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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第一章 セルフマネジメント
Section 2 スイングコントロール

原理原則に叶った一定のスイングから多彩なショットを繰り出す現代ゴルフは常に安定したリズム・テンポでスイングが反復されることが生命である。距離弾道変化はクラブ機能に委ね、スイングの5段階調節によって同一クラブの距離弾道を微調整する。テンポを一定に保ちつつスイングの振り幅を調節することによってヘッドスピードを変え、距離調節する方法は昔から行われていたようだが、システマティックに体系化されたのは1970年代以降である。それ以前にもハーフスイングとかスリークォータースイングという表現でスイングをコントロールする概念はあったが、あくまでも感覚的な概念で人により解釈もまちまちであった。つまりスイングテンポが常に一定であるという前提条件が確立するまでは、スイングの大きさを調節してもヘッドスピードまでコントロールしたことにならなかったからである。

ワンスイング概念の確立はゴルファーにとって永遠の理想であった。ウェッジからドライバーまで同じスイングで打てたらどんなに楽だろう。ゴルファーたちは長い間そのように考えてきたが、現実には不可能だったから永遠の理想になったのである。理由は第一部で述べた如く、クラブが一本一本手作りの手工芸品だったからである。ケネス・スミスによってバランス計が開発されるまではフルセットを持っていても14本ともバランス、重量、硬度がバラバラで、一定のスイングではとても対応できるものではなかった。上級者になるほど自分のクラブの改良を試み、原形を留めぬほど改良したクラブを持っている人が多かった。プロの紹介欄には必ず得意なクラブが書かれていたが、難しいとされたロングアイアンを得意とするのはヘイル・アーウィンくらいで、誰にも苦手クラブがあったことを意味する。

システマティックなスイングコントロールを可能にしたのはワンスイング概念の確立であり、ワンスイングを可能にしたのはクラブ製造技術の進歩である。多彩なスペックを持つ均質なクラブが安価に大量生産できるようになったことは大衆ゴルファーにとって福音であった。誰もが合理的な基本セオリーに従ってトレーニングすれば、高度なメソッドを容易にマスターできるようになったのだから、入門段階から計画的なマネジメントプランを立てて技術向上を図るならば、ひとり一人が潜在能力を引き出して大きなパフォーマンスを発揮することができるようになった。現代ゴルフは多くの人にそのようなチャンスを提供した点においてイノベーションに成功したといえる。

スイングコントロールの意味

ワンスイング概念が確立してからはスイングコントロールの意味が変わった。前述した如く、スペックのばらばらなクラブセットに対して、自分のスイングを調節して対応していた時代は、各クラブのパフォーマンスを引き出す方法としてスイングコントロールを考えていたようである。言い換えると、同じスイングでは打てるクラブと打てないクラブがあって、どうしても自分のスイングをコントロールしなければならなかったのである。以前のレッスン書を見るとドライバーの打ち方、フェアウェイウッドの打ち方、ロングアイアンの打ち方、ショートアイアンの打ち方という具合に、クラブタイプ別に「打ち方」が違うと書いてあった。つまり同じ打ち方では各クラブに対応できなかったのである。スイングコントロールとはクラブに合わせてスイングそのものを調節することを意味していた。真偽の程は定かでないが、かつてバランス計ができたときに試しにボビー・ジョーンズのクラブを計ってみたところ、全てのクラブが同じバランスだったという伝説がある。ボビー・ジョーンズは全てのクラブを改良して自分のスイングに合わせていたことを意味する。頭の良い彼は、既にこの時代にワンスイング概念を確立し、システマティックにクラブを機能させていたのではないかとも考えられるのである。
現代ではスイングコントロールとは一定スイングの振り幅を調節してヘッドスピードを変え距離調節することをいう。スイングテンポが一定でクラブスペックが同じであれば、全てのクラブに対応できるメソッドと考えられている。

スイングコントロールの概念

スイングコントロールの意味が変わり概念が確立したのは、スイングの科学的探究とクラブ製造技術の進歩によるものである。振り子運動の原理に従い一定のテンポを保ったスイングの振り幅を変えたとき、クラブヘッドの移動距離が変わる。速度×時間=距離の関係にあるとき、時間が一定であるならば速度は距離に比例する。つまり時間=スイングテンポが一定であることを前提条件にして成り立つ関係であることが重要である。だから帰納法によって飛球の法則を導き出したワイレン理論に対して、演繹法によってテンポをスイング原理に選択したコットレル理論は、共に現代スイング論の確立に大きな貢献をしたことを意味する。
テンポを一定に保ってスイングをコントロールする概念が如何に分りやすいか、スイングの大きさを一定に保ってテンポを変えてみればすぐ理解できるだろう。ましてスイングの大きさとテンポの両者を可変要因としたら組み合わせは無限に拡大して、とてもシステマティックに対応することはできない。Simple & Easyの基本原則に従ってテンポを一定に保ちスイングの大きさを変えることによって、システマティックに距離調節できるようになった。近年はクラブがオプションギア化したために、いろいろな機能を持ったクラブが開発され、スイングコントロールひとつで実に多彩なショットを放つことができるようにもなった。これら全て科学的イノベーションの成果といえよう。

5段階スイングコントロール

本書第一部で詳説したが、スイングの大きさを時計の文字盤をイメージしてコントロールする方法は、1976年National Golf Foundationから発刊された全米統一テキスト「Golf Lessons」及び「Golf Instructor’s Guide」に掲載されたのが最初と思われる。既に当時、時計の振り子原理に基づくスイング論が確立しつつあった時代に、時計の文字盤に合わせてスイングをコントロールする考え方は、万人にとって理解できる普遍概念になりつつあった。70年代は世界中の時計がアナログ文字盤を使用し、いたるところで大きな振り子時計を見かけた。世界共通の概念でスイング論を確立し、コントロール感覚を説明したことは高く評価され、恒久的な説得力を持つものと考えられる。世の中からアナログ時計が無くならないことを願うばかりだが、振り子時計は姿を消したが文字盤は残りそうである。
大きさや強さなどを言葉で表現することは大変難しく、人に伝達しようとすると不可能という以前に誤解の原因になってしまう。そこで考案されたのがイメージクロック - imaginary clock - という概念で、大きな時計の文字盤を背にして8時-4時、9時-3時という具合にスイングの大きさをアナログイメージで時間表現する方法がとられた。この方法ならば10歳の子も60歳の人も同じイメージを抱くことができるし、10歳の子が60歳になっても同じイメージで思い出すことができる。このように特定技術を誰でも何時でも再現できるシステムにすることを科学的管理法 - scientific management - という。さらに言及するならば、その方法手段は高度な熟練技術者でなければ達成できない領域にあっても、その高度な技術を子供や高齢者もSimple Easyに理解し、システマティックにトレーニングすれば容易に再現できる方法まで単純化することができる。

 

イメージクロックは次のように分類し理解される。

第1段階    7時-5時 両手が7時と5時を指す
第2段階    8時-4時 両手が8時と4時を指す
第3段階    9時-3時 両手が9時と3時を指す
第4段階    10時-2時 両手が10時と2時を指す
第5段階    フルスイング  各人の最大スイング

 

まずプレーヤー自身が自分の背中に時計の文字盤があることをイメージする。文字盤は身長代で両手を水平に広げた状態で左右の手の位置を9時3時とする。6時と9時3時の間を各三等分し7時5時、8時4時の位置を確認する。鏡やガラスの前に立って写った自分の姿を確認すると正確にイメージできる。このとき腕やクラブを針に考えると誤解や混乱の原因になるので、必ず手の位置が何時の位置にあるか確認しなければならない。なぜならば腕は肘の位置でヒンジし、腕とクラブはグリップの位置でコックするから、時計の針が曲がったイメージになり、何時を指しているか分らなくなるからである。必ず手の位置で時間を確認することは、スイングをコントロールするうえで極めて重要な定義である。相当な上級者であっても、明確に手の位置が時間であると定義していないため、腕やクラブを見て錯覚し混乱している人がなんと多いことか。
マネジメントするうえで大切なのは、テーマに対して定義や基準を明確にしておかないと、目的が達成できないばかりか評価も分析もできずにコントロール不能の状態に陥ることがあるということだ。人によらず組織によらず、パフォーマンスがうまく発揮されていないときは、マネジメント上重要な定義や基準に不明確さがないか再確認してみる必要があろう。

同一テンポの意義

ワンスイングをコントロールするに当たって、最も重要な概念は同一テンポである。テンポの概念を明確にしたのはエド・コットレル博士であるが、テンポ、タイミング、リズムは明らかに異なる概念にもかかわらず、これらの概念が混同して使われることが多い。テンポはスイングに要する動作時間、タイミングはスイングの動作順序、リズムはスイングの動作感覚と定義したが、特にワンスイング時代に入ってテンポが重要な概念になったのは、距離弾道をコントロールするのに、スイングの大きさをコントロールしてヘッドスピードを変えるようになったことによる。
1980年代にジャック・ニクラスがドライバーからウェッジまで全てのクラブを同一テンポで打って見せ、ワンスイング概念を披露して私たちを驚かせた。「全てのクラブを同じスイング感覚で打てたら」というゴルファーたちの永遠の理想を彼はテレビの前で実際にデモンストレーショしたのである。ドライバーショットとウェッジショットを重ね合わせ、全く同一であることを帝王自ら証明して見せたことに私たちはどれほど驚いたことか。それはイノベーションの成果であり、スイングメカニズムが科学的に完成した姿であった。
スイングテンポが同一であるならば、スイングの大きさをコントロールすれば、全てのクラブについて比例的にヘッドスピードをコントロールすることができる。前述した如く、速度×時間=距離の関係にあるならばヘッドスピードを定量変化させるには、時間を定数にすることが命題であったことが理解できる。実はトッププレーヤーも緊張場面でスイングテンポが変わるとタイミングやリズムも連鎖的に狂い、大きなトラブルを生むことがメジャートーナメント最終バックナインで頻繁に起こっているのは注目に値する。