があるから、どのようなコースを建設して、そこでどのようなゴルフライフが展開されるか明確なイメージが出来上がっている。つまり基本コンセプトが出来ているから、コース全体のグランドデザインも明確になる。どのような人が、どのようなレベルで、どのようなゴルフを楽しむかイメージが一貫しているため、基本コンセプトとチグハグなコースが完成することはまずない。だからオープンしてからの経営方針は迷うことなく基本コンセプトに従えばよいことになるが、基本コンセプトが曖昧ないしチグハグな場合は経営方針が定まらないか、後日になって経営破綻する。
例えば本格的チャンピオンコースを謳って狭い敷地に難しいコースを造成した場合、チャンピオンどころか誰もプレーしたくないコースが出来上がる。急遽経営方針を変更して女性や高齢者をターゲットにしようとしても、難度を下げるために大改造をしなければならない。反対に広い敷地に充分すぎる距離をとって造成した場合、最初からティーを五箇所に設けておかなければ女性や高齢者につまらないコースとなって経営方針を限定させる。
現実問題として1960年代に開場した一流といわれるコースも、開場当時はメンバーが若い男性中心だったものが、今ではメンバーが一応に高齢化しファミリーを同伴してプレーするには難度が高くて楽しめないところが多い。そのうえビジター料金が高額となれば、経営方針を立てる前にメンバーが敬遠して経営が破綻する。
いま日本のゴルフコースが経営難に陥っている最大の理由は、基本コンセプトがチグハグで経営方針が立てられない点にある。高額会員権を発行する目的で絢爛豪華なクラブハウスを建てたコースは、固定資産税や維持費だけで収入の大部分を喪失してしまう。売上が激減する中で固定費だけが高い水準を維持すれば、経営方針を立てる前に経営破綻する。日本の多くのコースは経営方針を立てる前に基本コンセプトそのものを再構築しなければならない状況にある。

経営方針の前提

経営方針の立案は基本コンセプトに基づくから、大胆な経営改革を行うには基本コンセプトそのものをゼロから見直す必要がある。そのためには会員募集を始めた当時に制作されたパンフレットを見直せば、当時の基本コンセプトが如何に事大主義で現状に合わないか一目瞭然であろう。バブル崩壊によって破綻したコースが整理回収機構や外国ヘッジファンドによって法的に整理されたところで、金融債権処理の法手続が完了したに過ぎない。冷戦終結後の肥大化した軍隊組織や核廃絶後の原子力利用のようなもので、基本コンセプトが根底から崩壊した後に経営方針を立てることは不可能である。基本コンセプトが根本から見直された後に、新しいコンセプトに沿って経営方針が立てられなければ、経営を支えるシステムが構築できない。
新たな経営者は経営方針を立てる前提として、過去にとらわれない全く新しいコンセプトを構築し、現状と将来を見据えた経営方針を立案しなければならない。新しいコンセプトは、ゴルフを取り巻く環境やゴルフに対する人々の考えに基づいて、地域の人々とどのような係わり方をしていくか、あるいは立地条件や施設の規模などからリゾートコースとしてニューカスタマーに選ばれる魅力づくりをどう構築するかなどが再検討されなければならない。オープンから20年以上経つと世の中のトレンドは完全に変わる。当初は最先端のトレンドを受け入れたコンセプトも時系列的に劣化して、20年後にはカスタマーが見向きもしない陳腐なものになってしまう。
トレンド変化はまだ緩やかだが、バブル崩壊や大震災は突然起こって社会情勢や生活環境を激変させてしまう。このような急激な社会変動や環境変化に対して経営は敏感に対応して方針を変更しなければならないが、対応の遅れは経営にとっても間違いなく命取りになる。米国・日本において数多くのコースが破綻した事実がそれを証明していることを忘れてはならない。

経営システム

経営システムは常に経営方針を支える体制でなければならないが、現場は必ずしも経営方針を支えるシステムになっているとは限らない。例えばセルフプレーの経営方針を打ち出しながら、キャディー制度が残っていてキャディーマスターがスタート予約の権限を支配しているケースがある。そのためにフロントは予約、変更、キャンセルに対応しきれずカスタマーとキャディーマスター室との板ばさみに苦労する。カスタマーが要望する早朝プレー、ハーフプレー、18ホールスループレー、追加プレー、サテライトプレー、変則プレーなどに対応できず硬直的なサービスに終始することになる。
セルフプレーの目的はカスタマー主体のプレースタイルを楽しむことであって、コースが顧客を管理するシステムであってはならない。キャディーマスター室をコントロールタワーにし、キャディーを監視人にしてコースの秩序やプレーの進行を管理する体制から、プレーヤーの自主管理に委ねるセルフプレー体制に経営方針を一変しても、経営システム全体を変えなければシステムそのものが機能しない。
キャディー制を廃止してセルフプレー制に変更する場合、多くは経営側の一方的な理由によっている。人材不足、人件費削減、経営合理化、顧客減少、経営難などの理由でセルフプレー制が導入されるが、経営システムが旧体制のままではマネジメント機能が働かない。
セルフプレー制を導入すれば顧客がコースに到着した瞬間から顧客の行動もスタッフの動きも変わる。従来はスタッフやキャディーの誘導に頼りきっていた顧客も、今度は全て自己責任と自己判断で行動しなければならない。経営側は顧客がセルフプレー導入に理解を示し、セルフプレーに満足し、次回から喜んでセルフプレーに応じるシステムを構築しなければならない。多くの失敗や不満の原因は経営側の準備不足とスタッフの不慣れから生じるもので、顧客自身は既に海外体験も含めてセルフプレーに慣れている。
メンバー制から準メンバー制に経営方針を変更する場合も同じ問題が生じる。メンバー制はメンバー優先の経営方針であるから、あらゆる点でメンバー優遇の体制がとられている。ところがメンバーは低額料金だがビジターは高額料金、メンバーはリピートするがビジターはリピートしない、だからメンバー優先に見せかけてビジターを優先するという経営上のジレンマを抱えることになる。メンバーは文句を言いつつ来場するがビジターは無言で去る。ビジターを失えばたちまち経営が苦しくなるので、現実はメンバーに悟られないようにビジター優遇の経営をしなければならない。
経営方針に対して根本的に経営システムが整合しないために、メンバーもビジターも共にCS(顧客満足度)が低いという結果を招く。スタッフが常にメンバーに言い訳を言い、ビジターに御世辞を言っているようでは、最早サービスにもホスピタリティにもならず経営マネジメントの段階に至らない。経営システムは常に経営方針を支えるものだから、経営方針が定まらなければ経営システムも定まらない。従って、経営ポリシー、経営方針、経営システムは常に一貫したものであって、その一貫性の上に戦略や戦術が生かされなければ、スタッフが結束してパフォーマンスを発揮するチームマネジメントの段階まで発展しない。