NGF WORLD Golf Campus Image
  • メンバーログインは右の [ Login ] ボタンをクリックしてください。
National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第五章 ビジネスポリシー
Section 5 米国PGAゴルフプロフェッショナルの実態

米国にはPGAゴルフプロフェッショナルといわれるゴルフビジネスの専門家が3万人近くいる。職業はゴルフ場経営、プロショップ経営、ゴルフ場設計建設、用品製造販売、ゴルフ指導教育、クラブ組織運営などに従事しているが、PGA組織に所属していないプロフェッショナルを加えると、かなりの人数になる。彼らの特徴は大学でゴルフの専門教育を受けた職業人で、ゴルフは巧いが決して競技プロではないということである。
日本にこのような職業人がいないので想像できないかもしれないが、日本のゴルフプロとは根本的に性格が異なる。つまり日本のゴルフプロは賞金を稼ぐトーナメントプロとレッスン料を稼ぐティーチングプロを指すが、米国では一部を除いてこの種のプロは職業にならないので全米でも数百人しか存在しない。
例えばPGAワールドツアーに出場する250人のトーナメントプロで最下位の者は年間50万円も稼いでいない。交通費も宿泊費も出場手当も保証されないトーナメントの世界は、上位に位置しなければ生活もできない厳しい職業だから、大学でゴルフを専攻しても余程の実力がなければトーナメントの世界には進まない。賞金が稼げないプロが練習場でレッスンしても職業になるほど稼げない。従って最初からプロフェッショナルになるかトーナメントプロになるか二者択一の進路になっている。プロフェッショナルの世界もトーナメントプロの世界も、二股をかけるほど安易な道ではないので、大学を卒業する時点で早々とこの選択を迫られる。

PGAプロフェッショナルの道

1960年代に入りNGF教育プログラムが充実するにつれゴルフ界における人材育成が活発になってきた。ゴルフ場経営、クラブ運営、プロショップ経営、コースメンテナンス、インストラクターズガイドなどの専門書が出版され、全米各地でセミナーが開かれて本格的な専門教育が始まった。その背景にはアメリカの経済力に支えられて、戦争で荒廃したゴルフ場の再建が順調に進み、全米各地に次々と新設コースがオープンした経緯がある。全くビジターを入れないプライベートコースから締め出された一般ゴルファーは、経営合理化の進んだ低料金パブリックコースに殺到したのである。
完全クラブ制を維持するプライベートコースも、完全パブリック制を維持するパブリックコースも共に極度に専門化し、高度な専門教育を受けたものでなければ経営できなくなってきた。PGA(プロゴルフ協会)はトーナメントプロを管理するPGA Tourとビジネスプロを教育するPGA of Americaに分離され、それぞれの領域を活性化する道を選んだ。その結果、中途半端な実力ではPGA Tourに登録できないし、どんなに優勝経験豊富でも教育を受け直さなければPGA of Americaの会員になれない厳しい世界になったのである。
PGA Tourは完全オープン制で実力があれば誰でも登録してトーナメントに出場できるが、実力がなけれが1年で登録抹消され試合にも出れなくなる。実力を付けて予選を通過すればいつでも復帰できるが、ワールドPGAツアーは日本で上位にランクされているプレーヤーといえども、そう簡単に予選通過できるわけではない。世界中から実力のある古参プレーヤーや伸び盛りの若者が集まる国際舞台だからである。
一方PGA of Americaの会員になるには、ゴルフ学科のある大学(フェリスステイト大学はじめ全米で13大学)で専門科目30単位を取得し、PGA競技力テストに一発合格した者だけが研修生に登録される。合格基準はUSGAコースレート72.0以上のコースで2ラウンド12オーバー以下でプレーしなければならず、チャンスは一回限りの厳しい世界である。競技力テストに合格した研修性は6ヶ月以上の実務研修に入り、最後に職業適性テストを受けて合格した者だけがPGA o Americaのメンバーになることができるが、最終的に外国人は受け入れていない。つまりPGAメンバーは米国ゴルフ界のエリートであって、地位身分が保証されるだけに外国人に対して閉鎖的である。
PGAメンバーはコース経営権、クラブ運営権、商品取扱権などが保証されたゴルフビジネスのプロフェッショナルである。地位や身分が保証されるには、裏付けるだけの職業能力や責任感を有していなければならない。この職業能力や責任感を備えた人をゴルフプロフェッショナルと呼び、その人の根幹にある精神や思想をプロフェッショナリズムと呼んでいる。その思想源流には深い歴史があり、表面的な観察だけで理解できるものではないので次章で詳説する。

PGAプロフェッショナルの仕事

PGAプロフェッショナルの多くはコースの経営に当たっている。米国・豪州・カナダのコースは殆んどPGAメンバーが経営しているが、その背景はコースの経営が極めて専門的なために所有と経営が分離されていることにある。
コースを所有するオーナーの多くがクラブであり、学校や企業又は自治体である。このようなオーナーは経営能力を持たないから、専門経営者またはマネジメント会社に経営委託しなければならない。つまりコース経営は専門家もしくは専門会社の請負制になっていて、専門的なマネジメントシステムに委ねられている。NGFの統計資料によれば$20~$30の低料金にも拘らず赤字経営のコースは皆無に近い。請負制のために赤字経営に陥れば請負人の経営能力が問われ、直ちに解約もしくは解任されて別の請負人に委託されるからである。
PGAプロフェッショナルは経営を請負う前にオーナーに対してマネジメントプランをプレゼンテーションし、それが認められて初めて請負契約が成立する。実績が出せなければ自分の報酬がカットされ、契約以上の実績が出ればボーナスがもらえる仕組みは成功報酬によるプロの請負制度である。それがビジネスプロ制度でありトーナメントプロと同様に厳しい世界であるが、国の管轄団体による終身資格に支えられた日本のプロ制度とは基盤が異なることを知らなければ理解できない。
経営請負人であるヘッドプロは経営責任を果たすために早朝から夜遅くまでコース中を走り回っているが、その働く姿から真剣なプロの姿勢を窺うことができる。ヘッドプロは暗いうちにクラブハウスの鍵を開け、グリーンキーパーとコースメンテナンスの打合わせをし、プロショップのカウンターオフィスでスタッフミーティングを済ませて長い一日が始まる。午前6時にはトップの組がアウトスタートしていくが、日本と異なり全て料金前払制で18ホールスループレーになっているから午前10時には業務が一段落する。カウンターオフィスにはスターターも含め、スタッフ2、3人を残して午後2時まで到着順のゲストを受付けスタートさせる。この間ヘッドプロはクラブメンバーやコミュニティサークル、メンテナンススタッフやオーナーとの打ち合わせをしたり事務作業をしている。午後2時以後はジュニアレッスンをしたりコース改造計画に立会ったりマーチャンダイズやプロモーション会議を開いている。早朝から夜までヘッドプロは休むことなく仕事を続けるが、その姿はスーパーやコンビニエンスストア、ファストフードやファミリーレストランの店長と同じである。
ヘッドプロはゴルフプロであると同時にゼネラルマネージャーとして機能しているから、ゴルフに明るいだけでなくビジネスマネジメントにも強くなければ勤まらない。彼らの最大の悩みはヘッドプロになると報酬は増えても、ゴルフが全くヘタになることである。トーナメントプロとビジネスプロは同じゴルフの仕事をしながらも、仕事の内容や性格は全く違う。

教育システムの充実

米国ゴルフ界のプロ制度も最初から充実していた訳ではない。1970年代までは生活できないトーナメントプロの救済手段的な性格が残っており、プロ養成制度そのものの中に多分に徒弟制度的な性格が残っていた。研修生はヘッドプロのアシスタントとして仕事に付き、PGAが開催する各地のセミナーに出席して単位を取得するが、年間数回しかないセミナーだけでは充分な教育ができない。アシスタントの仕事も忙しいうえゴルフの技術向上を図らなければ技量テストに合格できない。仕事も研修も中途半端になり、徒弟制度の下ではヘッドプロの資質や性格に大きく左右されるうえ、優秀な人材が育ち難かったようである。
1979年米国フロリダのPGA本部に教育担当責任者ジョー・オブライエンを訪ねたとき「トーナメント志向が強いプロの教育に苦労している」ことを告げられ、当時はまだトーナメントプロとビジネスプロの分離が制度上うまくできていないことを知った。トーナメント志向とビジネス志向は同じゴルフプロでも水と油の如く「似て非」なるものである。トーナメントプロはゴルフに人生を賭けた「博徒」であり、ビジネスプロはゴルフに生活を賭けた「専門職」である。博徒と専門職を同じ教育基盤で育てることは不可能であることをジョー・オブライエンは告げようとしていたのである。
1980年代に入ると大学にゴルフマネジメント学科が設置されるようになり、大学で専門教育が受けられるようになった。このことは本格的なビジネスプロの養成と教養あるトーナメントプロの養成が同じ環境でできることを意味する。日本のゴルフ界が大きな経済基盤を持ちながらゴルフ三等国に転落せざるを得なかったのは、実に教育基盤整備を怠ったことが最大の原因である。特に1987年、教育の総本山であるべき文部省から「外国技術ノウハウの導入禁止」という事実上の鎖国令が出されたことは、5年後に控えていたバブル経済の崩壊に無防備で突入する結果となった。
如何なる業界も、如何に繁栄した社会も教育の基盤整備が伴わなければ脆いものである。日本のゴルフ界が欧米諸国から教育システムにおいて30年の遅れをとったことは、日本の将来に大きな影を落すことになるだろう。大学にゴルフ学科を設置した韓国ゴルフ界や中国ゴルフ界は間違いなくアジアのリーダーに成長するに違いないが、そのとき日本のゴルフがどうなっているか誠に心配なことではある。

 

参照:
映像アーカイブ / Vital to the Golf Game (制作:PGA of America、日本語字幕:NGF FAR EAST)