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National Golf Foundation College Textbooks
THE BUSINESS FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
おわりに

本書を書き終えた2011年8月25日、パソコン開発者アップル社CEOスティーブ・ジョブスが引退表明した。まだ56歳という年齢だが身体はぼろぼろだという。21歳のとき自宅でパソコンを開発した天才児は情報通信革命といわれる第三次産業革命の火付人ということになる。
1978年私が初めて渡米しPGA of Americaの本部を訪ねたとき、PGA本部は広い部屋に50台ほどのパソコンを並べ一斉にキーボードを叩く音がする異様な雰囲気が漂うところだった。その時は未だPGAがビジネスプロ団体だということを知らなかったが、PGAは全米のゴルフコースに専門経営者を送り込み、コースとプロショップの経営権を支配する団体だったのである。だからゴルフプロフェッショナルといわれるPGAメンバーは自分のプレーには関心がなく、ひたすらゴルフ場経営や芝草管理、プロショップの経営やレストラン管理、ジュニア育成や地域コミュニティ運営に情熱を注いでいたのである。
プロといえばトーナメントプロ、PGAとはトーナメントプロの団体と思い込んでいた私は、帰国してから日本の人たちに米国PGAを理解してもらおうと懸命に説明したが至難の業だった。いまだに多くの人が日本と同様に米国PGAもプレーヤーの団体だと思い込んでいる。
米国PGAのメンバーは、大学のゴルフ経営学科を卒業した段階でPGAの実技テストを受け、2ラウンド12オーバー以下で回った者だけがPGA研修生として受け入れられ、コースに就職して約2年の研修を受けたあと最終試験に合格して会員になる。PGAメンバーへの道は医師や弁護士のように厳しい道のりであって、簡単にはなれないエリートコースでもある。大学入学時点で既にハンディキャップ8以下の技量が問われ、入学後にPGAが公認する科目30単位を履修合格していなければならない。トーナメントに出て活躍できなかったからPGAメンバーになるという安易な道ではない。トーナメントを引退して横すべりできる世界ではないから、大学入学時点で進路を決めなければならない。
私が米国に渡って最初に会ったPGAメンバーはTom Addisであるが、彼は既にサンディエゴSinging Hills C.C.のヘッドプロを勤める新進気鋭のビジネスプロで、コース運営、芝草管理、ショップ経営、フードサービス、ジュニア育成に精通するだけでなく、USGAの規則委員やハンディキャプ委員、ジュニアゴルフ協会の理事などの要職にも就いていた。トム・アディス32歳、私35歳のときだがそれ以来、私はゴルフビジネスに関してあらゆることを彼から学ぶことになった。彼はその後、予想通り24000人のPGAメンバーを率いる全米プロゴルフ協会PGA of Americaの会長、いわば米国ゴルフ界の大統領に就任した。
私がアジア代表を務めるNGF(National Golf Foundation)は1936年世界恐慌の最中に設立されたゴルフ振興財団で、コース開発プログラム、運営プログラム、教育プログラム、調査統計、マーケティングなどの研究開発機関である。PGAメンバーが使用するプログラムや資料の大部分がNGFから提供されているが、NGFはビジネス研究開発機関、PGAはビジネス実施団体という両者の関係を理解していないと誤解する。実はこの誤解が日本のゴルフビジネス近代化を妨げていることに気付いていない人が実に多いのではないだろうか。
1980年代当初、文部省は隆盛する全てのスポーツを文部行政下に治めようとしていたが、傘下にないゴルフは文部省の手の届かぬところで大発展していた。そこで1983年プロゴルフ協会を文部省管轄社団法人に、1987年アマチュアゴルフ協会を文部省管轄財団法人に認可し、同年両公益法人を通じて「外国技術ノウハウの導入禁止」通達を発布した。同時に両公益法人を通じて「文部省の認めない団体機関に係わった者はプロないしアマチュア資格を剥奪する」という法外な規制を敷いたため、JPGAもJGAもNGFのプログラムやノウハウを使うことができなくなってしまった。
数年来、構造改革の一環として行政改革委員会は全ての公益法人を原則廃止し見直すことになったにも拘わらず、事業仕分けは遅々として進んでいない。日本があらゆる業界において世界をリードするには構造改革を進め規制緩和をしなければならないし、日本や日本人が世界を舞台に活躍するには、極東の小さな島国に閉じこもってはならないのだ。政治家や役人が内向姿勢でコソコソ・ウジウジしている間に、中小企業や個人事業家、スポーツ選手や芸術家が世界に雄飛して大活躍しているではないか。

世界はIT時代を迎え、世界の情報ノウハウがインターネットを通して瞬時に入手できる時代になった。政府がいくら規制し隠蔽しても、情報ノウハウはインターネットを通して流失してしまうことは尖閣諸島事件や原発事故、エジプト政権やリビア独裁政治の崩壊が証明している。
米国NGFやPGAトム・アディス、ゲーリー・ワイレン博士やエド・コットレル博士の指導によって培われたNGFのソフトプログラムやノウハウをインターネット公開するならば、情報鎖国体制に拘束されていた日本の若者達が世界の進化に気が付いて、次々と世界に向けて雄飛していくに違いない。
私が35歳のときトム・アディスやゲーリー・ワイレンに会って青雲の志を抱き、日本のゴルフ近代化を夢見たものの、実際は遠い夜明けのはじまりだったことを思うと、スティーブ・ジョブスが引退したときに脱稿した本書をインターネットで上梓することに、何やら歴史的な意義を感じてしまうのだが、それも単なる私の個人的感傷に過ぎないのだろう。ともあれ、本書が世界に雄飛する若者のロードマップとして役にたってくれるなら嬉しいが、スティーブ・ジョブスは引退際に「パソコンはやがて無くなる」と言った。しかし私はまだ当分パソコンを叩き続けるつもりだ。