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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第五章 マネジメント戦略
Section 2 ポジションとシフト性

高度な戦略的マネジメントが成功するには組織や事業所に一体感が生まれなければ大きな集団パフォーマンスには繋がらない。作業標準化とトレーニングによって個人のパフォーマンスを引き出すことができても、組織全体の集団シナジー効果が現れなければ戦略にはならない。団体競技にしてもビジネス組織にしても、個人プレーの集合では組織力にならないことはよく言われる。各球団のエース9人集めても強いチームにならないし、社長や部長を何十人集めてもろくな会社にならない。
チームとはお互いのポジションを信頼し合うことによって高度な連携プレーを生み、相乗効果を発揮して強力な組織力をつくり出すシステムのことである。個の信頼関係から創造される組織力と表現しても良いだろう。チームプレーから生まれる総合力はシナジー効果といわれる相乗効果によって個の総力を遥かに凌駕する。学習心理学でいうグループダイナミックス効果によく似ている。

ポジション

団体競技もビジネス組織も責任を負うべきポジションがある。そのポジションを任されたものは全力で責任を果たし、そのポジションを死守しようとする。しかし能力不足や怠慢によって全力に期待できないとき、そのポジションがチーム全体の信頼関係を揺るがすが、悪くすると自分のポジションを守ることに戦々恐々として、改革カイゼンを阻む抵抗勢力になりかねない。
ポジション争いは両刃のヤイバである。草野球や草サッカーチームではヘタな者をライトやゴールキーパーに配備するが、プロチームはライトやゴールキーパーに名手を配備する。団体競技では最も敵に攻撃され易いポジションを強化してチーム全体の信頼関係を増幅するためである。少数精鋭チームには必ず責任ポジションがありチーム全体のスキをつくらないよう配慮されていると同時に、全員が各ポジションの役割と重要性をよく理解している。
人員過剰組織は連帯責任と称して責任者不在のポジションが多く、全力を出す者も最終責任を取る者もいないのが常である。責任ポジションのないチームワークを「オミコシ体制」というが、神輿は本来8人で担げるものを、お祭り気分で何十人もの人が群がってワッショイワッショイ担いだ振りをしているから、そのように表現される。
成長期の企業・組織・国家に良く見られる姿だが、日本アジア中国のコース経営は「オミコシ体制」そのものである。人手が多過ぎるうえ仕事や作業の内容が分類整理されていないので、各自役割や作業内容を把握していない。そのため、どうでもよい仕事や簡単な作業にも大勢群がって、ひとり一人自分の存在価値をアピ-ルせざるを得ない立場に立たされてしまう。有能な者はバカバカしくなってオミコシ体制から抜け出ていくため、あとに烏合の集が残る。
本来、コースの経営マネジメントには三つのポジションしかない。経営責任者(ゼネラルマネージャー)、営業責任者(セールスマネージャー)、管理責任者(グリーンキーパー)の三名である。それ以外のスタッフは各ポジションをカバーするか責任者をアシストする役目を負うが、実質的に最少人数で充分であり、多すぎればコストパフォーマンスが低下する。各ポジションをカバーしアシストするスタッフを米国ではアシスタントプロといっているが、スタッフは各ポジションの仕事や作業について充分トレーニングされていなければ戦力にならない。トレーニングされたスタッフを通常はプロスタッフという。

ポジションのシフト

コース経営における三つのポジションは性格も内容も全く異なるが、相互に関連し相互依存関係にある。どのポジションも他のポジションと無関係に独立する訳にはいかないし、まして孤立されては戦略も立てられなければマネジメントもできない。
そこで関連性を理解させるためにスタッフ全員に三つのポジションを体験させる方法がある。各ポジションを定期的にシフトしていくことによって現場体験をしながら各ポジションの仕事や作業内容を知り、相互関連性を理解させるシフト制TOJ(Training on the job)である。この方法によれば各ポジションに配置されたとき、他のポジションとの関係や関連性が理解できるだけでなく、他のポジションをサポートするためには、いつ・何を・どのように(When・What・How)しなければならないか、具体的かつ現実的に対応することができるようになる。
フロントヤードとバックヤードは定期的にシフトした方が勉強になるが、ゼネラルマネジメントのポジションは高度な専門知識が必要なので簡単にポジションをシフトできないが、現場を知りいつでも緊急対応できるようにフロントヤード、バックヤードを体験しておくことは大切である。
各ポジションのジョブやタスクは標準化しておけば特別な能力や経験を必要としないはずだから、男女・年齢・経験・雇用条件にかかわらずスタッフ全員をシフトの対象としてトレーニングすべきである。男性がフロント応対に立ち、女性がギャングモアやブルドーザーを操作することに躊躇すべきではない。既に他の業種では男性が美容士になり、女性が大型トレーラーや列車を運転している。それは作業標準化を進め、仕事や作業をEasy&Simpleにしてオールラウンドの有能なプロスタッフを養成する必要条件である。

プロスタッフのチームプレー

ソフトボールやサッカーの国際試合で女子チームがすばらしいチームプレーを披露しているが、スポーツのみならずビジネスの世界でも女性プロスタッフの活躍が期待されている。既に教育・医療・航空・アパレル業界などでは女性プロスタッフの優越性が証明されているが、今後ゴルフビジネス特にコース練習場にプロスタッフが育ち、経営を一変させることは想像に難くない。
男性より女性の方が協調性に優れており、個人プレーに走ることなくチームプレーに徹する素質があるように思うが、作業標準化が進めば女性プロスタッフが増えるに違いない。フロントヤードのジョブやタスクが女性向であることは証明済みだが、バックヤードのジョブやタスクが園芸・ガーデニングの延長であることを考えると、これから興味を持つ女性が一気に増えるのではないか。
団体スポーツの世界で立証されているように、プロスタッフのチームワークは感動的で芸術的である。共通の目標に向かって個人が組織に献身する姿であり、敗北という屈辱や勝利という感動を共有する姿だからである。団体スポーツの世界で育ったプロスタッフのチームプレーが、経済合理性の支配するビジネスの世界でも通用するか疑問視する見解もあるだろうが、その心配は必要ない。米国カナダ豪州のプロ集団によるコース経営請負制度が成功し定着しているし、日本においても中小零細企業や開発プロジェクトチームが数々の偉業を成し遂げている。特に日本人は個人プレーよりも団体プレーに優れているといわれるが、それは民族特性よりも、その時代の社会思想や社会構造に影響されたものと考える方が合理的である。
特定集団に対する帰属意識や個人を犠牲にした団体プレーは、ポリシーを持ったリーダーや教育システムなくしては絶対にあり得ない。すべてマネジメント戦略の成果と考えるべきである。