THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
第一部 INTRODUCTION | << | >> | 第二章 セオリー |
ゴルフの伝統的精神理念は、ジェントルマンシップを支える騎士道精神とキリスト教理念である。それゆえにゴルフでは他のスポーツには見られない厳しい道徳観や自制心が求められる。この精神理念を理解して初めてゴルフの悠久性や文化性を知ることができるし、ゲームの仕組やルールの構成が理解できる。
ゴルフの精神理念を知ることはゴルフの本質を知ることであり、ゴルフの価値そのものが相乗的に飛躍することになる。思想や文化は一朝一夕にして出来上がるものではなく、長い時間をかけて人々の思いや社会の変化の中で集積され構築され完成してきたものだけに、その足跡を辿りルーツを探求するだけでもひとつの学問領域をなし文化となりうる。
未来が神秘であると同時に過去も神秘である。なぜならば未来が神のみ知る秘密の世界であるならば、過去の人々の思いや出来事の真相も、僅かな痕跡のみ残して神の秘密の世界に属してしまうからである。神秘を探ることを探検といい科学という。現実だけに生きる人間にロマンはない。なぜならばそこに何の神秘も夢もないからである。ゴルフを遊びとするにせよ、仕事とするにせよ現実しかなければそこに文化はない。そうならテレビゲームやシミュレーションゴルフのほうがコストも安く手間隙かからない。破綻したゴルフ場はさっさと潰して自然公園にでもしたほうが市場原理や経済合理性に叶って良い。
私たちがゴルフに対して熱い思いを抱くのは、ゴルフが私たちの単調な日常生活を潤し、悲喜こもごもの感動を与え、人生そのものを学ばせてくれるからであろう。そのような思いをエートス-ethos-と呼んで、フィロソフィーの根源と考えられている。そしてこのように物質的にも数量的にも実体として捉えることができない研究領域を形而上学-metaphysics-と呼んで倫理、道徳、感情、思惟、思想などを対象とする学問となった。アリストテレスに端を発するこの領域では、私たちとの係わりにおいて西洋ではマルティン・ルターやマックス・ウェーバーが、東洋では孔子や孟子、日本では新渡戸稲造や西田幾多郎が思い浮かぶであろう。
私たちがゴルフと出会い、その魔性的魅力に引き込まれていくとき単に飛距離やスコアだけにこだわり、勝負だけに一喜一憂するならば、ただの娯楽や遊興の世界に足を踏み入れたのとなんら変わりはない。それだけに終わらせてしまうのは余りにももったいないし、長期的に見れば人生や社会の莫大な損失に繋がる。たかがゴルフごときにフィロソフィーだの形而上学だのと大上段に振りかぶっておかしいと思わず、その真髄にも触れて欲しいと思う。必ずやそれだけの価値があることを約束できるからである。
近代科学の発達はゴルフの世界にも画期的なイノベーションをもたらしたし、商業主義の発達はゴルフを世界的なショービジネスに発展させた。まだ肉体的にも精神的にも大人になりきらない10代の若者が、世界の賞金レースに出場しビジネスプロとして大人顔負けの活躍をする。商業資本主義の世界はヒーローやヒロインの出現を歓迎し、スターを広告塔にして市場拡大の手段に利用する。帝国共産主義の世界はヒーローやヒロインの出現を国威発揚の手段として国際社会における地位向上や国内政治における民意安定に利用する。これらのことは矛盾を感じながらも、人種・民族・身分・宗教・年齢の障壁を超越して、若者に夢と希望を与える効果があることは間違いない。
一方サミュエル・ハンティントン教授が「文明の衝突」で解き明かした如く21世紀のグローバル世界は近代物質文明と伝統精神文明の衝突という側面も持っている。ゴルフの世界においてもグローバル化の進む中で、明らかに英国伝統精神ゴルフは米国科学技術ゴルフに対峙し、文化として存在感を主張しようとしている。これに対して日本のゴルフは、精神の領域を置き忘れたまま商業娯楽主義に押し流されてバブル崩壊を招き、懲りもせず再び商業娯楽主義に依存して再生を図ろうとしている。
しかしながら英国伝統精神ゴルフが騎士道精神に支えられるものならば、日本には騎士道に優るとも劣らぬ伝統的武士道精神が存在する。更に近代の武士道には新渡戸稲造や内村鑑三のプロテスタント思想が注入されていることを考えれば、日本のゴルフが伝統思想や基本精神を回復するに充分な条件を備えていることが分る。野球や柔道などの国際スポーツの中に武士道精神が復活してきた背景を見れば、ゴルフに武士道精神が生かされることは自然な姿であり、理に叶っていると考えられる。特に青少年の倫理道徳教育に役立ち、日本人の精神基盤の再構築に有益であることを考えれば、ゴルフの思想理念が日本人の魂の復活にどれほど役立つか計り知れぬものがある。ゴルフの起源を訪ね、発展過程を調べるならば、ゴルフは優れた人間教育プログラムであることに気付くはずである。ゴルフを通して日本人の特性である礼儀正しさ、正義感、正直、誠実、思いやりなどの感性が養われるならば、日本人がグローバル世界で再び自信を持って活躍する時代がくるだろう。
INTRODUCTION | << | >> | 第二章 セオリー |