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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第五章 マネジメント戦略
Section 3 エイティーン編成とチームマネジメント

マネジメント戦略を考えるうえで軍事戦略や資本戦略との違いを承知しておく必要があるだろう。歴史的に軍事戦略を練るうえで兵の数つまり兵力は決定的な要因であった。敵の兵力と味方の兵力を比較して大きな差がある場合には、決戦を避けて撤退または和睦を選択するのが軍事戦略である。戦争の歴史の中で少兵が大軍を打ち破った例は殆んどなく、古代イスラエルがペリシテ人と戦ったとき少年ダビデの投石で敵の巨人ゴリアテを倒して大勝利を収めた例や、桶狭間の戦いで織田信長が僅かな兵を率いて今川義元を討ちとった例など戦略というより奇襲によるものであった。
資本戦略の場合にも資本の額が決定的な要因になる。大資本を前にして小資本は戦う術がない。独占禁止法というルールをつくらなければならないほど、小資本は大資本に次々と吸収合併されていったが、この資本支配の原理を資本戦略といっている。
これらに対して団体スポーツの戦略は同一条件のもとに戦われることが前程になっている点が異なる。敵も味方も同じ人数、同じ陣形で戦い適用されるルールも同一である。それだけに違反や故障で主力選手を欠くことやチームワークが乱れることが敗因になることが多い。だから選手ひとり一人のパフォーマンスを大切にし、チームワークを尊重することが戦略である。
ところが情報通信革命はIT社会を創り、ビジネスのマネジメント戦略を根底から変えてしまったようだ。兵力や資本力という量の戦いでもなく、優秀な選手を揃えるという人材の戦いでもない。IT社会の戦いは情報発信力や情報操作力といわれる既成概念を超越した要因によって行われるから、従来の常識や基準で判断することができない。
FaceBookという何の兵力も持たないITシステムによって、何ゆえ強力な軍事独裁政権が倒されるのか。一人の学生起業家が考案した新しいITシステムによって、何ゆえ大企業が育ち大資本を形成するのか。社会を構成する人間の本質は何も変わらないのに、何ゆえ社会だけが変わっていくのか。現代は謎だらけの時代である。

パワーの源泉

軍事パワーは兵器の威力や兵員の人数によって測られる。企業パワーは組織の大きさや資金力によって決まる。従来パワーの源泉はヒト・モノ・カネを三資源として質よりも量をもってパワーとしてきた。競技パワーは決められた定員による技術力と結束力がパワーの源泉である。今まで集団や組織のパワーは弱肉強食、優勝劣敗の構造原理を立証するものと考えられてきたが、どうもその考えが現代社会に当てはまらなくなってきたのである。
IT社会というのは情報ネットワークされたサイバーワールドのことだが、実際は小さなITチップスに収まってしまうミクロの世界に過ぎないのではないか。ムバラク大統領といえば、3000年前にモーセ率いる100万余のユダヤ民族を弾圧したエジプト王パロに該当する権力者である。その権力者がFaceBookというシステムでネットワークされた非力な大衆によって簡単に倒されてしまったが、そのパワーの源泉はどこにあるのか。社会を動かす構造力学が根本から代わってしまったのか、あるいは私たちが本来の原理原則を知らなかったのか、まこと理解に苦しむ。
日本の社会構造を改革しなければ、これ以上の発展は望めないとする構造改革論も永年にわたって空回りしているが、本来改革を進めるパワーの源泉はどこにあるのか、まだ誰にも分からない。しかし、現代社会を大きく変えているのはITマネジメントシステムであることは間違いなさそうだ。もしそうだとすればイノベーションパワーの源泉は、このシステムにあるのではないかと考えたくなるのである。

戦力の厳選

ITマネジメントシステムは情報ネットワークによって機能する。例えば金融業の代表とされる銀行には店員がいなくなってしまい、ATMと称するITボックスが並んでいるだけである。銀行は金銭出納や振替振込などの取引や決済機能を情報とするITネットワークによって手数料を稼ぐ情報処理機関に変わった。小売業の代表とされるコンビニエンス・ストアはアルバイト店員が24時間店番をしている日用雑貨商であるが、高度なITマネジメントシステムで情報ネットワークされたハイテク小売店である。公共料金の支払や宅配便の取次ぎ、スポーツイベントのチケット手配もする、まさにその名の通り「便利屋」である。
マネジメントシステムのIT化はビジネスの姿を変え、マネジメントの在り方も変えている。人が人をマネジメントするシステムから、システムがシステムをマネジメントする時代になってしまったように思える。人の必要はどこに残されているのか寂しい限りであるが、早まってはいけない。システムはどこまで進化してもシステムで、ユーザーやカスタマーといわれる利用者がいなければ何の存在価値もない。システムにパワーがあるのではない。システムを構築した人の知恵や技術にパワーの源泉があるのであって、システムそのものは知的パワーを増幅する役目しか負っていない。
このシステムを使って巧みにマネジメントしビジネス展開するプロフェッショナルこそ、ビジネスプロといわれる経済戦士である。ビジネスプロはシステムを戦略的に駆使して、経済戦争といわれる優勝劣敗の競争社会を勝ち抜く勇士である。あたかも最新鋭イージス艦の艦長の如く巨大戦艦、巨大空母、大型ミサイルを敵に回して堂々と互角以上の勝負を挑む戦略家でもある。彼を支えるスタッフはひとり一人が自立心と協調性を備え、良くトレーニングされた兵士でなければならない。それ故にプロスタッフと呼ばれる。

少数精鋭部隊

ある目的のために組まれたシステムやチームには機能を阻害するような要因やスタッフは排除される。銀行ATMに音楽配信サービスやカーナビゲーション機能が要らないように、コースのマネジメントチームにとってキャディーサービスや接待機能は要らない。
コース経営のマネジメント観点から集約すれば、フロントヤードは予約・受付・会計機能とエデュケーション・プロモーションサービスが、バックヤードは施設管理機能とメンテナンスサービスで充分である。
その他の機能やサービスを全面的に排除すれば、人的要員としてトップマネジメント3名(ゼネラルマネージャー、セールスマネージャー、グリーンキーパー)、レギュラースタッフ6名(フロントヤード3名+バックヤード3名)、アシスタント・カバースタッフ9名の18名体制を理想とする。
トップマネジメント以外の15名のスタッフは契約・正社員あるいは常勤・非常勤に係わりなく、オールラウンドの機能を持ったプロスタッフでありたい。ジョブ(インストラクション、プロモーション、ガーデニング)は専門色の強い仕事であるからオールラウンドである必要はないが、標準化されたタスクはフロントヤード・バックヤード問わず、いつでもカバーに入れる体制をとっていなければならない。そのために作業標準化を進め、ポジションのシフト制を採用するのである。
チームを編成した18名(エイティーン)は常時全員が出勤しているわけではない。ゼネラルマネージャーはシーズン・曜日・時間を考慮して必要最小限の人員を現場に配置し、余力をより生産性の高いエデュケーション・プロモーションジョブに充て、コースの付加価値を高めるガーデニングやコース改造に向けてコストパフォーマンスを高めようと努める。
エイティーンは少数精鋭部隊として常に頭を働かせ、与えられたジョブテーマを研究し実践する反面、担当ポジションの日常タスクを消化する能力を持ち合わせていなければならない。それ故にプロスタッフといわれるが、プロスタッフはチームの一員として日々研鑽し、常にもてる最高パフォーマンスを発揮する心構えと、それを裏付ける能力を兼ね備えていなければならない。

チームマネジメント

エイティーンはゼネラルマネージャーをリーダーとして編成されたチームであるから、ひとつのポリシーひとつの戦略に統一された共同体とも考えられる。国家・社会・企業・団体いずれをとっても集団の中に連帯意識が目覚めるには、共通の理念や目標、利害の一致が必要と考えられる。それ故チームマネジメントを進めるうえで大切なことは、リーダーが共通の理念や目標を明確に掲げることで、理念や目標が曖昧では決してチームに連帯意識が生まれない。だからといって掲げた理念や目標がチームメンバーの利害に反するようであれば、チームは反リーダーで結束してしまうだろう。このような現象は国家ならばクーデターに、共同体ならば反乱に発展するが、チームの場合には士気の低下や生産性の低下、成績不振や業績不振というカタチで現れる。
チームマネジメントは集団のパフォーマンスを引き出す戦略であるが、戦術を誤れば負のパフォーマンスを引き出し反動抵抗勢力に成長することがある。その原因の殆んどが経済的利害の不一致であるが、権力者と大衆間の不一致はクーデターに、経営者と労働者間の不一致は労働運動に、リーダーとスタッフ間の不一致はサボタージュという形で現れる。
『七つの習慣』の著者スティーブン・コビーは「個人の自立と集団との相互依存関係」という表現をしているが、言い換えればスタッフとチームの利害の一致という意味である。両者の関係をマネジメントするリーダーつまりゼネラルマネージャーが自己の利益誘導に走ることや、チームの利益を優先する余りスタッフに多大な犠牲を強いることは明らかに利害の不一致を生む。リーダーが掲げる理念や目標が、チームの繁栄とスタッフの利益を実現するものであれば利害は一致して集団パワーが生まれる。これはマフィアの組織にも通用する原則で、グループダイナミックス効果とも考えられる。
チームマネジメントにとって重要なことは理念や目標を掲げることと利害の一致を見ることであって、リーダーシップや連帯意識、自覚や責任感は付随して育ってくる要因と考えられる。というのは付随要因を先に語ると理念や目標がぼけて、他人批判が絶えない体質をつくりチームワークを壊す恐れがあるからといえる。チームマネジメントの戦略戦術も人間の本質や社会の原則から逸脱することはできない。逸脱すれば一時成功することがあっても、決して長期の繁栄や利益を保証するものではないことを多くの歴史が証明している。