- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
フィロソフィー - 第二章
セオリー - 第三章
メソッド - 第四章
ゲーム - INTRODUCTION
- -1 ショットとパットの
複合ゲーム - -2 マッチプレーの思想と特徴
- -3 ストロークプレーの
思想と特徴 - -4 パーシステムと
ハンディキャップ競技 - -5 ハンディキャッピングと
スロープレーティング - -6 変形競技方式
- 第五章
サイエンス - 第二部 ゴルフマネジメント科学
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
Section 2 マッチプレーの思想と特徴
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思想
既に第一章フィロソフィーで触れた如く、ゴルフは発祥から500年近くマッチプレー方式によって行われてきたといわれる。マッチプレー方式とは剣道や柔道、ボクシングやテニスのように一対一の試合を基本とした勝負形式の闘い方をいう。決闘にしろ一騎打ちにしろ、相手を選ぶことも許されないし手心を加えて貰うこともできない。勝負となったときが運の定めで、強い相手に対しては全力で闘い、九死に一生を得ながらも勝たなければ生き残ることはできない。勝ち目はないと思えば恥も外聞も捨てて逃げるか、奇策を用いて相手が油断した隙を衝いて活路を見出す以外に手はない。生きるか死ぬかの真剣勝負では技量の差は問題ではなく、勝つか負けるか結果だけが物を言う世界である。この勝負の世界は「優勝劣敗」や「弱肉強食」を原理とした自然淘汰の原則が支配しており、情けも容赦もない。優れた者、強い者が勝って劣った者は負けるから、勝った者だけが生き残る。それが自然の掟である。初期のゴルフはこのような思想に基づいて行われたからマッチプレー方式だったと思われるが、この試合方式は勝負としてのゴルフの原点であるから、今も変わるところはない。
ストロークプレーの試合であっても、プレーオフとなれば完全にマッチプレーの思想に戻る。プレーオフになれば、プレーオフ体験やマッチプレー経験が豊富な方が勝つことに相場は決まっている。なぜならばストロークプレーとマッチプレーは根本的に思想や戦術が異なるからで、マッチプレーではコースを観察する以上に対戦相手を観察するか、逆に対戦相手を無視して精神的圧力を加えながら相手の戦意喪失を誘うことすらあり得るからである。
マッチプレーとはこのように対戦相手と直接対決して相手を倒す闘いで、相手が10打なら自分は9打でもそのホールの勝ちとなる競技方式であるから、本来マッチプレーでは相手に情けをかけ、あるいは思いやる余裕は余程の技量に差がない限りあり得ない。対戦相手と1ホールずつ勝負していく試合形式では、相手の一挙一動に左右されながらバトルする訳だから、むしろ一騎打ちとか決闘という表現の方が当てはまる。決闘や一騎打ちを審判なしで行うとなれば、いくら騎士道精神をもって闘えといわれても、血の気の多いゴルファーがふたり原野に果し合いに出たとあれば、あとは無事の帰還を祈るばかりである。
ゴルフでは如何に激しい闘いだとしても、決して相手に襲い掛かったり組み伏せたりするわけではない。むしろ相手の失敗や技量不足を冷ややかに眺め相手のフラストレーションが最高潮に達したところで、一言決定的なセリフを吐けば相手の脳血管は炸裂してしまうのである。その無念悔しさは筆舌に尽くし難くその思いが何百年にわたって男たちを虜にしたのである。
ボビー・ジョーンズは初めて英国にわたり、全英オープン第一回戦で余りの悔しさに試合放棄してしまったが恐らく帰国の途中、船上から大西洋に身投げしたい心境だったろう。帰国して彼は熱心に「聖書」と「キリストの生涯」を読み、日々祈りを捧げて敬虔なクリスチャンに変身している。心を入れ替えた彼は米国を荒らすハスラーや英国出身の強豪達を相手に、次々これを打ち倒して弱冠28歳にして世界を完全制覇しアマチュアのまま引退してしまった。若いボビー・ジョーンズを評して「優しすぎることが最大の欠点」といったハリー・バードンは全英オープンに6勝した英国を代表する強豪であるが、最終的にジョーンズの優しさと人格の前に屈している。
マッチプレーの真髄は厳しい神経戦であるが故に、単なる自然法則や野獣原理に従うのではなく、神聖なる人間の尊厳に拘わる崇高な精神に従わなければならない。少年ダビデの如き清く賢いボビー・ジョーンズの前に、最終的に誰も立ちはだかることができなかったということは、マッチプレーの源流にキリスト教騎士道精神が脈々と流れている何よりの証拠ではないか。
特徴
マッチプレーの特徴は、審判裁定の権限を対戦相手が持っていることである。対戦相手が「よし」といえばよし「だめ」といえばだめなのである。だから対戦相手が意地の悪いことを言ったり、卑怯なことをすれば限りない泥仕合に転落しかねない。1096年十字軍遠征をきっかけに、ゴルフにも神の前における聖戦意識が導入されたという思想は、ゴルフを聖なるものに保とうとした後世の人たちによって支持され続けたに違いない。対戦相手が如何に卑怯卑劣な裁定を下そうが傲慢不遜な言動に走ろうが、やがて神の正しき審判の前に木っ端微塵に打ち砕かれるであろうという正義の信念がなければ、善良なるゴルファーを今日まで支え続けることはできなかった。このことはスコットランドゴルフの発祥が十字軍遠征の1100年頃とされる説や、ゴルフのメッカがキリスト12弟子のひとり、聖アンドレ(セントアンドリュウス)の名称である事実からも窺い知ることができる。
マッチプレーでは全て相手の合意に基づいて行われるから、ルールがあってないようなものである。規則が定めてあるのは判断基準を示しただけで絶対規則というわけではない。区域外からティーショットしても相手が「そのままプレーせよ」といえばインプレーになるし、「打ち直せ」といえば打ち直さなければならず、逆らえばそのホールは負けとなる。相手のボールが「OB」ラインを越えていたとき、相手に「武士の情、見逃してくだされ。」と土下座されたらどうするか。見逃してもよし、打ち直しを命じてもよい。見逃したからといって誰にも咎められる必要はないし、打ち直しに応じなければその場で負けと判定されてそのホールの勝負は決まる。
相手の合意に基づくのは競技規則だけではなくエチケットにも及ぶからおもしろい。例えば劣勢な相手に対して「プレーの妨害をしてもよい」と合意すれば、合意したプレーヤーがショットやパットをする度にギャーギャー騒ごうが、鉦や太鼓を鳴らそうが構わない。何をしようがワンストローク多い方が負けなのである。親しい仲間同士や家族で合意すれば腹の底から笑いあって楽しい勝負ができるが、これもマッチプレーの特徴といえる。だからマッチプレーでは基本的にエチケットマナーだのジェントルマンシップだのという概念はなく、当人同士好きなようにプレーしていたから数百年にわたってルールがなかったのであろう。原点回帰してゴルフを楽しもうと思ったらマッチプレーに限る。しかし気の合わない者同士が争って度が過ぎれば殺し合いになりかねないことも承知しておく必要がある。
種類
マッチプレーの試合形式には1対1、1対2、1対3、2対2の闘い方がある。
1対1のマッチプレーは最も一般的に行われており、多くのクラブ競技の決勝戦で採用されている。ハンディキャップのないスクラッチ競技として行われる場合と、ハンディキャップのあるアンダーハンディ競技として行われる場合がある。
アンダーハンディ競技としてマッチプレーを行う場合には、通常ハンディキャップの差の3/4ホールをハンディホールとする。例えばハンディキャップ12の人と24の人が闘う場合、(24-12)×3/4=9となり9ホールをハンディホールとするが、スコアカードに記載されるホールハンディキャップ欄の1~9までのホールがその対象となる。なぜハンディキャップ差の3/4=75%にしたか考えると、USGAの長年の統計実績からして、どうやらフルハンディキャップではローハンディキャッパーがハイハンディキャッパーに敵わないことが多いために、経験的に75%くらいにする方が互角の勝負になると判断したようだ。しかしプライベートにマッチプレーをする場合にはこの基準に従う必要はなく、試合前に対戦相手と話し合いで決めればよいが、試合の途中で変更を求めたり、終ってからツベコベ言うのは騎士道精神に反する。
1対2の勝負では闘い方が異なる。一人に対して二人掛りで闘う訳だから明らかに強い相手に対して二人が力を合わせることになる。二人が一個のボールをプレーする場合と、各自のボールをプレーする場合があるが、通常は技量の差で使い分けることが多い。
相手が初心者の場合には、一個のボールを二人でプレーする方が負担も軽いうえ、みんなで楽しむことができる。例えばお父さんに対してお母さんと子供が組んで勝負する場合、お母さんと子供は一個のボールを交互に打っていく方式(オールタネイト)があるが、二人が初心者であっても二人で一球だから、プレーの進行が遅れる心配もなく家族の勝負を楽しむことができる。勿論ハンディキャップは家族で話し合って決めればよい。実力が伯仲している場合なら各自マイボールをプレーして、お母さんと子供がパートナーとなって、各ホール良い方のスコア(ベストボール)でお父さんと勝負する方法がある。お母さんと子供二人がパートナーとなって、1対3の勝負をする場合も同じ競技方式が使える。三人がパートナーとなってスクランブルゲームをした場合にはアンダーパーで回ることも可能なので、この競技方式によるマッチでは逆にお父さんの技量が問われる。
1対3の一般的試合はフォアボール・フォアサムマッチといわれる競技方式で各自が他の三人を相手に各ホールを勝負する。ベストボールといわれる方式では、誰か一人良いスコアを出した者だけがそのホールの勝ちとなるが、総当りという各ホール全て全員と勝ち負けを決める方式もある。前者の場合はお互いがリスクヘッジしているので一人大負けすることはないが、後者の場合は弱者一人が全員に大負けする危険がある。
NGFプログラムの「Pro/Am Challenge Match」は1対3の試合形式で、一人のプロに対し三人のアマチュアが協力して勝負を挑むものであるが、ハンディキャップ18以下のAクラス3人をベストボール方式で相手にすると、プロといえども1ホールも気が抜けない。またハンディキャップ19以上のBクラス3人がスクランブル方式で挑戦してくると、プロもアンダーで回らなければ到底勝ち目はない。ゴルフは一人でプレーすると難しいゲームであるが、三人が協力すると如何に愉快なゲームになるか理解できる。力のない三人が結束してプロに勝つことによって、青少年ならず大人でもチームワークの意義を知る又とない機会になるであろう。
2対2の試合形式はペアマッチといわれ、二人がパートナーとなって別のペアと勝負する方法である。英国王ジェームスII世が靴屋のジョンパターソンと組んで二人の貴族を負かし、「ゴルフのスコットランド起源説」を守ったという話はペアマッチの歴史にもなっている。ジェームス王はゴルフが大好きでも一人では貴族に勝てそうもないので、名手ジョンパターソンを助太刀に頼み貴族組を負かすことができた。王は大喜びで、丘の上に「Far & Sure」と名付けられた家を建ててジョンパターソンに褒美として取らせたという。
ペアの組み方はさまざまで、男性、女性、男女、夫婦、親子などがあるがペア同士の実力が拮抗するようであればペアの組み方は問題ではない。例えば横峰良郎が娘さくらに助太刀を頼んで、くやしいゴルフ仇に挑戦状を突きつけたとしたら唯のローカルニュースでは済まない。小泉純一郎親子がクリントン夫妻にペアマッチを申し込めばマスコミは黙っていない。ペアマッチは実におもしろい舞台を演出できるのである。
その他の競技
競技方式としてオールタネイト、チャップマン、ツーボールベスト、合計ストローク、合計ポイント、ペアスクランブルなど様々だが、1対1のような直接対決意識がないので陽気で愉快な勝負が楽しめる。一時期はやったラスベガス方式は最初からペアを決めないで、ティーショットした結果、左右二組に分かれてペアを組み、ホール毎に勝負する競技方法であるが、この方式は一層個人対決色がないので友好的である。同じようにペアを決めないでティーショットの順番で1番4番、2番3番がペアとなり、ホール毎にペアを変えながら勝負する方法があるが、この方式も友好的で個人対決色がないので、初対面同士の親睦には大変役立つ。
NGFワールドカップはステーブルフォード・ペアマッチ方式という団体戦で争われ、日米・日英・日豪など各国6組のペアに分かれて獲得ポイントで勝敗を争う競技である。USGA方式による適正なハンディキャップによって争われるので、勝負が拮抗して最終組が終了するまで勝敗の行方が分らない楽しい競技になり親善友好は計り知れない。適正なハンディキャップに従えば初対面のアベレージゴルファー同士が、最終ホールまで手に汗握る接戦を繰り広げることができる。マッチプレーの楽しさは生涯忘れえぬ思い出を残すに違いない。
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