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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第二章 フィナンシャルマネジメント
Section 3 バジェットコントロール

コストとセールスコントロールつまり費用と収益をコントロールすることは、バジェットつまり予算編成を調整変化させることに他ならない。予算とは常に予定や予測を裏切るものと断定して憚らない。費用とは常に予定を上回り、収益とは常に予測を下回る傾向をもつ。国家予算も企業予算も家計予算も、殆んどがこの原則に悩まされる。全ての事業やビジネスは予算編成のもとに実施されるが、その殆んどが途中で予算変更や事業見直しを迫られる。予算どおりに進む方が稀である。
「それなら最初から予算なんか必要ない」ではマネジメント科学の出番はなくなる。緻密な計算と周到な予測を立てても齟齬が生じるのに、何の予想も予測もたてなければ、取り返しの付かない結果を招くことは目に見えている。多くの崩壊国家、破綻企業、自己破産が証明している。予算管理は事業や企業の財政を健全に維持するのに必要な守備体制として、欠かすことのできない目的手段としての役割を負っている。
しかしバジェットコントロールという概念はもっと積極的な目的や手段としての役割を負っている。難しい表現をすれば、もてる経営資源を有効に市場に適応させて継続的に最適利益を確保する管理技術である。分かり易くいえば、限られた費用予算を効率的に使って目標売上を上げ、適正利潤を継続的に確保していく経営管理手法である。
バジェットコントロールのもとでは、掛けるべきコストと掛けてはならないコストが明確に区分され標準数値で示されている。また達成すべき目標売上と内容が具体的な数値で示され、短期・中期・長期、季節・曜日・時間、性別・年齢・職種などさまざまな領域から売上を分析して、その市場や商品の特性を引き出していくマネジメント手法である。
コントロールというのは要素や要因を確定しないで、常に状況を分析しながら弾力的に対応していく方法を指している。国家予算は国民に犠牲を強いてでも目標や計画を達成しようとするが、企業予算は変動する市場に順応しながら進めなければならない。そこから報酬を得る家計予算は最低保障の中で、何とかやり繰りしなければならない立場にあるが、これも全てバジェットコントロールである。

コースのバジェット

ゴルフコースにバジェットはないかといえば、決してそんなことはない。特にビジネスプロに経営委託されている米国豪州カナダのコースでは、実に厳しいバジェットコントロールが求められている。コースのオーナーは一定条件の下でPGAメンバーに経営を委託する。例えば目標売上1億5000万円に対して80%の1億2000万円がバジェットとして与えられる。ヘッドプロはそのバジェットの中で専門スタッフやパートタイマーを集め、オーナーから要求されるメンテナンスとサービスを提供しなければならない。目標売上が達成できなくても契約で約束されたメンテナンスとサービスは提供しなければならないから、ヘッドプロは自分の報酬をカットしてでもスタッフを維持し、契約によるサービスを提供する。バジェットコントロールを誤れば契約は解除され全員が失業する。逆にプロショップ、レストラン、スクールやイベントなどのサービスプログラムの売上を伸ばして収益を上げれば、成功報酬としてボーナスになる。このシステムを聞いただけでバジェットコントロールの重要性が理解できるであろう。
バジェットがなければコース経営を委託することができないし、請け負うこともできない。バジェットはリスクとチャンスの限界分岐点で与えられ、ヘッドプロは自分のマネジメント能力が試される。マネジメントを怠りコントロールを誤れば、自分は一銭の報酬も得られずスタッフを失業させてしまう。プロスポーツの世界では監督も選手も同じような条件で契約しているし、日本の伝統職業も同じようなシステムで成り立っていた。番頭、頭領,船頭、組頭、親方などと呼ばれる職業人も大店、網元、家元、元締、庄屋といわれる家系からマネジメントを預かる立場にあった。マネジメントを怠りコントロールを誤れば役目御免や失職が待ち受け、成功すれば経済的・社会的地位が約束された。

日本式マネジメント

世界一のマーケットにあぐらをかく日本のコースのマネジメントに本当の意味のバジェットコントロールはない。世界一の料金を掲げても顧客は減らないし来客の多い休日は平日の倍料金が通用する。お天気商売、客待ち経営が成り立ったコース経営にマネジメント概念もコストコントロールもあるはずがないが、いつまでも殿様商売が通用する時代ではないから、やがて意識改革が迫られることになるだろう。
黒字経営といわれるコースの決算書を見て驚くのは、管理職の高額給与やクラブハウスの固定資産税が親会社負担になり、営業収支は赤字でも多額の名義書換料が営業外収益に計上され、減価償却引当金や修繕引当金が殆んど計上されていないケースも多いことだ。また肥料薬剤の標準価格や標準使用量が設定されずに納品書や請求書にメクラ判が押され、トップマネジメントにコスト管理意識が全くないケースも多い。コストコントロールやコストパフォーマンスの認識が乏しく、正社員のハウスキャディーに仕事がない日は横一列に並んで草むしりする姿は良く見かけるし、管理職がコース見回りと称してゴルフをしている姿も良く見る。経済産業省統計による全国コースの平均社員売上は一人当たり700万円を割っており、極めてコストパフォーマンスは低い。コーススタッフの平均労働時間は実質4~5時間程度といわれており労働効率も悪いが、原因は仕事量に対して社員が多すぎるからに他ならない。
日本のコース経営が役所以上に役所的になった背景には、世界一のマーケットがあったことは否定できないが、一般製造業やサービス業が容赦のないグローバル化にさらされている中で、なにゆえゴルフに限ってグローバル化しないのか私には分からない。グローバル化は消費者にとっては大きなメリットであるが、生産者や労働者にとってはデメリットが大きい。低料金や低賃金で早朝から夜間まで働かなくとも、のんびりと高姿勢で働けたらこんな楽なことはない。自由競争の厳しい現代社会に未だに残る特殊社会が日本式マネジメントの姿であるが、競争がないから通用する社会でもある。特殊法人、宗教法人、学校法人などの公益法人に残る特殊社会には、依然として日本式マネジメントが残っているものの、段々と姿を消していることも事実である。ちなみに日本ゴルフ協会(JGA)、日本プロゴルフ協会(PGA)、東京ゴルフ倶楽部、霞ヶ関カンツリー倶楽部など、みな公益法人である。

今後のバジェットコントロール

長期低迷経済や震災によるマーケット縮小時代にあって、一般ゴルフコースは厳しい価格競争にさらされている。都市と地方の料金格差は広がりつつあり、低料金の波は徐々に都市部へと迫ってきている。コースの売上は入場者数に比例するが、入場者数そのものに限界があり、通常一日200人・年間50,000人とされている。しかし全国平均すると年間35,000人を割ってきており、平均稼働率は70%であることを物語っている。現行料金体系のままで入場者数が増加することは考えにくいが、セールスコントロールによって商品構成を多様化し、料金体系を多元化すれば総売上を多少なりとも増加させることができるかもしれない。
しかし増収となっても増益になる保障は全くない。なぜならばセールスコントロールだけでコストコントロールが機能しなければ、片輪運転となり収益には結びつかないからである。バジェットコントロールはセールスとコストの両輪運転を意味し、両輪のバランスが保たれてはじめてパワーアップに繋がる。さらに重要なことはマーケット縮小・需要減少の時代にあっては、大胆なダウンサイジング(経営規模縮小)戦略を敢行しなければ命取りになりかねない。日本のコース経営は一般中小企業と同じ、時代変化や社会変化に対して対応が遅れたことによって多くの犠牲を出した。マーケット縮小や需要減少をバブル崩壊や震災による不景気が原因としてきた。だから時が経てば、経済政策を間違わなければ必ず景気は回復すると考えてきたが、この考えはお天気商売と何ら変わることのない無策に近いものである。
グローバル化とはあらゆるものが国際標準化していくことだから、日本のゴルフマーケットも間違いなく国際標準化するだろうと考えるべきである。そうなればプレー代も国際標準料金の3,000円に限りなく近づくと考えるのが正当であり、欧米諸国では大統領もセルフプレーをしているからには、日本のゴルファーも間もなくセルフプレーになるだろうと考える方が正しいはずだ。この経営規模は現代日本の常識では考えられないかもしれないが、時代常識は時代変化や社会変化の前には実にはかないものである。時代変化や社会変化に耐えられるものは原理原則だけである。原理原則に従って国際標準が定まったとするならば、時代変化や社会変化している現実の中で料金もプレースタイルも国際標準に向かうと考える方が常識的なはずだ。

バジェットコントロールの実際

日本のコース経営に本格的なバジェットコントロールを導入するには、コース経営に対する考え方を根本から変えなければならない。国際標準料金に従うとなれば、まず売上分母を大幅にダウンサイジングしなければならないが、その幅は2割から3割ではなく、1/2から1/3という途方もないものである。それだけの大改革が果たして実行できるかとなれば誰もができないと考えるだろう。それが常識というもので、常識的に対応したコースの三分の一が既に経営破綻した。今後も従来の常識に従えば多くのコースが経営破綻するだろう。常識に従って破綻したコースは、同じ常識に従っては経営再建することができない。従来の非常識つまり原理原則に従った国際標準に従わなければ事業再生はできないのである。
欧米でできたことが日本でできない訳がない、欧米人にできたことが日本人にできない訳がない。それぐらいの気概がなければ大胆な改革はできない。「座して死を待つ」よりは「攻めて勝を得る」べきである。最初に改革を断行したものは一人勝ちを納めるに違いないが、それは日本だから言えることで欧米から見れば単なる常識に過ぎない。
企業によらず家計によらず、売上や収入が半分になったり1/3になることは日常いくらでもあることで、特に驚くに値しない。バジェットを組むにとき、既成概念や現状を全て忘れ去り、新たなパラダイムによって標準料金×標準入場者を売上とする。次に費用三分原則に従って給与経費・一般経費・資本経費に分割し、与えられるバジェットの中で何ができるか考える。つまりコストパフォーマンスを追及してみる。経費はそれぞれ固定費と変動費に分け、できるだけ固定費を少なくして変動費化する。そして損益分岐点の計算式に従い損益分岐点を求める。
<損益分岐点=固定費÷利益率>であるから、固定費を年間8,000万円とし、利益率を80%とするならば 8,000万円÷0.8=1億円(損益分岐点)となる。
これはひとつのモデルケースに過ぎないが、この例から理解できることは、損益分岐点を把握すれば、4,000円のプレー代なら25,000人の入場者で損益分岐点に到達し、それを越えた入場者は1,000円割り引いても一人当たり2,400円の純利益が得られることになる。その結果、入場者総数35,000人、売上1億3,000万円、純利益2,400万円(利益率18%)の基本バジェットができる。
バジェットコントロールはここを出発点にスタートするが、売上項目はフードビバレッジ(飲食物)・ゴルフ用品・乗用カートなど安定した利益率のアイテムと所有施設を使ったスクール・イベントの開催や施設貸与など利益率の高いアイテムがある。売上項目の組合せや比率配分、利益計算がセールスコントロールでありバジェットコントロールの基盤となる。

 

参照:
ゴルフ経営原論 第一部 第四章 Section 6

マネジメントの意味

マネジメントを管理と理解し、コントロールを制御と解釈すると経営マネジメントは実に消極的な存在となり発展性を失う。マネジメントにはもっと積極的で発展的な意味合いがあり、事業や組織、集団や個人を活性化にするものでなければならない。
マネジメントとは組織や個人が有する潜在パフォーマンスを最大限に引き出す管理技術と定義した。それならば与えられた経営資源とバジェットを使って最適利益を追及しようとするのがフィナンシャルマネジメントであり、予算の調整や組替えによって最大利益を追求しようとするのがバジェットコントロールということになる。主力商品となるコース売上で安定利益を確保すれば、他の売上アイテムは利益率やコストパフォーマンスを検討しながら比率配分を調整し、商品入れ替えを行うならば本業を妨げることなく、より高い全体利益が得られるはずである。