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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第三章 メソッド  INTRODUCTION

長い歴史を持つゴルフには、実に多くの人達によって工夫され研究された技術やテクニックが集積されている。しかし、そのほとんどは一人ひとりの工夫や研究に基づく経験から生まれたものだから、本来その本人にしか分からないものばかりである。ほとんどが多くの試行錯誤や失敗から生まれた秘訣で、秘訣にたどり着くまでの道のりには一人ひとりの生涯がかかっている。歴史に残る達人やプロたち一人ひとりが生涯をかけて会得した秘訣は、そう簡単に他人に教えたり盗んだりできる性格のものではない。どの技術やテクニックを取ってみても簡単に真似できるものはひとつもないから、多くの人の経験から生まれたメソッドを体系化し、それらに一貫性を持たせることは容易なことではない。多くは秘伝として後継者や弟子など限られた者に伝授され、口から口へと伝わって今日に至っている。真偽の程は分からないが、永年修行を積んで師匠から授かった免許皆伝の虎の巻には、実は何も書いてなかったという逸話がある。秘訣だの虎の巻だの世にあるわけがなく、ひたすら修行を積む以外に方法はないという昔からの教えとも窺える。しかし、果たして本当にそうだろうか。

技術の伝承と革新は近代化の最優先課題であった。20世紀初頭アメリカ人フレデリック・テイラーは、熟練技術者の動作分析を行い作業標準化して生産性向上を図る「科学的管理法」を提唱した。さらに標準化された技術は修行や奉公によるのではなく、マニュアル化されたトレーニングシステムによって訓練し誰でも短期間に熟練技術を修得できるよう改革した。世にいうテイラーの科学的管理法-Scientific Management-に基づく生産性革命である。この思想は米国ゴルフ界にも引き継がれ、1970年代に入って科学的研究が進められた結果、前章で述べた如く各種のイノベーションを引き起こしたのである。
NGFはゴルフ普及のため学校体育にゴルフを導入すべく教育プログラムの開発を行い、1975-77年にかけて「Golf Instructors Guide」「Golf Coaches Guide」「Golf Audio Visual Aides」「Golf Lessons」などマニュアル教材を次々発行している。このプログラム開発には多くの大学教授のゴルフコーチやPGA、LPGAプロフェッショナルが参加しており、個別には大変優れたプログラムが提唱されたが、俯瞰すればセオリーメソッドに関して未だ体系化されたとはいい難い。というのはゲーリー・ワイレン博士がPGAマガジンにボールフライトロウを発表したのが1976年で、レッスン界に本格的なイノベーションが起きたのはこの後だからである。
1979-83年にかけてワイレン博士を日本に招聘し、各地でセミナーを開催してワイレン理論を研究したNGF-FEは、新たに全米大学ゴルフコーチ協会名誉顧問でゴルフ殿堂入りしたエド・コットレル博士を招聘して、セオリーメソッドの体系化を試みた。その結果3年の歳月をかけ、ワイレン理論に基づくボールフライトロウ及び9種弾道を基本原理としたセオリーを確立し、そのセオリーに基づいた基本メソッドを体系的にまとめることができた。NGFは既に70年代に全米の学校体育にゴルフを導入することに成功しており、この段階で体系化や一貫性を持ったプログラムを完成させている。学校や先生によって指導内容が異なっては、とても授業にならないから、多くの先生とプロフェッショナルがインストラクターセミナーに参加して生徒と指導者あるいは指導者間に生じる誤解と混乱を避けるための努力をしてきた。そのため指導者間に生じる誤解や混乱に関しては、PGAマガジンにボールフライトロウが発表される以前から、NGFでは既に解決されていたと考えられる。
スポーツ伝統技芸の世界で基本を統一したり、指導の一貫性を持たせることは大変難しいことで茶道、柔道、相撲など国際化したものは全てその洗礼を受けている。スポーツによらず技芸によらず、学校教育に導入されるものはほとんど全て理論や技術の統一が図られており、一貫性や普遍性は教育にとって生命である。NGFが学校教育プログラムを開発したことは、ゴルフの大衆化のみならず近代化に大きな貢献をしたものと考えられる。

原則として学校教育の場では、普遍化した技術や手段しか扱えない。生徒によって修得できない技術や理解できない手段は、学校教育の場にふさわしくないし取り扱うべきではない。誰でも理解できる内容でなければならない理由は、能力において千差万別の生徒一人ひとりが、学ぶことに興味を覚え楽しめなければならないという使命を帯びているからである。興味や関心がもてないことや過度の忍耐や苦痛が伴う方法は教育プログラムとしてふさわしくない。学習モチベーションは教育の場に絶対必要な要件で、ゴルフがいかに楽しいスポーツゲームだからといって、学習指導法を誤れば少しも楽しくないし興味すらわかない。義務教育機関で取り扱う場合ですら、学習モチベーションは大切であるのに、一般社会人や高齢者を対象にした場合には、学習者のモチベーションを引き出せなければ、効果以前に意味がない。それゆえメソッドは
  (1) 誰もが理解できて上達する方法であること。
  (2) 楽しくて知らず知らずに夢中になる内容であること。
  (3) 上達が確認できて向上心がもてること。
などの条件を備えていると同時に、上級者に対しても大切な基本となる知識・技術であることを要する。基本といわれるものは、流行や時代変化に流されることなく、時の経過と共に益々強固な基盤となるものでなければならない。