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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第五章 マネジメント戦略
Section 1 作業標準化とスタッフトレーニング

仕事にしろ作業にしろ行き当たりばったり、好き勝手は許されない。ビジネスの世界では完成時間、コスト、完成度など世間相場と比較して評価されるが、ここにもローカルスタンダード、ディファクトスタンダード、グローバルスタンダードの標準があって、当然のことながらゴルフビジネスの世界でも厳しく標準化が求められるようになってきた。
例えば18ホールの管理維持費を見ると日本のディファクトスタンダードではAクラス1億2000万円前後、Bクラス8000万円前後、Cクラス4000万円前後で、米国のディファクトスタンダードではAクラス8000万円前後、Bクラス4000万円前後、Cクラス2000万円前後である。また全体経費額は日本の平均3億円前後に対して米国は平均1億円前後であり、全体経費のうち人件費の占める割合は日本が約60%、米国は約40%である。
日米のディファクトスタンダードを単純比較したとき、この差異はどこから生じるものか素朴な疑問を抱かざるを得ない。米国カナダ豪州でゴルフをした経験があれば分かるが、料金が安いからといって決して管理が悪いわけではない。一言でいえば日本のディファクトスタンダードに占める人件費の割合も絶対額も高過ぎるのである。なぜ世界一高いのか、どうすればグローバルスタンダードに近づくことができるのか、それが本章の重要テーマである。

マネジメントと管理

「マネジメント」とは人や組織の潜在パフォーマンスを最大限に引き出すことと定義した。それに対して「管理」とは現状パフォーマンスを毀損しないよう維持することと定義することができる。
1970~80年代にかけて日本経済の高度成長に乗ってゴルフマーケットも急成長した。一年に100コース近いコースがオープンした時期もあり、1000万円以上する会員権がオープン前に売切れてしまう時代でもあった。そのうえ需要も旺盛で休日にゴルフをすることは困難を極めた。料金をいくら高くしても予約が取れない状態が続き、コースの財政は正月の神社のようであった。一流コースの条件は会員権が高く料金が高いことであったから、コースは競って料金を上げ人手を増やした。コース経営者もスタッフもこのパフォーマンスを永久に維持したかったに違いない。
1990年代になってまず日本経済が崩壊しゴルフマーケットも道連れになったが、コースの経営システムだけは崩壊せずに残ってしまった。ここに世界一高いディファクトスタンダードができた原因が潜んでいるが、今となっては日本だけのローカルスタンダードというべきだろう。
ではどうすればグローバルスタンダードに近づくことができるか考えるならば、まず定義に従って経営体制を「管理体制」から「マネジメント体制」に変えなければならない。現状維持している管理体制のうち、特に人件費を重点にコストパフォーマンスを検証し直すことから始める必要がある。組織が最もやりたくないことであり、現場が最も抵抗することだからである。
マネジメント体制による作業の第一歩は、作業分析と各作業に要する標準時間及び標準コストを割り出すことことである。同時に各作業の必要性や重要性も検証しなければならないが、戦略的マネジメントにとって重要なことは、常に明確な戦略がマネジメント体制をリードし続けることにある。戦略なきマネジメントは組織に混乱を招き、現場に抵抗勢力をつくる。明確な戦略を打ち出したうえでマネジメント体制をつくらないと、反って組織や人に潜在するネガティブ・パフォーマンスを引き出してしまう恐れがある。

戦略的マネジメントと作業標準

経営戦略として純粋メンバー制・地域コミュニティ制・リゾートパブック制の経営ポリシーを決定し、A・B・Cクラスの目標標準を設定しなければならない。破綻ないし破綻しそうな経営はポリシーも目標も設定されていないか、されていたとしても間違ったポリシーや目標を設定している場合が多い。
経営戦略には基本的に3体制×3クラス=9種類の選択肢があることになる。Aクラス純粋メンバー制コースとCクラスリゾートパブリック制コースとでは戦略やマネジメントに天と地の違いがあって当然である。
Aクラスメンバーコースが20万円の年会費を徴収する代わりに、会員及び家族同伴者以外のビジターを一切シャットアウトし、来場者全員をゲストとして受け入れるのもポリシーである。そのうえAクラスに見合った立派なクラブハウスも良く整備されたコースも、Aクラスメンバーコースの象徴として評価されるだろう。当然、会員満足度の高いサービス体制と作業標準が設定され、会員であることの喜びと満足が得られるマネジメント体制が採られる。反対にCクラスリゾートパブリックが低料金で誰でもプレーできるポリシーを打ち出せば、エチケットマナーだの技量服装だのとやかく言うべきではない。
粗末な番小屋で料金を払い(途中で巡回員に料金を払うこともある)、一端コースに出たら何の制約もない代わりに何のサービスもない。グリーン上にピンフラッグが立っているだけで(時には前のプレーヤーが忘れていることもある)、自然公園やハイキングコースと同じコンセプトのマネジメント体制が採られる。一度ゴルフをしてみたいと思った旅人や、家族に一度ゴルフをさせたいと思った人が家族連れでゴルフをしても、安全に注意すれば自由にプレーさせる。
このようなコースでは最大限に人が手を加えない、干渉しないことを戦略的マネジメントポリシーとし、コースの秩序やモラルはカスタマーの主体性に委ねるべきだが、安全に対する管理体制は重要テーマとして明確な基準と作業標準を設定しておかなければならない。

作業標準の設定

戦略ポリシーとして経営タイプと目標グレードが定まったら、マネジメントの基本として標準予算の設定からはじめる。
例えばBクラスの地域コミュニティ制コースを戦略ポリシーとして選択したならば、料金4,000円×年間入場者3万人=1億2,000万円を標準に予算を編成する。コスト三分割概念に従えば、給与経費4,000万円の枠内で人員配置を考えなければならないが、フロントヤードを重視するかバックヤードを重視するか、経営方針によって作業内容も作業標準も異なってくる。地域コミュニティを育てる方針ならばフロントヤード重視型の経営体制を採り、作業内容はプロモーションやエデュケーション活動が主体になる。
年間スケジュールに従って作業標準が設定され、活動が活発になれば育ったコミュニティサークルからボランティアやアルバイト研修を募り、作業標準の不備を補完する。標準予算を超えて順調な売上が得られたからといって、安易にスタッフを増やし作業標準を変えてはならない。なぜならば安易な変更が損益分岐点を押し上げ、標準予算そのものを変えてマネジメント体制を崩すことになるからである。戦略体制を維持したとき初めてそこから利益体質が生まれ、戦略的マネジメントの成果が得られることを忘れてはならない。
反対に実績が上がらないときはどうするか。安易に戦略ポリシーや標準予算を変えるべきではなく、むしろ実行してきた作業標準を見直すべきである。プロモーションやエデュケーションの方法内容に問題がなかったか、プログラムを修正する必要があるか、マーケティングをやり直してみるかなど外部専門家も交えて戦術を検討してみることも大切である。ただしエデュケーションの成果やプロモーションの効果が現れるのに時間がかかることを決して忘れてはならない。養殖や栽培と同じで焦って中途断念したら、今までの作業努力が全て徒労に終るからである。作業標準化は同じ作業を継続させる目的があり、継続によるパワーの蓄積が狙いでもある。

スタッフトレーニング

設定された作業標準を継続することはスタッフトレーニングにも繋がる。『ゴルフ基礎原論』『インストラクターズガイド ‐基礎理論編‐ 』にあるトレーニング論と同じように、ビジネストレーニングにおいても科学的システマティックに行われなければ効果的ではない。ウィンスローテイラーによって科学的管理法が研究開発されて1世紀を経たが、その原理原則が変わった訳ではない。システマティックに作業標準化された仕事を反復継続することによって、体系的に確立した高度な管理体制を維持する手法は何ら変わらない。トヨタもセブンイレブンもクロネコヤマトも基本原則を忠実に守った結果であるに違いない。
ところがゴルフビジネスにおけるスタッフレーニングは全く確立されていないが、理由は作業標準化が進んでいないからである。NGF FAR EASTは1979年スクールのフランチャイズ展開を始めたが、当時40教程の長期カリキュラムをスクール形態で指導できるプロは一人もいなかった。
誰もがワンポイントの矯正レッスンしかしたことがない時代に、体系化された長期カリキュラムによるグループ育成レッスンを行うことは画餅に近い理想論だった。各教程の指導局面毎に内容を標準化し、誰でも指導できるようにテキストが編纂されていたが、ベテランプロも米国と日本で開催されるセミナーに熱心に参加することによって、初めて自信を持ってスクール教師を務めることができるようになった。数十回に及ぶトレーニングセミナーを経て1990年、『LDバーコード式40教程スクールテキスト』と『スクールオペレーションマニュアル』が完成したが、このシステムを使うことがインストラクターのトレーニングになることで高い評価を得たものの、実際はシステムやマニュアルを疎かにしてクラスやスクールを崩壊させてしまった指導員も多い。
標準化された作業とスタッフトレーニングを継続的に実施することが、高度な戦略的マネジメントを成功させるのに如何に大切か現実をもって痛感させられるのである。