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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第一章 セルフマネジメント
Section 1 ボールコントロール

もしゴルフが人の手でボールを運び穴に入れるゲームであったなら、ボールは球形である必要もなく石ころでもよかったはずである。ゴルフをゴルフゲームたらしめたのは、人はボールに手を触れてはならないとしたところにある。人はボールに手を触れることができないために、道具を使って弾き飛ばさなければならないし、目的地にたどり着くのに四苦八苦することになってしまった。ボールがいつも手の中にあるならば意のままになるものを、常に人の手を離れて勝手に飛び回るために、人の意思がボールに伝わらなくて苦労する。人の意思どおりに動かすことをコントロールするといい、戦略的に動かして結果を出すことをマネジメントという。だから戦略に従って目標を設定し結果を出すためには、ボールは人の意思に従って動いてもらわなければならない。ボールはコントロールされて始めてマネジメント対象となりうる。
ゴルフゲームをマネジメントするには目標地点までの距離方向および意図する弾道に必要なパワー情報をボールに伝達し、ボールは指令どおりに移動してもらわなければならない。ボールがプレーヤーの意思にコントロールされたとき、ボールはパフォーマンスを発揮して優位なゲーム展開を進めることができる。300ヤードの飛距離を誇りながら何処に飛んでいくか分らないボール。真直ぐ飛び出すが先に行って右や左に曲がり方向の定まらないボール。グリーンを捉えても止まることができずにオーバーランしてトラブルを起こすボール。カップに入りたがらないボール。コントロールの利かないボールは私たちを大いに悩ませるが、全て私たちのボールに対する情報伝達ミスが原因であって、決してボール自体に欠陥があった訳ではなく、全て指揮官たるプレーヤー自身の責任によるものである。ボールの行動に関する結果責任は全てプレーヤーにあるから、セルフマネジメントの第一歩は、まず最初にボールを支配しコントロールすることから始めなければならない。

ボールコントロールの意義

ゴルフボールは砲弾や弾丸と同じで着弾点や標的を外しては意味がない。飛距離を誇るゴルファーは世に多いが、正確性を誇る人は案外少ないのは不思議なことだ。ドライバーはともかくアイアンは飛距離を誇っても意味を成さずクラブ毎に毎回コンスタントに一定の飛距離を飛んではじめて意味を成す。正確なアイアンショットはフラットで無風状態のときキャリーで何ヤード、ランを入れて何ヤードとその人なりに一定の標準飛距離が求められる。その人のクラブ毎の標準飛距離は他人と比較し競争しても意味がなく、例えば100ヤードをSW・PW・9I・8I・7Iなど使用クラブは問わず、正確に標的を捉える人を達人という。如何なるスコアにも使用クラブが記載されることはないし、使用クラブを指定されることもないから、プレーヤー自身の判断で使用クラブを選択しなければならない。このとき自分自身の標準距離がクラブ毎に定まっていなければクラブ選択もボールコントロールもできない。実際にアマチュアゴルファーの80%近くは標準飛距離が定まらず、常にもっと飛ばしたいと考えているようである。
ボールコントロールはフラット無風状態における自分自身の標準飛距離を知るところから始まる。標準飛距離は年齢・性別・体力・スイング完成度と深い関係があり、技量とは余り関係がないことも承知していなければならない。多くのゴルファーは飛距離や弾道にこだわる余り、勝手気ままに飛び回るボールの後を一日中追い掛け回し、主体性を失って茫然自失する。ゴルフゲームではボールを強打して遠方に飛ばす者ではなく、ボールを意のままに支配したものがゲーム全体を制する。

ボールコントロールの目的

多くの球技は得点数と失点数の差を競い合うが、ゴルフはストローク数の少なさを競い合う。それゆえに熱くなればなるほど、振り回せば振り回すほどストローク数を多くして敗北することが多い。史上最強の名手ボビー・ジョーンズは「ゴルフでは強振することが、さまざまな弊害に結びつく」と述懐している。ゴルフでは登山や冒険と同じように目標地点までの安全ルートと危険ルートを事前探索し、なるべく危険や無駄を避けてより安全により早く目標地点に到達しようとする性格がある。しかし人によっては、登山や冒険と同じようにゴルフも危険を冒してチャレンジするからこそ痛快だと断言する。これこそ選択の自由であるが、少なくとも常に飛距離や弾道を求め、危険を恐れずバーディーにチャレンジしている人に名手や達人はいないことは間違いない。
ボールをコントロールする目的は、ボールが危険や無駄を避けながら安全ルートを辿ってより早く目標地点のカップに到達して欲しいからである。どんなに素晴らしい飛び方をしても、谷底に転落し密林に入り込んで捜索隊を出すようでは痛快などと言ってはいられまい。ボールには常に安全地帯を行き、次のショットに有利なポジションをゲットしてもらうことを望みたいが、プレーヤー自身の見栄や虚勢によってボールの働きを阻害し、自らを窮地に追い込むことが少なくない。
ボールが進むルートを探索することをナビゲーティングというが、ルートは常に一本ではなく何本もあることを忘れてはならない。更に名人や達人ほど多くのルートを知っており、初めてプレーするコースでもすぐ数本のルートを探索する能力を持っている。反対に初心者ほどルートもリスクも見出すことができず、次々に設計者の仕掛けたトラップ(罠)にはまることになるが、設計者は初心者より上級者に対してトラップを仕掛けることが多いから、上級者ほどトラップを見抜く能力は高いといえよう。
トラップはバンカーやウォーターハザードのように見てすぐ分かるものだけでなく、距離障害、設計障害、地形障害、自然障害、視覚障害など見抜くのに経験を要するものも少なくない。このようなトラップに対してボールをコントロールして対応するが、その目的は単にトラップを避けたり逃げたりするだけでなく、積極的にチャレンジすることも意味する。

距離障害に対しては自分自身のクラブ毎の飛距離を正確に把握し弾道の性質を知ることによって対応する方法がとられる。例えば200ヤードの距離を要求されたとき、ランも含めて200ヤード、キャリーで正確に200ヤード、絶対200ヤード以内ではコントロールの内容はそれぞれ異なる。
ランも含めて200ヤードならば高い弾道のボールを打つ必要はなく、良く転がるロフト角度の少ないクラブでスピンがあまりかからないように軽く打つだろう。途中にウォーターハザードやヘビーラフがあって、キャリーで正確に200ヤードを要求される場合には、比較的高い弾道やバックスピンがかかった滞空時間の長いボールを打たなければならない。ボールは打ち出し角度やスピンによって空中距離を確保するようコントロールされるが、現実は複数の障害が重なり合ってコントロールを複雑にしている。ランを含めて200ヤードの場合、途中がダウンヒル・アップヒルの地形障害でコントロールの内容は全く異なるし、追い風・向かい風の自然障害によっても打ち出し角度をコントロールしなければならない。
キャリーで正確に200ヤードを要求される場合は、地形障害の影響は受けないが風という自然障害の影響を大きく受ける。風という自然障害は距離方向を大きく狂わせ、ボールコントロールを大変難しくする。だからスコットランドのように強風が吹き荒れるコースでは、気象条件によって実質コースレートが10も15も変わることも承知していなければならない。
そして絶対200ヤード以内というように距離制限を要求される場合は、多くの場合に距離オーバーによって大きな危険が待ち受けることが多い。深い谷や林、ヘビーラフやOBなどリカバリーを困難にすることが多いだけに絶対距離制限には注意が必要である。一般的に距離不足はワンストロークのロスで済むが、距離オーバーは大きな犠牲を伴うことが多いといわれる。経験豊富な達人たちが口を揃えて言うだけに、ゴルフコースとはそのように設計されているものなのであろう。

設計障害は設計者が意図して造ったトラップであるから、罠にはまる方が悪いといえるかもしれない。トラップは最初から設置された物だから逃げも隠れもしないし、存在を確認できるだけに油断しがちである。多くの場合、ショットする位置から見えるように設けられ、避けるルートが必ず設けられているからそれを承知の上で罠にはまるのは、ミスショットか冒険した結果であってまさに自業自得といわなければならない。しかし設計者の意図はそれほど単純ではなく、プレーヤーの心理や未熟を衝く巧妙なものであるから油断できない。
例えばティーショットから200ヤード前後の右サイドバンカーはアベレージゴルファーの80%以上が打ってくるポジションだし、250ヤード前後の左サイドバンカーは上級者の50%以上が打ってくるポジションである。設計者が優しい性格ならば200ヤード前後のフェアウェイを左サイドヒルに、250ヤード前後のフェアウェイを右サイドヒルの設計にするはずだし、厳しい性格ならば逆にするだろう。前者ならコースレートポイントもスロープレートポイントも低くなるし、後者なら双方とも高くなる。
このように設計者はプレーヤーの技量や習性を読んだうえで罠にはまるよう設計するから、アベレージゴルファーは勿論トッププレーヤーといえども大事な場面でトラップにつかまるのである。罠とは捕まえようとする動物の本能や習性を利用して設置するものである。だからプレーヤーはマネジメントを怠り、本能や習性の赴くままにコントロールの利かないボールを打っていれば、間違いなく設計者の罠にはまることになろう。

地形障害はゴルフコースが自然の地形を利用して造られているが故に自然発生する障害である。アップ&ダウンヒル、左右サイドヒル、ドッグレッグがその典型となるが、いずれのケースも物理原則や生体原理に従って、弾道傾向に逆らわないボールコントロールが必要である。前上りサイドヒル及びアップヒルではフックボールが、前下りサイドヒル及びダウンヒルではスライスボールが出るのは理に叶った自然現象であって、否定したり逆らうのは無知のなせる業と心得なければならない。地形によってライ角度やロフト角度が変わるから弾道も距離も変わるのが当然で、地形障害に対しては自然現象に逆らわないことがコントロールの意味になろう。

自然障害に対する対応は最も厳しく難しい。自然障害とは風雨、芝草、樹木など人の意思が及ばない障害をさすが、殆んどの人はこの自然障害の前に挫折し屈服してはじめて人として成長し、偉大なプレーヤーになる。自然障害は神が人に与える試練ともいわれ、スコットランドのリンクスランドゴルフは自然障害に対する挑戦でもある。自然障害は人の野望や傲慢を悉く打ち砕き、忍耐を学ばせるものであるだけに、ボールをコントロールする以前に己の精神をコントロールしなければならないが、マインドコントロールはSection 3に譲ってここではボールコントロールについてのみ説明する。
スコットランドのプレーヤーは風に対して影響を受けにくい低い弾道のボールで対応してきた。ロフト角度の少ないクラブを使うか、ディセンディングブローに打って弾道を低くコントロールすれば、風の影響は最小限にできる。第一部3章メソッドの項で詳説したインテンショナルロウの弾道である。このような弾道のボールを打つには「少しでも飛ばしたい。素晴らしい弾道で打ちたい」という願望に溺れることなく、ひたすら低い弾道にコントロールすることに専念しなければならない。