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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第四章 ゲーム
Section 6 変形競技方式

ゴルフは基本的に遊びでありゲームであるから、どのように遊ぼうがどんなゲームをしようが自由である。エチケットルールを厳しく戒め、ゴルフをステータスシンボルに仕立て上げたのは、特権階級意識や差別意識を資金集めに利用したゴルフ場開発事業者の商業戦略であった。ゴルフ本来の姿は野原でボールと戯れることであり、家族や仲間とゲームに熱中することであるから、エチケットやルールが主役になっては、まさに主客転倒して楽しさが半減してしまう。「ゴルフ最大の欠点はおもしろ過ぎることだ」という言葉にゴルフの原点は語り尽くされている。このおもしろさを伝えるには、エチケットルールやゴルフの基本精神を語る前に、先ずゴルフの楽しさを体験することが早道である。

ワンボールゲーム

一個のボールを数人で交互に打ちながらグリーンに乗せるゲーム。OBやハザードにボールが入った場合以外はノータッチを基本ルールとし、空振りも一打に数えて順番に一個のボールを打ち、グリーンに乗ったらボールを拾って次のホールに進む。クラブはミドルアイアン1本で良いが、女性やジュニアがいれば必要なクラブを追加する。バンカーに入ったボールはアンプレアブル扱いにしてバンカーの横ないし後方のフェアウェイにドロップする。正式にはオールタネイトゲームの一種で、未経験者や初心者を交えて楽しめるファミリーゲームとして競技会を行うこともできる。このゲームはゴルフ未経験者や初心者が何の負担も感じることなくゲームの仕組みを覚え、お互いの失敗を笑いながら存分にゴルフの楽しさを味わうエキストラゲームである。コースをハイキングの気分で交互にボールを打っていけば、コースの成り立ちや景観を観察することができるし時間がかからない。グリーンに乗せるのに1ホール平均10打としても、ハーフ90打に過ぎないから通常プレーよりむしろ速い点が特徴である。
ワンボールに慣れたらツーボールにすればもっと楽しい。二・三人ずつのチームに分かれて赤組・白組とし、各チームがそれぞれ一個のボールを交代で打っていくが、各ホールのマッチプレーで勝負してもよいし、合計ストロークで争ってもよい。数チームずつあれば紅白対抗戦の運動会になる。このようなゲームを行う場合は既成概念や常識に拘らず、エチケットルールや服装についてとやかく言わず、自由な雰囲気で心いくまで楽しむことが大切である。日本でこのような変則ゲームが行われないのは、商業戦略によって高額会員権制度や高額料金制度を維持するため、ゴルフ場がパブリックスペースやエリアコミュニティの機能を失ったせいと思われるが、今後このような機能を回復させるには会員家族や地域住民と交流を深める変則ゲームが役に立つであろう。

スクランブルゲーム

三人でも四人でもチーム全員が自分のボールを打ち、誰のポジションが次のショットに有利かチームで相談して、ベストポジションを選択したら全員がそこからショットする。選択したポジションにマークし、ホールに近づかないワンクラブレングス内にドロップして全員プレーを続行するが、打順は問わない。バンカー内を選択することはめったにないが、冷静にマネジメントした結果バンカー内を選択した場合も同様に処理する。グリーンでは選択したボールポジションにマークし、カップに近づかない6インチ以内にプレースして順番にパットするが、マークしてボールをピックアップしないとそのポジションは無効になる。ピックアップせずにそのボールをホールアウトしたら、次打者のチャンスが失われ、その時点でそのホールのスコアが決定する。ホールアウトするまでこの要領でプレーするが、ベストポジションを選択することと、打順を問わないことがこのゲームの大きな特徴である。
技量や特性の異なる人が協力すると、誰がどのような場面で思わぬ技量や特性を発揮するか分らないし、どのような幸運に巡り合うか分らない。失敗や不運を捨てながら常にその時点の最善を選択することによって、チームは恐ろしいパフォーマンスを発揮することができる。例えば1番打者は距離を稼がなくても確実にフェアウェイにボールを運ぶことが役割だし、2番3番打者は前者が失敗したらその役割を引き継ぎ、成功していたらよりよい結果を出すことが役割となる。4番打者は前者の結果を総括して、許される条件内の最善の結果を出さなければならない。3人ともOBを出したとか、林やバンカーに入れた後では4番打者に大きなプレッシャーがかかることは言うまでもないが、冷静なマネジメントのもとに1番打者が果たせなかった役割を果たすならば、第二打目から全員に再びチャンスが戻ってくることになる。お互いの責任をなすり合い、非難し合えばチームワークは崩れろくな結果にならない。
このゲームの特徴は個人競技といわれるゴルフも、チームプレーに徹するならば予想外のパフォーマンスを発揮して、アベレージゴルファーが4人結束すれば王者タイガー・ウッズも容易に倒せる点にある。このゲームが教えてくれることは、弱者といえども4人が結束すればチームワークによって想像以上の力を発揮することを知り、一人がどんなに優れていても4人の結束の前に到底敵わないことを知ることである。最初は役に立たないと思う者も、必ず一回か二回は大きな働きをしてチームに貢献することがある。弱い者小さい者もチームにとって欠かすことができない一員であることを知ったとき、チームもチーム全員も結束の力を学んで成長する。家庭や職場の絆や結束が崩れた現代社会にあって、私たちが取り戻さなければならないことを、このスクランブルゲームは鮮やかに教えてくれるのである。

ペアスクランブルマッチ

二人ずつに分かれてペアを組み、二人で相談してよい方のポジションを選択しながら同じ要領でプレーする。ペアに分かれるから競技方式はストロークプレーよりマッチプレーの方がおもしろい。ペアの組み方は知らない者同士よりも親しい者同士のほうがよいが、夫婦・親子・兄弟・恋人・同僚・学友・同胞など何らかの絆で結ばれているもの同士がよい。お互いのミスや欠点をカバーし合うところが力を発揮する秘訣だが、不思議なことに一番うまくいかないペアは夫婦である。お互いのミスや欠点をカバーするどころか、批判したり非難し合って口も利かずに最終ホールを迎えることも間々ある。むしろスワップつまり夫婦を交換した方が、遥かに力を発揮し合うことは事実が証明するところである。

チャップマンゲーム

ペアでゲームを進めるが、ティーショットはスクランブル方式で成功した方のボールを選択する。第二打目は選択されなかった者がショットし、以後オールタネイト方式で1球をホールアウトするまで交互に打ち続ける。途中OB、ロストボール、アンプレヤブルなどが発生して打ち直す場合も必ず打者が交代する。このゲームの特徴は完全な連帯責任制で、一方がパートナーの失敗や弱点を補うことはできず、全てのショットをカウントしなければならないから、パートナーはお互いに相手に依存することなく、全てのショットを連帯責任によって自ら全力で処理しなければならない。二人がベストを尽くさなければよいスコアを出すことができないゲームである。

ステーブルフォードゲーム

ストロークプレーの最大の欠陥は完全ホールアウトの原則にあるといわれる。つまり一端打ち出されたボールは、そのホールをカップインするまでプレーを連続させなければならないルールになっている。ホールアウトする前にボールを拾い上げて次のホールに進めば、プレーの連続性を失って競技失格となる。だから合計スコアで争うストロークプレーでは、ひとホールの大叩きが致命的となってその日のゴルフを台無しにしてしまう。この事実に痛く矛盾を感じたイギリス人ステーブル・フォードは、最終ホールまでポジティブに楽しめるゲーム方式にならないものか考えた挙句、失点を合計する方式から得点を合計する方式に変えることを考えた。
つまりボギーを1点、パーを2点、バーディーを3点、イーグルを4点とし、ダブルボギー以上を0点とすれば、得点できなかったホールはさっさと中断して次のホールに進むことができる。
このゲーム方式によれば、大叩きする不愉快を本人も同伴競技者も味わうことなく、最終ホールまで興味を持続させることができる。このゲーム方式の普及によってプレーの進行が早くなり、コース全体のプレーヤーが不愉快な気分を味わうことが少なくなったといわれている。ヨーロッパ、オーストラリアで普及し近年アメリカにも大分普及してきたが、日本では全く行われていない。初心者4人が揃って10打以上打っている姿を見る度に、ステーブルフォードゲーム普及の必要性を痛感するのである。
なお点数の付け方は、トリプルボギーを1点として順次1点ずつ加算する方法、バーディーやイーグルにボーナスポイントをつける方法、ハンディキャップホールに加点する方法など、ゲームを楽しくし弱者にインセンティブを与える方法がいろいろ考案されている。
ステーブルフォードの根拠は理論的にも正当性がある。ストロークプレーはプレーヤーとコースの勝負であるから、ホールバイホールのマッチプレーでもあるわけで、プレーヤー側がダブルボギー以上を打ってコース側の勝利が確定すれば、コンシードつまりOKすることができる。従ってプレーヤー側がダブルボギーないしトリプルボギーを打った段階で、コンシードされたとみなしてボールをピックアップし次のホールに勝負を進める方が遥かに合理的でスマートである。そうなれば勝負の決まったホールをいつまでも女々しく続けることは、ゴルフマインドに反するばかりかプレー進行の妨げにもなり重大なエチケット違反となる。

以上、代表的な変則競技方式を掲げたが実際には未だいくらでもあるが、正式には人と人が対戦するマッチプレーと、人とコースが対戦するストロークプレーの二種類が大原則で、ルールも両者を対象に定められている。他は全ていずれかを応用した変則ゲームであるが、変則ゲームは未経験者や入門者、男性と女性、弱者と強者が同等にゴルフを楽しむ場をつくり、多くの人にゴルフをする機会を提供することができる。
ゴルフゲームはマッチプレーに始まり、ストロークプレーによって世界中に普及していったが、この二種類のプレー方式を大原則とするものの、ゴルフの魅力は多くの人を魅了し、地域や国境を越えて友好や親善に役立ってきた。理由はゴルフゲームが世代年齢、技量経験、男女性差、身分階級、国籍人種などの人と人を隔絶するあらゆる障害を超越するに足る、倫理道徳と知性文化を兼ね備えているからである。ゴルフがもつこの偉大な悠久性は、これらの障害要因をことごとく語るも恥ずかしい矮小なものにしてしまうほど遠大深淵な潜在力を秘めているからである。