- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - INTRODUCTION
- -1 施設事業としての
ゴルフビジネス - -2 教育事業としての
ゴルフビジネス - -3 余暇事業としての
ゴルフビジネス - -4 用品事業としての
ゴルフビジネス - -5 米国PGAゴルフ
プロフェッショナルの実態 - -6 職業専門家に必要な
プロフェッショナリズム - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 4 用品事業としてのゴルフビジネス
-3 | 余暇事業としての ゴルフビジネス |
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1970年代から米国ゴルフ界に起きたイノベーションによって、用品業界は画期的な変化をした。『ゴルフ基礎原論』で詳しく述べた如く、ワイレン博士の「飛球に関する法則・原理・選択性理論」が発表されて、スイング論が画期的に変化したために
「スイングはひとり一人個性的に完成するものではなくボール飛行の普遍的物理原則に合わせて、巧い人に共通する原理に叶ったスイングを形成すれば、ひとつのスイングを完成することによって、あらゆる弾道のボールを打ち分けることができる」
と考えるようになったのである。
つまり理想の普遍スイングがつくれるものならば、理想の普遍クラブもつくれるはずだ。クラブメーカーは古い考えの職人技術者を解雇し冶金工学や航空力学、工業デザインや商品デザインの専門技術を導入して「易しく打てるクラブ、誰でも飛ばせるクラブ、使ってみたくなるクラブづくり」を商品開発コンセプトに市場競争を開始したのである。
伝統のウィルソン、スポルディング、マクレガー御三家を始めとして老舗メーカーが企業買収され、伝統技術を捨てて新しい開発商品に伝統ブランドを付けて市場に送り出された。激しい市場競争の中で旧御三家に代わってキャロウェイ、コブラ、テーラーメイドの新御三家が誕生し、さらに伝統クリーブランドや新興ナイキが台頭してきた。当然日本のミズノ、ダンロップ、ブリジストン御三家も市場参入し、数々の中小メーカーを巻き込んで混戦状態に陥ったのである。
各メーカーが次々に発表する新理論は一般消費者の理解を超えたものが多く、単なる好奇心を誘うものが多い。消費者もクラブを代えたくらいで突然上達するとは思っていないが、最新理論や先端技術を所有することでライバルに差をつけたという満足感を購買するのであろう。そこにCS(顧客満足)があるならばビジネスの世界は何も問われない。商業資本主義社会の下では常に消費者は王様(Consumer is King)である。王様が望むことならば如何なる無理難題も受け入れましょう。言ってみればこれが商業資本主義の原理でありポリシーである。
ポリシーなき商品開発
商業資本主義社会のポリシーは利潤追求でもあり、良い商品とは「売れる商品」「儲かる商品」である。どんなすばらしい伝統芸術であろうと、機能的に優れた高度技術が導入されていようと、「売れない商品」「儲からない商品」は市場から淘汰される。「売れない商品」「儲からない商品」を扱うものはビジネスを継続できないばかりか、倒産・一家離散・自殺など地獄を見なければならない。
この厳しい原則が商品開発の段階から企業を支配しており、この原則に反した企業や開発者がどれほど多く退場したか数え切れない。クラブの開発も同じ原則の下で行われてきたが、芸術的なクラブを造ってきたメーカーや職人も原則に反したものはことごとく姿を消し、売れる商品を開発したメーカーと技術者だけが市場に残っている。さらに3年後には誰が市場に残っているか誰も予想できない世界でもある。このような世界にポリシーを求めることは極めて難しいことに思えるが、もしポリシーがなければ売れなくなった途端に市場から撤退し姿を消さなければならないのである。
このようなことを繰り返していれば、そこには歴史も伝統も生まれないし文化も育たない。例えば時を管理することは人間の歴史的な伝統であり文化である。時を管理する機能だけを求めれば3000円の時計で目的は充分果たされる。しかし機能は変わらなくとも300万円の時計もある。ビジネスの側面から見れば3000円の時計を100万個売るのも、300万円の時計を1000個売るのも売上においては同じことだが、恐らく後者の時計メーカーの方が圧倒的に高い利益を計上しているだろう。なぜならば後者は歴史と伝統に支えられたポリシーある時計メーカーとして、永年にわたり市場に生き残って時の文化を継承してきているはずだからである。
商品開発においても、消費者に「愛される」「大切にされる」「語り継がれる」ようなポリシーがあるならば、必ず市場に残り続けるはずだ。『スイスの時計』『デンマークの酪農品』『イタリアの自動車』などは商品開発ポリシーとは何かについて本質を教えてくれる格好の例といえるのではないか。
用品開発のポリシー
ゴルフの用品開発といえば基本的にはクラブとボールを指すが、両者ともこの30年間に大きな革新があった。クラブに関してはウッドヘッドからスチールヘッドに、スチールシャフトからグラファイトシャフトに、レザーグリップからラバーグリップに変わった。ボールに関しては糸巻きボールから多重構造ボールに、合成ゴム表皮から合成樹脂表皮に変わった。
商品開発コンセプトはクラブもボールも「飛びの追及」である。どちらも飛ばすための道具だから「飛びの追求」は当然のことと思われるが、数々の問題や課題も残した。問題としては方向が定まらないままに飛距離だけが伸びたために、コースが狭くなり危険が増したことである。例えば300ヤード以上先に隣接ティーがあれば、以前は危険ではなかったものが現在では極めて危険な状態であるとか、以前はめったに道路や民家にボールが飛び出さなかったものが現在では頻繁に飛び出すというような問題である。
次に平均飛距離が伸びたためにコースレイアウトやデザインが意味をなさなくなり、コースの戦略性を根底から覆してしまったという問題もある。例えば以前ならばアベレージゴルファーのティーショットを平均200ヤードとしてサイドバンカーやハザードを設計し、スクラッチプレーヤーは平均250ヤードとしてバックティーを設置してあった。しかしプレーヤーの技術がさほど進歩しないまま飛距離だけがどんどん伸びて、バンカーやその他のハザードが意味をなさなくなったり、ドッグレッグやOBゾーンがゲームをつまらなくし戦略性を台無しにしてしまう場合がある。
それにコースの設計変更や改造工事をするには莫大な費用が掛かる。消費者が求めるからといってメーカーが「飛びの追求」を止めなければ、コースの危険性や戦略性は益々侵害され続け、多くの犠牲や負担を強いることになる。これはコースにとっても用品基準を定めるUSGAやR&Aにとっても大問題となっている。つまり飛距離と安全性・戦略性の調整はゴルフ界の課題でもあり、用品開発やゴルフゲームのポリシーに係わる重大問題にまで発展する可能性があるからだ。
二律背反性
商品開発は常にポリシーにおいて矛盾や二律背反性が伴う。例えば身近にある自動車開発もスピード性能と安全性の二律背反に苦しんできた。消費者はより速くより安全な車を求め続けるが、スピードと安全は常に二律背反する。消費者とは誠に勝手なもので、この矛盾を矛盾と感じないで生産者に要求するが、この矛盾を規制したり干渉できるのは行政権だけであって、生産者は消費者に対して規制も干渉もできない。資本主義社会では原則としてお互いに規制したり干渉しないことを市場原理としているからである。
いま日本の社会では余りにも規制や制約が多すぎて市場原理が働かないので、活発な企業活動や市場取引を推進するために規制緩和や構造改革を進めようとしている。二律背反性はいろいろな所に現れるが、メーカーが200キロ以上のスピードが出るクルマやバイクを開発しても、行政が厳しく規制しなければ事故が増えて安全性が損なわれる。行政保護を強化すれば国内産業は国際競争力を失う。労働基準を強化すれば雇用は減少し失業者が増える。
ゴルフの世界もこの二律背反性に苦悩している。クラブメーカーが飛ぶクラブを開発するほど一般ゴルファーのスコアが悪くなる。易しいクラブをつくるほど技術が低下する。つまり距離と方向の間には永遠の二律背反性があり、むしろ矛盾こそ原則といわなければならないからである。鉄砲によらず大砲によらず標的が遠くなるほど命中率が低下するし、機械によらず器具によらず精度が高くなるほど操作が緻密になることは当然の理なのである。これはポリシーの問題ではなく原則に過ぎない。
このように商品開発には必ず二律背反が伴うから、クラブにしろボールにしろカスタマーの目的用途に合わせて本当の顧客満足が得られる商品を提供しなければならない。ポリシーというよりモラルというべきかもしれないが、ワンラウンド120以上打つビギナーに「飛ぶ」という売り文句で一個800円の高級ボールを1ダースも消費させたり、未完成なスイングに高額な長尺ドライバーを購入させて大量のOBを生産させることは、用品事業をビジネスにするものにとってビジネスモラルが問われることころである。ビジネスにとっての目的は経済利益であるが、カスタマーにとっての目的は顧客満足であっても、カスタマーの利益を守る姿勢もまたビジネスポリシーではないだろうか。
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