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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-2 施設マネジメント
Section 1 ターフグラスマネジメントの基本知識と実践技術

ゴルフコースは自然公園か人工庭園か、競技場か遊技場かによってコース設計やメンテナンスの在り方が変わってくる。例えばサンフランシスコのリンカーンパークやハーディンパークは太平洋や金門橋が見渡せる絶景のゴルフコースだが、完全なパブリックの自然公園である。老夫婦やバギーを押すお母さんがコース内を散歩している。$15程度の庶民料金ではあるが、国立公園の風格を持ち国際競技も行われる。ジュニアやシニアは半額だから子供や年金生活者が多勢プレーしている。グリーンだけはピシッと整備されているが、フェアウェイもラフも公園そのもので、殆んど手をかけた様子が窺えない。「ありのまま」の概念が重要であることを理解できても、プレーするに不都合は何もない。ゴルフをしながら「コースはこれで良いのだ」と言う確信が湧いてくる。つまりゴルフは本来、自然の中でボールを追いながら散策するゲームに違いないと思えるし、トーナメントに参加すれば自然公園の中の冒険競技をしているように思えてくるのである。
ゴルフに対する考え方が明確ならば、コースメンテナンスに対する「手間のかけ過ぎ、コストのかけ過ぎ」こそ問題ではないかという素朴な疑問が湧くに違いない。

自然とは

ゴルフは自然環境を舞台に「あるがまま」にプレーすることを原則とする。自然とは人が手を加えない状態をいい、手を加えた状態を不自然ともいう。だから「できるだけ自然のままに」とか「自然を生かして」というゴルフの理念を大切にするならば、コースはどうあるべきかメンテナンスはどうすべきかに新たな考え方が浮かぶのではないだろうか。
自然の中にコースを造るか、コースの中に自然を造るか、結果は全く逆である。自然の中に造られたコースは何百年も前から、ここにコースが存在したに違いないという雰囲気が漂うが、コースの中に造られた自然は、不自然ながらも不思議な美的存在感が漂う。しかし、どちらが優れているかを考えるより、どちらも素晴らしいと思うはずだ。
例えば兵庫県のゴールデンバレーは、日本独特の景観を持つ人里離れた山裾の渓流に、大昔からひっそりと存在したに違いないと思わせる雰囲気に造られたコースである。ところがパームスプリングスのラ・キンタなどは、サソリとガラガラ蛇しか生きられないだろうと思える荒涼たる砂漠地に、誰がこんな美しいオアシスのようなコースを造ったのか不思議に思うコースである。もはや両者に優劣はない。ゴールデンバレーは放って置いても春になるとタンポポ、すみれ、れんげの花が咲き乱れ、秋になれば一面ススキに覆われる。ラ・キンタなどは一年中ギラギラとした灼熱の太陽の下に、何百年も経ったサボテンがニョキニョキと立っており、人工池の周りにはガーデニングによって色とりどりの花が一年中咲き乱れている。
自然に対する考えは根本的に異なり、前者は自然を保護する考えであり、後者は自然を創造する考えである。ゴッドメイドコースとマンメイドコースを同次元で語れないように、自然美と造形美も次元の異なる存在として捉えるべきだろう。

ターフグラスマネジメント

ゴルフコースは何処に造られても基本的に芝草によって形づくられるから、ゴルフコースは芝草そのものとも言える。だからコースのターフグラスマネジメントとは、芝草のパフォーマンスを最少コストで最大限に引き出すことを意味する。これに対してコースメンテナンスとは施設全体を良好に維持することで保守管理を意味する。従ってマネジメントとメンテナンスは同じ意味ではない。
芝草は本来、自然の産物であり生きた植物である。大地から養分を吸収し太陽と水と空気によって生きている。さらに大事なことは自然の産物だから自然環境に順応しなければ生きられない。ゴルフコースは世界各地に造成されるが、ひとつとして同じ自然環境にない。コースの一軒一軒が全て違う環境にあるから芝草は与えられた自然環境の中で健康に生きていかなければならない。自然環境を変えることは容易ではないが、芝草を変えることは可能である。芝草そのものは種類によって性格や特性が決まっているから、芝草の種類を変えるしかない。
かつて芝草といえば基本的に高麗芝と西洋芝の二種類だったが、バイオテクノロジーの進歩によって実にさまざまな改良芝が創られるようになった。当該コースの自然環境に最適な芝草を探し出すことと、当該芝草に最適な環境を創り出すことをターフグラスマネジメントといっている。
試行錯誤を繰り返した結果によってある程度の改良改善はできるが、自然環境を変えることは余りにもリスクが大き過ぎるので、殆んどのコースが現状維持の保守管理つまりメンテナンスに留まっている。メンテナンスにとって大事なことは、コースの芝草や樹木の置かれた環境を維持することだが、異常気象や生態系の変化によって環境が変わり、植物が弱ったり病気になって死滅することを未然に防がなければならない。この日常のケアをメンテナンスというが、多くの場合はオーバーケアやオーバーワークによって芝草を虚弱体質にしたり、過労死させているようである。
例えばスコットランドのゴルフリンクスに生えている芝草は貧弱で雑草と見分けがつかないし、コースの植物はハリエニシダのようなプレーの邪魔になるハザードばかりである。コース内の植物群は何百年の昔から此処に生き続けてきたことが想像できる。反対にアリゾナのデザートコースは環境を変えなければ、サボテンとサソリとガラガラ蛇以外は、人も植物もとても生きられないような過酷な自然環境の中に、見事な人工庭園が造られ美しく維持されている。両者に較べると日本の自然環境は実に恵まれており、植物群が生きていくうえで殆んど問題ない。
ところが狭い日本といえども北部と南部では自然環境が異なり、その環境に生きられる植物も異なる。近年ゴルフコースを建設する事前調査として必ず環境アセスメントが行われるが、開発認可を得るための形式調査に終らせず、より優れた新たな自然環境を創造するための基礎調査にすることができればコストパフォーマンスは高まる。
ターフグラスマネジメントはコース建設の段階から計画的に行われるのが本来の姿である。しかし、それはいつからでも行えることで特別コストの掛かることでもない。必要なことは芝草が元気に生き続けられる環境造りと、そのためにやらなければならないこと、やってはならないことを整理しワークシート化して実行することである。

マネジメントのはじまり

「マネジメントとは最少コストで最大パフォーマンスを引き出すこと」と定義するならば、まず最初にマネジメントプランから作成しなければならない。マネジメントプランの作成はトップマネジメントの仕事である。トップは現状を分析把握して経営の在るべき姿を画き、ポリシーに基づいて当該コースをどのような姿にするのか、目標を掲げてプロセスと手段を示さなければならない。
当該コースはどのようなコンセプトで造られ、現在どのような姿か。当初チャンピオンコースとして造られたが、現在もチャンピオンコースにふさわしい姿をしているか。もしそうでなければ、今後チャンピオンコースであり続ける必要があるのか、別な姿はないのか。中途半端になったチャンピオンコースをカスタマーはどう感じているか、何を求めているか。当該コースの特徴を生かしつつカスタマーにより愛される姿はあるか。などカスタマーサイドに立って目標とすべき当該コースの姿を描き出すことからはじまる。
カスタマーは常により安くより楽しくゴルフができることを願っている。カスタマーの99%は自分がチャンピオンなどと思ってもいないから、チャンピオンコースである必要はないにも拘わらず、なぜ経営トップが拘るのか。評判か会員権相場か。日本のコースの多くは急峻な地形を壊して造成した丘陵山岳コースであるから、本来の自然は残されていない。本来の自然を残そうとすると、パー72の本格的チャンピオンコースは造れなかったはずだが、開発者は評判と会員権相場を気にして無理したはずである。その無理が自然を壊し、より多くの不自然を創り出すことになったはずで、その原点に立ち返ってマネジメントプランを作成する必要があるだろう。
例えば、パー72やトータルヤーデージに拘らなければプレーヤーに楽しくメンテナンスに優しくならないか。無理な造成で芝草が育ち難いところを元の自然に戻せないか。芝草ではなく強い雑草ではいけないか。水はけが悪く水溜りになりやすい所はクリークやハザードにできないか。姫高麗や洋芝が育たないフェアウェイは野芝や雑草ではいけないのか。現在のコース管理費に見合ったパフォーマンスが得られているか。カスタマーは料金に対して満足を得ているのか。それ以前に現状で経営は成り立つのか、存続できるか。どのようなメンテナンスによってコストダウンが図れるか、あるいはコストパフォーマンスが高められるか。
このようにターフグラスマネジメントはコースという主力商品をどのような姿でカスタマーに提供するか、カスタマーサイドに立って徹底的に検証し直すことからはじまる。

ターフグラスマネジメントの実践方法

ゴルフ場経営にとってコースは主力商品であるから、スタッフ全員が商品について高い関心を持ち、詳しい情報を持たなければならない。フロントに立つ人も事務所スタッフも、自分の会社の主力商品について何の情報も持たないようでは、カスタマーの質問や要望に応えられないばかりか、より高い顧客満足を得るための提案もできない。
マネジメントはチーム全員が達成しようとする共通目標を掲げることからはじまる。地域ナンバーワンの評価を勝ち取ろう、オンリーワンのコースにしよう。評価は自分で下すものではなくカスタマーが下すものだから、スタッフはカスタマーに対して積極的にモニター活動を実行し、カスタマーの声や評判を収集してマネジメントに反映しなければならない。多くのゴルフ場経営ではスタッフの役割分担が確立し、お互いに部門干渉しない仕組みができている。この仕組みは官庁や役所と同じ体質で、お互いに部門領域を侵されまいと守りあっているセクショナリズムの現れに過ぎない。お互いが聖域化しているから部門干渉できないし、させないのである。とくに管理部門が聖域化していればコースを管理部門が支配し、経営トップは不在となってターフグラスマネジメントは一向に進展しないことになる。
ゴルフ場経営にとってコースは経営資源であり主力商品である。ターフグラスマネジメントが経営マネジメントの中心課題であることを理解したならば、まずは全員参加型のマネジメントプランを立てることから始めなければならない。例えばサッカーやラグビーのような団体競技のマネジメントプランを立てるとき、監督コーチ・マネージャーによって計画が練られたとしても、選手全員を対象にしたプランが立てられなければチームの強化に繋がらない。アタッカーとディフェンダーがお互いに干渉しないとか、別々にマネジメントプランを立てているようではチームは決して強くなれない。
コースのマネジメントプランを立てる場合も、どんなカスタマーにどんなプライスでどんなサービスを提供するコースにするのか、マーチャンダイジングによってサービスメニューをラインアップし、それを支えるマネジメント体制を整える計画を立てなければならない。