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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第二章 フィナンシャルマネジメント
Section 2 セールスコントロール

多くのコース練習場はお天気商売や受身経営をしている。つまり来場者が多ければ「天気が良かったから」「景気が良かったから」といい、来場者が少なければ「陽気が悪いから」「不景気だから」と言って決して自ら来場者を増やそうとはしない。せいぜい割引券の配布か日替わり料金制度で対応するしか手がない。つまり既存のカスタマーだけを見ていると、豊富なノンカスタマーが見えないのである。日本のゴルフ人口は対象人口の10%しかない。ランダムに10人の人に尋ねれば1人はゴルファーで9人はノンゴルファーである。その9人のうち3人はいつかゴルフをしてみたいと答える。つまり顕在カスタマーの3倍の潜在カスタマーが存在していることになる。この潜在カスタマーを探索することをマーケティングといい、顕在化することをディフィージョン(普及)とかプロモーション(振興)といっている。
カスタマーを増やし売上を伸ばすにはディフィージョンやプロモーションを積極的に進めなければならないが、売上を積極的にマネジメントすることをセールスコントロールという。しかし売上を伸ばしたくない企業はひとつもない。現実の問題はどのようにして売上を伸ばすかが問われるのである。さらには景気低迷期に売上を伸ばすことは容易ではない。なぜならば、このような時期は供給一定に対して需要が減少するか、需要一定に対して供給が増加する状況にあるからである。このような状況に対応する場合コストコントロールとセールスコントロールをセットにしてマネジメントせざるを得ないが、通常は増収増益に対して減収増益もありうることを承知していなければならない。日本のゴルフマーケットは世界一豊潤なはずが、なぜか経営は四苦八苦している。米国のゴルフマーケットは極限状態にありながら、なぜか経営は生き生きしている。この「なぜ」を解明しなければセールスコントロールもフィナンシャルマネジメントも暗中模索に陥ってしまう。

世界一の売上

米国のコースは日本の7倍あるが、マーケットの大きさは同規模である。米国のコースに赤字経営は少ないが、日本のコースに黒字経営は少ない。なぜかを解明するには、この辺から分析してみる必要があるだろう。
米国のコースの18ホール当たり標準売上は5千万円から1億5千万円くらいに対して、日本のコースの標準売上は2億5千万円から6億円くらいある。こんなに高い売上は世界中で日本だけで、好景気を謳われる中国でもせいぜい2億5千万円止まりである。外国のゴルフ関係者から見ると日本のコースは驚異的な売上を上げており、多くの人がその金額を聞いて腰を抜かす。それゆえに日本経済がバブル崩壊し、コースが次々と経営破綻したと見るや外国ファンドが津波のように押し寄せた。そして破綻したコースの売上を聞いて、また腰を抜かしたのである。
世界一の売上があって何故に経営破綻するのか。民事再生法によって事業再生を図っても何故に経営再建できないのか。一般事業の再生を手がけてきた専門家(Turnaround Manager)も、さすがに首をひねって絶句した。事業再生のプロ集団といわれたハゲタカファンドも、不良債権転売で一儲けした後は事業再生に手をつけずに国外逃亡を図ってしまったが、世界一の売上の実体はどのようなものだったのか。

世界一の料金体系

欧米諸国の商業パブリックコース18ホール当たりの平均料金は約30ドル(円換算約2,500円)である。公営パブリックコースの料金はその半額で、ジュニアとシニアはさらにその半額である。日本のパブリックコースは商業公営ともに平均約10,000円(平日約8,000円、休日約12,000円)する。事実上パブリックでもメンバー制を謳うコースは、メンバーでも曜日に関係なく約8,000円、ビジターは平日約10,000円、休日約15,000円である。日本の年間来場者数は平均35,000人で多いところは50,000人以上来場する。外国のゴルフ関係者は日本の料金体系と入場者数にも仰天する。それにも拘らず日本のゴルフ界は最悪の低迷期にあるといわれているのは何故か。
コースの経営マネジメントを考える上で、セールスコントロールを一般常識で捉えると判断を誤る。日本のコースの料金体系は複雑な内容に見えて実は画一的で単純である。平日・休日別グリーンフィー、内容が分からない諸経費、娯楽施設利用税、キャディーフィー、カート代、緑化協力金となっているが、最近はグリーンフィーが季節や曜日によって日替わり変化する。さらに昼食付きや割引制度もあって、プレーするたびに料金が異なり本当のところ料金はいくらなのか見当が付かない。
インターネットで検索すると目まぐるしい料金体系が無数に出てくるが、よく見ると何処のコースも全く同じ画一的な価格戦略であることに気が付く。何処のコースも全てセットメニューでオプションメニューやアラカルトメニューがない。家族連れや友人を誘って行こうとしても、中に一人でもゴルフができない人や初心者がいると、お互いに困惑してしまうのである。プレーヤー以外は入場できない、初心者や高齢者も5時間以内で18ホールプレーしなければならない、女性や糖尿病患者も1000kcal以上の昼食がセットされている、という具合にメニューが画一的で選択の余地がない。

セールスコントロールとは何か

多くの企業は目標とされる売上を達成するために経営資源や商材商品を組み合わせてカスタマーニーズに応えようとする。マーケティングといわれる領域で潜在マーケットや潜在需要を掴んだら、マーチャンダイジングといわれる領域でニューカスタマーを引き寄せる商品構成を企画する。先にも触れた「いつかゴルフをしてみたい」と思っている30%の潜在マーケットや「休日に家族や仲間とゴルフがしたい」と思っている多くの潜在需要に対して、どのような商品構成と価格体系で臨めば顧客満足と売上目標が達成できるか考え企画することがマーチャンダイジングであり、試行錯誤することをセールスコントロールという。
商売や事業は常に走りながらビジネスチャンスを掴もうとする一種のゲームである。スポーツもビジネスも、突然やってくる小さなチャンスを求めて常に走り続けている。十年一日の如く商品構成と価格体系を変えない商売は殆んど消滅したが、不思議なことにコース練習場は今も存続している。コース練習場は世界一のマーケットの中で成り立つ特殊な事業なのだろうか。
一般のビジネスではいくつかの商品構成と価格体系をもってセールスコントロールを行っている。すし屋なら松・竹・梅にランチメニュー、クルマなら大型・中型・小型にエコカー、エアラインならファースト・ビジネス・エコノミーに特割チケット。ゴルフならどのような商品構成や価格体系が考えられるのだろうか。現状はフルコース・セットメニューなのでカスタマーにとっても選択の余地はないが、同時に供給側にとってもセールスコントロールのしようがない。つまりどの価格帯の商品をどのくらい売り、主力商品を何にするかという試行錯誤ができないのである。そのために世界一のマーケットにありながら、お天気商売や受身経営といわれる消極無気力ビジネスを営々と続ける結果になったが、それは世界一のマーケットにあるからかもしれない。
人によらず企業によらず恵まれた環境にあれば軟弱体質に育つのは止むを得ない。世間や世界の荒波にもまれて初めて強靭な体質に育つが、日本のゴルフ産業は農業やサービス業と同様に国際競争を避けて保護されてきたために、すっかり軟弱体質に育ってしまった。本格的な国際競争にさらされたらひとたまりもないだろう。

具体的方策

セールスコントロールを行うには、まず商品構成や価格体系を拡大しなければならない。マーケティングによって潜在マーケットや潜在需要に当たりをつけたら、マーチャンダイジングによって新しいプログラム商品を企画しなければならない。プログラム商品はゴルフ未体験者から休眠ゴルファーまで幅広く企画する必要があるが、セールスコントロールにとって大切なことはマーケットからの反応と商品構成のバランス、価格体系と利益構造の調整である。
商品構成のバランスは、現在主力商品となっているものが商品構成を増やすことによって変わる可能性がある。つまりセールスコントロールによってベストカスタマーが変わった場合、オールドカスタマーとニューカスタマーのバランスを整えていかなければならない。オールドカスタマーとニューカスタマーの好みも要求も自ずと異なるはずだが、どちらに比重を置くかで戦術が変わる。オールドカスタマーとニューカスタマーは金銭感覚も消費性向も異なるから、当然価格体系も利益構造も変わるだろう。選ばれるプログラム商品も時間経過と共に変わるはずである。例えば初めのうちは初心者プログラムが主力商品だったとしても、やがて中級者プログラムが主力に変わるはずだし、初心者と中級者では消費金額が異なる。休眠オールドカスタマーが復帰するときには家族や近隣のヤングカスタマーを同伴する可能性が高い。
このようにセールスコントロールは顧客変化に対応して商品構成を調整し、価格体系を変えて全体利益が増えるようマネジメントすることを言うのである。身近なところではファミリーレストランやコンビニエンスストア、量販店などが頻繁にセールスコントロールをしているから観察してみると参考になるだろう。