- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
フィロソフィー - 第二章
セオリー - 第三章
メソッド - 第四章
ゲーム - INTRODUCTION
- -1 ショットとパットの
複合ゲーム - -2 マッチプレーの思想と特徴
- -3 ストロークプレーの
思想と特徴 - -4 パーシステムと
ハンディキャップ競技 - -5 ハンディキャッピングと
スロープレーティング - -6 変形競技方式
- 第五章
サイエンス - 第二部 ゴルフマネジメント科学
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
Section 5 ハンディキャッピングとスロープレーティング
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概念
ストロークプレーに起きたイノベーションは、人と人の勝負を互角にするためにハンディキャップが利用されていたものが、人とコースの勝負にも利用できるよう改革された点にある。先にも触れたように人とコースの真剣勝負という概念を提唱したのはボビー・ジョーンズが最初といわれるが、ジョーンズはその人柄から推して人と人が直接対決して勝負を競うマッチプレーは余り好きではなかったようだ。それゆえに闘争心むき出しで相手に対決し、ホール毎に勝負を決する試合にうんざりしていた様子が窺え、試合を離れて尊敬する父や親しい友人たちと心置きなくゴルフを楽しみたいと願っていたことが著書「ダウンザフェアウェイ」に書かれている。ゴルフが友好や社交の手段として盛んになった現代では、ボビー・ジョーンズの概念は実に適切にして時宜を得ており、ストロークプレー改革の基本理念にもなりえたのではないか。
ハンディキャップ概念には弱者保護や平等意識が根底にあって、如何にして公平互角な勝負の舞台を演出し、誰にも機会均等なシステムを構築することができるかが重要テーマであった。USGAハンディキャップシステムは、ゴルフの世界に理想の民主社会や平等社会を実現しようとした善良なるゴルファーたちの努力結晶としてゴルフ史に遺るであろうが、ゴルフがキリスト教価値観に支えられたジェントルマンシップに基づくスポーツゲームである限り、闘争心むき出しの争いや倫理道徳なき泥仕合は避けなければならない。私たちはハンディキャップシステムの中に人間の崇高なる理念や叡智を見出し、ゴルフ特有の深い歴史や文化を感じざるを得ないのである。
ハンディキャッピング
公平適切なハンディキャップを算定することをハンディキャッピングというが弱者保護の思想に基づいて、徹底的に検証した痕跡がその歴史に窺える。19世紀末には英国でパーやボギーの概念が確立し始め、1970年代になって米国で従来と異なる、より公平なハンディキャップに対する研究が始まったとUSGAの資料に記されている。先ずハンディキャップの計算根拠となるスクラッチプレーヤーの予想スコアを表すコースレートは、果たして客観的に妥当な方法で査定されているかが問われ検証されたとある。
1977年ディーンクヌース博士はコースレート査定に必要な10項目の要因を考案し、各項目を客観的な数値基準によって評価査定することを可能にした。1987年にUSGAは正式にコースレート委員会を発足させ、世界各国のゴルフ協会に働きかけて統一基準に基づく世界共通ハンディキャップ制度の実現を目指して研究と努力を開始している。各国連絡協議会やコースレートセミナーを開催して調整を図り、ついに1998年6月日本を除く世界各国ゴルフ協会協力のもとに世界共通ハンディキャップ制度の制定に踏み切ることができた。世界各国がUSGAシステムを世界基準として受け入れたことによって、日本だけがローカルハンディキャップになったものの、世界中のコースの難易度査定やハンディキャップ査定が統一され、USGAシステムをグローバルスタンダードとする世界共通ハンディキャップ制度が確立した。世界中の全てのゴルファーが共通基準によって自分の技量を知り、世界中の全てのコースに対して対等の勝負を挑むことができる環境が整ったのである。USGAハンディキャップシステムによって、ストロークプレーはプレーヤーとコースのホールマッチとなり、緻密なマネジメントゲームになったのである。
プレーヤーとコースに対するハンディキャッピングは、競技前の条件確認を可能にしたため、各コースはスタートハウスにコースハンディキャップ換算表(Course Handicap Conversion Table)を掲示して、各プレーヤーのハンディキャップ・インデックスに対して、使用ティー毎の対戦ハンディキャップを明らかにするシステムとなった。このように世界中どこのコースでストロークプレーをする場合でも、事前にプレーヤーとコースがお互いのハンディキャップを確認できるシステムをUSGA Handicap Systemといって、世界共通の制度ができた。従ってプロ・アマ問わず全てのプレーヤーは自分のHandicap Indexを持てば、ホールバイホールのコースマネジメントによって対戦相手となるコースと互角の勝負をすることができる。プロも最新のHandicap Indexを使ってどのホールでバーディーを狙い、どこでパーセーブするかマネジメントすれば相当の難コースでもアンダーパーでプレーできる。さらにマッチプレーを主流とするスコットランドのスタートハウスにも、ストロークプレーヤーのためにUSGAハンディキャップ換算表が掲示され、Handicap Indexの提示が求められる。各コースのスターターはプレーヤーのHandicap Indexを確認すれば、プレーが可能かどうか、どのティーならば可能かが判断できるからである。マッチプレーヤーと異なりストロークプレーヤーはプレーに時間がかかるから、事前にチェックすればコース全体の渋滞を回避することもできる。
全てのストロークプレーヤーは常に最新のHandicap Indexを携行する責任があることを承知していなければならないが、それは外国でレンタカーを借りるのに国際免許証の提示を求められるのと同じ道理と考えなければならない。自分の技量以上に難度の高いコースやティーでプレーすることは、他のプレーヤーに迷惑を掛けることになり、それはゴルフ規則第一章エチケットに抵触することを意味する。全てのゴルファーは、料金を払えば誰でもゲストとして歓迎されるという一般常識が、ゴルフの世界では全く通用しないことを承知し、コースではエチケットをわきまえ、かつHandicap Indexを提示して技量を証明できる者だけがプレーヤーとして歓迎されることを肝に銘じておく必要がある。
スロープレート
コースレートはスクラッチプレーヤーに対する難易度を表し、スロープレートはボギーゴルファーに対する難易度を表す。ハンディキャップを算出するうえで、従来はスクラッチプレーヤーの規定打数であるコースレートに対して何打オーバーしたかを加重平均していたが、それでは弱者であるボギープレーヤーに対する配慮に欠けるとの考えがあった。そもそもハンディキャップとは弱者に対する配慮から生まれた概念であるべきものが、全く配慮されていないことに根本的な疑問を抱いたものである。
USGAの資料によれば、1978年リチャード・ストラウド博士はハンディキャップ委員会に対して、ボギープレーヤーを配慮したボギーレートや偏差値を示すスロープなどの概念を導入すべきとの提案をしている。翌79年USGAは早速ストラウド博士を加えたハンディキャップ調査委員会を創設し、ディーンクヌース博士が中心となって、ボギーレートやスロープレートの概念を導入した今日のUSGAハンディキャップシステムを考案したとある。調査委員会は男女スクラッチゴルファー・ボギーゴルファーの定義を定め、それぞれのゴルファーの障害となる要因を分析して10項目に分類したのである。例えば男性スクラッチプレーヤーの第1打平均飛距離はキャリー225+ラン25=250ヤードに対し、ボギープレーヤーはキャリー180+ラン20=200ヤードというように技量差を数値化し、難易度査定に導入したのである。
このようにホール毎に10項目を査定することによって、スクラッチプレーヤーとボギープレーヤーの平均偏差係数が算出され、その数値が55から155までの100段階に示される。標準を113と定め100/113とか125/113という具合にボギーレートないしスロープレートとして偏差係数を傾きで表わすことにした。
例えば難コースのペブルビーチ・スパイグラスヒルコース(CR75.5/SR147)をグロス90でプレーした場合に、
従来方式 : 90-75.5 = 14.5オーバー であるのに対し
USGA方式 : (90-75.5)×(113÷147) = 11.1オーバー
となって、スロープレート(ボギーレート)の高い難コースのスコアをより評価する仕組みになっている。だからスターターはHandicap Index 9.0の人に対しては「90以上打つかもしれないがブルーティーから挑戦してみますか?」と提案するかもしれないし、Handicap Index 18.0の人には「ホワイトティーからプレーした方が楽しいと思いますヨ」と助言するだろう。
このように世界共通USGAハンディキャップシステムは、全てのプレーヤーが全てのコースティーと互角の勝負ができるシステムと条件設定を構築したのである。残念なことに日本だけ環境整備が行われず従来方式に依拠しているため、日本のゴルファーは緻密なマネジメントゲームの方法を知らない。日本人ゴルファーが国際舞台に弱いのは、言葉の問題以上に環境に問題があるように思える。
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