NGF WORLD Golf Campus Image
  • メンバーログインは右の [ Login ] ボタンをクリックしてください。
National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第一章 チームマネジメント
Section 2 経営戦略と競争優位

「戦略」はもともと軍事用語だから戦いや競争社会に応用されることが多い。ある目的や目標を達成するために必要な戦いや競争に対して、効率的に結果を得ようとする手段を「戦術」といい、掲げた目的や目標を「戦略」といっているようだ。「戦略なき戦術」とか「戦略なき戦い」という場合、何のために戦い競争しているか分からない状態を指し、こういう状態を「泥仕合」ともいう。スポーツの世界で泥仕合をすることはめったにないが戦争やビジネスの世界では頻繁に起こる。スポーツの世界は目的や目標が勝利とか優勝という極めて明快な一点に示されているため、戦略的戦術や作戦が立てやすい。ところが戦争やビジネスの世界では生き残りを賭けた戦いや競争が延々と続くため、目的や目標を見失って泥仕合に陥り易い。
ビジネスの世界は経済合理性が追求されるから、利害が一致すれば昨日の敵が今日の味方になることも珍しくない。近年は提携、買収、合併などライバル同士が泥仕合をやめて戦略的に手を結ぶことはいくらでもある。企業内においても労使対立を延々と続けてロックアウトとストライキを繰り返し、とうとう会社を倒産に追い込むようなケースは珍しくなった。会社が一体となって経営戦略を立て、同業他社との競争に打ち勝って競争優位のポジションを獲得する努力を重ねる企業の方が珍しくない。社員が率先して経営合理化や作業改善を推進し生産性向上やコストパフォーマンスを追及することも珍しくない。
資本主義が成熟して市場原理が浸透するまでは企業内にイデオロギーやセクショナリズムの対立が潜在し、市場競争に向けられるべきパワーが社内抗争に向けけられることが多かった。戦略や戦術が市場競争に対して立てられるのではなく、社内抗争の対策に摺り返られるケースも珍しくない。労務管理や組合対策、人事管理や給与対策は本来のマネジメント概念から遊離しており、チームマネジメントとはむしろ反対概念にあるとすら考えられる。なぜならばビジネスとは誰が誰に対して何をすることなのか、ビジネスマネジメントとは誰が何に対して何をすることなのか、その目的や相手を明確にすれば理解できることだからである。
経営戦略とは市場に対して競争優位のポジションを獲得するためにポリシーをもって経営方針を定めることであり、戦術とは目的を達成するための手段を定めることである。だから内輪もめしている企業に戦略も戦術もありえない。まずはチームマネジメントの体制を整え、チームワークが取れなければ市場に打って出ることなどとてもできない。
戦争の世界では昔から「地の利」「時の利」「人の利」を生かすことが戦略として語られることが多いが、それはビジネスの世界にも当てはまる。高速道路が開通して「地の利」が高まり商圏が広がった。時代変化が「時の利」となって客の流れが変わり業績も向上した。労働市場が流動化したお陰で優れた人材が集まり「人に利」が得られた。これらの要件は外部環境の変化による結果であって必ずしも戦略的とは言わない。経営戦略はトップマネジメントが市場競争を優位に進めるため、チームが目的や目標に向かって結束するために必要な手段や方法を明確に示すものでなければならない。チームが結束することによってトップマネジメントとチーム全員が目標達成の喜びを共有するものでなければならない。
世の中に戦いや競争がなければ戦略も戦術もいらないが、人間の社会そのものが競争と協調の原理によって成り立っているから、競争を優位に進めるには、二つの原理を有効に活用して相乗効果を高めなければならない。『7つの習慣』を書いたスティーブン・コビーは「人生や社会には神の掟ともいうべき普遍の原則があって、その原則を侵すものは失敗し、原則を守って相乗効果を高めるものは成功する」と述べている。経営戦略を考えるとき、競争については多くが語られているが、協調については余り語られていない。そんな中でスティーブン・コビーは自立と協調によって競争社会を優位に展開する戦略について説くが、現実にはチームマネジメントによって具体化する。

経営戦略システム

経営戦略については多くのマーケティング専門書が語るが、どの分厚い専門書にもゴルフビジネスの経営戦略について何も語られていない。ゴルフビジネスは特殊な世界なのか、語るに及ばない領域なのか分からないが、スポーツビジネスの世界であることと、近年では難しいビジネス領域であることを誰も否定できない。先にも触れた通り米国においても日本においても、不動産バブルが崩壊するまでは易しいビジネスだったが、崩壊後は極めて難しいビジネスになった。いやむしろ不動産バブルが崩壊してはじめてビジネスといえるようになったと考えるべきだが、米国では1930年代および80年代以降、日本では1990年代以降に厳しいビジネスに変わり、経営戦略なくしてゴルフビジネスの成功はありえなくなった。
マーケティング専門書にゴルフビジネスについて語られていなくとも、ゴルフビジネスに携わるものは専門書を参考にして独自領域を開拓し研究しなければ、到底マーケットに残れないという厳しい現実に迫られている。特に日本のゴルフマーケットは不動産バブルと金融バブルのダブル崩壊を体験し、度重なる大震災や津波災害に放射能汚染という国難ともいえる厳しい環境にある。ゴルフビジネスといえども、この渦中に在っては戦略なくして生き残ることなど到底考えられない。いまやゴルフビジネスの経営戦略は存亡を賭けた最重要課題といわなければならない。

コース練習場の経営戦略システム

コースと練習場では内容において違いがあるものの、不動産ビジネスであることに変わりはない。両者とも不動産を活用したゴルフビジネスという意味では同じである。コースも練習場も経営戦略はキャピタルゲインを狙った不動産投資であったから、ビジネスとしては不動産の値上がり利益を得たところで撤退すべきだったのかもしれない。しかし現実には戦略どおり成功した企業も人も見たことがないばかりか、バブル崩壊によって大打撃を蒙り多くが消滅した。残ったコース練習場は不動産ビジネスから脱皮して新たな経営戦略を立て、従来と違った経営方針によって経営しなければならないはずが、大部分が従来と変わらない状態にある。
施設をリニューアルすることや人員を削減することは戦略のうちに入らない。新たな経営戦略を立てるならば、「時の利」として情報通信革命期にあることが、「地の利」として地域社会に新たなコミュニティが生成しはじめていることが、「人の利」として仲間意識や家族の絆が芽生えてきていることが考えられる。いま静かに大きく時代や社会が変化しているから、事業環境も従来とは異なってきているはずである。その変化に対応してコース練習場の経営戦略も変わらなければならない。従来、戦略らしき戦略もなかった業界だから、変わるというより新たに構築することを意味する。それは取りも直さず、会員権を中心とした金融ビジネスや物件を中心とした不動産ビジネスから脱却して、本来のサービスを中心としたゴルフビジネスに回帰することを意味している。

ゴルフビジネスの経営戦略

欧米諸国と異なり日本のゴルフビジネスは一攫千金的な金融投機ないし不動産投機的な戦略のもとに進められたことは否定できない。戦後高度経済成長に伴うゴルフブームに支えられた、ゴールドラッシュならぬゴルフラッシュが起きたのである。何事もラッシュの時代は「早いもの勝ち、ずるいもの勝ち」の社会であるから戦略など立てている暇がない。スタートが遅れたもの、ラッシュに間に合わなかったもの、正直者が失敗し破綻した。ゴルフを健全に育てようとする立場からすれば、二度と繰り返してはならない愚行と思うが、米国で起きたことが日本で、日本で起きたことがアジア中国で起きようとしていることを誰も止めることができない。
本来ゴルフビジネスの経営戦略は、ゴルフそのものをビジネスとするのではなく教育目的、地域コミュニティづくり、環境開発などにゴルフが導入され、戦略的に利用されるべきものと思うが、単なる遊興娯楽施設というコンセプトで建設されたコース練習場はブームが去れば廃墟となることはどうしても避けられない。
ゴルフビジネスは戦略的に主役になるより、他のビジネスの脇役になる方が幸せで成功するように思える。例えば学校の教育フィールド、地域社会のコミュニティクラブ、住宅地のパブリックガーデン、リゾート地や医療機関のユーティリティなど、他の事業の付帯設備が考えられるが、これらは他の事業の経営戦略をサポートする施設で事業の主体ではない。もちろんビジネスとして成功しているコース練習場も少なくないから、全てが脇役にということではない。経営戦略を立てる目的はマーケットにおいて競争優位の地位を保つことであって、もし競争市場に参入しなければ経営戦略を立てる必要もない。競争市場になければ、ゴルフビジネスそのものに競争原理や経済合理性が働かないから、ゴルフ本来の価値やパフォーマンスを存分に引き出し、ゴルフを健全な方向に誘導することができる。

競争優位

供給過剰のマーケットにあっては供給側に競争原理が働くのは当然であって『ゴルフ経営原論 第一部:第一章 マーケティング』で学んだように地域オンリーワンないしナンバーワンの地位を確保しなければ苦しい経営を強いられる。乱戦状態や過当競争に陥ったマーケットでは後先を考えない乱戦状態から、互いに首の絞め合いになる。
この状態では競争相手が倒産撤退するまで首を絞め続けることになるから、お互いに体力の消耗は激しい。日本のゴルフマーケットでは過当競争を避けるために、業界団体や同業組合が任意自粛の申し合わせを行ってきたが、昨今は脱退者も多く有名無実となっている。バブル崩壊や大震災などによって需要減少や市場縮小に歯止めがかからない状態に陥っている状態では、目先の価格競争や過剰サービスに振り回されても仕方がない。乱戦に巻き込まれた状態で競争優位を保つことは大変難しいうえ、極めて危険でもある。本当の意味で競争優位を保つということは競争にならないほどの地位を獲得することだから、業界や地域で何が絶対の強みになるか考えなければならない。ぺブルビーチや川奈リゾートなどは最初からオンリーワンの存在として知名度をもつが、一般的にはオンリーワンもナンバーワンもなく、戦略的経営努力によってその地位を獲得しなければならない。
市場原理が働く競争社会では内部抗争や派閥争いをしている暇などない。トップマネジメントからスタッフまで一丸となって戦略的に市場競争に参加しければ競争社会を生きぬくことができない。このままでは自分たちの存続すら危ういという危機意識が結束力となってチームワークに繋がり、そこからチームマネジメントに発展していく。日本におけるゴルフビジネス、特にコース練習場の経営ではチームワークという以前にチームそのものができていない。コース練習場の経営マネジメントでは施設毎にスタッフがチームを編成し、チームマネジメントを展開しなければ競争優位などとても得られない。既に米国カナダ豪州に定着したプロスタッフ請負によるチームマネジメントシステムは、プロマネージャーやプロスタッフの育成を前提として今後のアジア日本のマーケットでも必ず必要になるだろう。