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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第二章 コースマネジメント
Section 1 コースレーティング

自然の地形を利用して建設されたコースは千差万別であり、難易度も異なる。USGA基準ではスクラッチプレーヤーとボギープレーヤーの難易度を各ホールに表示し、全てのプレーヤーが公平に互角の勝負ができるステージを用意した。 コースレーティングとは各ゴルフコースの難易度を定めることをいい、コースレートとは査定された難易度そのものをいう。通常68.3とか72.5のように表示され、コースレートとパーは関連する概念であるものの、それぞれ異なった概念として使われている。例えばパー72のコースでも、コースによってコースレート68,3であったり72.5であったり73,6であったりしてパーと異なる数値が表示されている。つまりコースレートが低ければ易しいコースであり、高ければ難しいコースであることを現わしている。
例えば同じ90ストロークでプレーしたとしても、コースレート68.0のコースならば94ストロークでプレーしたことになり決して良い結果とはいえないが、コースレート74.0のコースならば88ストロークでプレーしたことになると考えられている。このように同じスコアでもプレーしたコースの難易度によってスコアの評価は異なり、単純にスコアだけで比較することができない。コースは自然の地形を利用して造られ、戦略的にもそれぞれ個性や特徴を持っているので難しさに差が出るのである。このようにスキー、登山など自然を相手にするスポーツは全て難易度によって条件が異なるので、要求される技術や戦略も異なる。従ってストロークプレーでは対戦相手となるゴルフコースの難易度が事前の情報として重要な意味を持つことになる。
コースレートという概念は1900年代から米国で提唱され始め、数々の変遷を経て今日に至っている。英国では1926年スタンダード・スクラッチ・スコア(S.S.S)という概念が採用されたが、これはハンディキャップ0のプレーヤーが標準的な条件の下でプレーしたときの標準スコアをパーとは別に表したものである。コースレートもS.S.Sも各コースの難易度を示す数値に変わりなく、いずれもストロークプレーによるゴルフの普及大衆化に伴い、技量の異なる老若男女が少しでも公平にプレーできる条件を整えるための努力であった。コースレートは全米アマチュアチャンピオンが決めたらどうかとか、各クラブのチャンピオンのベストスコアで決めたらどうかとか、紆余曲折を経ながら徐々にコ-スレートの概念が確立してきたが、いずれもスクラッチプレーヤーの経験や判断に基づく非科学的な方法によるものであることに変わりなかった。
米国では1977年にディーン・クヌースによって各ホール10の要因から数値査定する科学的方法が提案され、ボギープレーヤーの難度を考慮するスロープレートの概念も導入されて、画期的なイノベーションが進んだのである。その結果、1998年新しいUSGAコースレーティングシステムが交付され、英国・日本を除く豪州、カナダ、メキシコ、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、中国、台湾、韓国、インド、マレーシア他ほとんどの国がUSGAシステムを採用することになり、世界共通のワールドワイドなコースレートシステムが普及し始めたのである。英国はゴルフに対する思想理念が、米国とは根本的に異なるためにUSGAの提案に賛成しなかったが、日本は単純に文部省による「外国技術ノウハウの導入禁止」規制のために世界の潮流に乗り遅れ、国際基準から外れて日本固有の姿に逆戻りしてしまった。

コースレートの見直し

伝統を重んじる英国では依然としてマッチプレーが主流のようだが、米国ほかゴルフ新興国ではストロークプレーの普及によってゴルフが大衆化した。ストロークプレーはマッチプレーと異なり、プレーヤー同士の対決ではなくプレーヤーとコースとの闘いであるから、一緒にプレーした者同士に感情的な対立や遺恨が残らないという長所がある。それゆえ社交や友好に役立つと同時に自己審判制度によって人格形成に役立つことから、多くの人々に愛好されるようになった。そして多くの国々に於いて、誰とでも公平に勝負ができるようにハンディキャップ制度も普及していった。しかし米国では、より民主的で公平なハンディキャップの在り方について研究が進んでいた。ハンディキャップ0のスクラッチプレーヤーを基準にして難易度やハンディキャップを決めること自体が不公平ではないのか、という極めて素朴な疑問から見直しが始まった。そもそもハンディキャップ制度は、強者と弱者の互角勝負を可能にする条件設定のことだから、弱者であるボギープレーヤーを基準に難易度やハンディキャップが決められた方が良いはずだという考えである。
このような考えから生まれた概念をスロープレート ‐Slope Rate‐ という。この概念は既に1890年頃から英国にあったようで、マッチプレーにおいてもコースという見えない架空の相手にコロネルボギー ‐Colonel Bogey‐ という名前を付け、ボギープレーヤーという概念ができ始めていた。このプレーヤーは距離の長いショートホールを4、ミドルホールを5、ロングホールを6のボギーでプレーするMr. Colonel Bogeyのことで、常に76から80で回るステディーゴルファーを意味した。とはいえコロネルボギーはハンディキャップ5前後の立派なローハンディキャッパーである。これではとても弱者とは言えないので、あらためてボギープレーヤーを定義づけることにした。
1979年全米ゴルフ協会USGAは調査委員会を発足させディーン・クヌースが提唱するボギープレーヤーのスロープレートを含む研究を開始した。1911年に確立された従来のコースレートシステムは、1988年大幅に改善され新制度としてスタートしたが、そこにはコースとプレーヤーの互角の真剣勝負を可能にする科学のメスが入れられた。その背景には人対人のマッチプレー概念から、人対コースのストロークプレー概念への対応変化と、人対コースの力量調整の機能が含まれているものと解釈される。

USGAコースレート

新たなコースレート基準はスクラッチプレーヤーとボギープレーヤーの難易度を区分し、スロープレート概念を導入して明確に両者の公平を期した。従来は通常のコースコンディションと天候状態の下でスクラッチプレーヤーといわれるUSGAオープンの予選を通過できる程度のプレーヤーがプレーしたときの難しさだけをコースレートとして表示していた。しかしこれでは余りにも曖昧な表現で科学的とはいえない。USGA委員会はディーン・クヌース博士の提案に基づいてパーレートとボギーレートを計量測定できるよう査定基準を定め、1998年発表されたUSGA Course Rating System Manualには詳細な規定が定められて各コースの難易度査定から極力恣意性を排除することにも成功した。
例えばコースレートの基準となるスクラッチプレーヤーについても

 

「男性スクラッチゴルファーとは全米アマチュアチャンピオンシップのストロークプレー予選通過者のレベルでプレーし、平均250ヤードのティーショットを打つことができて470ヤードのホールを2打でオンできるものとし、このプレーヤーの上位半分のスコア平均はそのコースのUSGA男性コースレートに等しいものとする。」

 

としている。女性についても同様に

 

「平均210ヤードのティーショットを打ち、400ヤードを2打でオンさせるプレーヤー。」

 

としている。
基準定義が定まれば他の条件定義は次々と定めることができる。従来は単純に距離の絶対数をもって難度査定していたが、ショットの誤差や正確性にも基準を設け、難度査定をより厳格なものにしている。例えばトラディションゾーンという概念を導入し、ボール着弾点の前後左右にアローワンスを認めて前後に10ヤードずつ、左右に20ヤードずつ誤差を設けて正確性の基準を定めているが、このトラディションゾーンに障害物があるかないかでコースレート査定が変わる。基準を定めるに当たってまず基準点を定めることが大切で、基準点を定めることで男女の差やボギーゴルファーあるいはセカンドショットの正確性を規定することができる。
基準を定めれば地形や設計が異なる全てのコースに対して、共通基準に基づくコースレートを査定することができる訳で、ワールドワイド・ハンディキャップ制度は共通基準ができて初めて可能になったのである。旧制度は査定委員や査定時の状況によって違いがあり、時には手盛査定や手抜査定が全くなかったわけではない。査定制度が特定査定員の恣意性に頼った聖域である限り、共通性や客観性が損なわれるのは当然で、従来の査定制度に欠陥があるとして批判する前に、改革に取り組んだUSGAこそ高く評価されるべきであろう。

スロープレート概念

ハンディキャップに対する考えやシステムの根拠は、騎士道精神に基づく弱者保護の思想や、民主主義原理に基づく万人公平理念によるものと考えられる。人と人が対決するマッチプレーでは大変理解し易いハンディキャップ概念も、人とコースが対決するストロークプレーでは少々分りづらい。しかし異なる複数のコースでプレーしてみると、良いスコアが出るコースと悪いスコアしか出ないコースに分かれてくる。これは明らかにプレーヤーの好みの問題ではなくコースの難易度の問題である。
スクラッチプレーヤーやローハンディキャッパーは挑戦するコースのコースレートからハンディホールを想定できるが、ボギープレーヤーは失敗の確率が高いうえ安定性に欠けるから、挑戦コースに対するハンディキャップ査定が難しい。ボギープレーヤーを定義するのが難しいのはスクラッチプレーヤーより遥かに不確定要素が多いからで、例えば飛距離をみても当たったときと当たらなかったときの誤差が大きく、当たれば300ヤードも飛ぶが方向が確定できないとか、当たらなかったときは空振りか100ヤードも飛ばないというのが一般的傾向である。しかしボギープレーヤーの中には180ヤードのティーショットと160ヤードのセカンドショットを正確に打ち、めったにスリーパットしないステディーゴルファーもいる。このようなプレーヤーは距離が長いコースは90前後で回るが、距離の短いコースなら80前半で回ることができる。
距離だけを障害要因として考えると、ボギープレーヤーを一元的に定義することができないばかりかハンディキャップを査定することも難しくなる。そこで個々のプレーヤーの習性に囚われず、一般的にスコアを崩すコース上の要因を検証し、その要因にポイント設定してホール毎にポイントを集積する方法を考案した。このポイント集積法を提案したのはディーン・クヌース博士で、この方法によれば一定の訓練を受けた複数の査定員が査定しても18ホール当たり0.1ポイントの誤差も生じないといわれている。理由は簡単でUSGAコースレート・システムマニュアルによれば、各ホールに定められた障害要因があるかないかを検証し、定められたポイントを表に記入していく方法だから査定評価というより測定判断というべきものなのである。見落としや誤記、計算ミスがない限り間違いが発生する余地がなく、4人の査定員が最後に検証すれば一致するようにできている。
障害要因は地形障害、自然障害の他に人工障害としてハザードやOBなどがあるが、各障害に0から10までの障害度ランキングがあり数値を記入していけばコースレートとボギーレートが算出されるシステムになっている。USGAスロープレートはボギーレートとコースレートの差に5.381(女性4.24)を掛けて四捨五入した自然数と規定されているから、計算違いしない限り自働的に算出される。スロープレートは55から155までの数値で表わされ、標準を113と定めているが113以上なら難しく、113以下ならば易しいことを意味する。ちなみにスロープとはハンディキャップとスコアの相関関係を示す傾きのことでα/113で表わし、スロープの高いコースではHP18の人が容易にスコア90以下で回れないことを表わしている。
スロープレートの概念はストロークプレーに画期的な変革をもたらし、ゲームをマネジメントするうえで重要な要因になった。スロープレートはコース難度の偏差値を表わすから、プレーヤーは自分の技量偏差値を表わすハンディキャップインデックスと比較検討して、事前にゲームプランを立ててゲームをマネジメントすることができる。コースレート概念だけでは難しいコースも易しいコースも同じように扱われ、プレーヤーのパフォーマンスは正当評価されたことにならない。ハンディキャップ18のプレーヤーがスコア90で回ったとしても満足すべき結果かどうかはスロープレートによる。初心者や中級者がスロープレートの高いコースでプレーしても楽しむことはできないが、上級者なら挑戦意欲が掻き立てられて、結果に拘わらずゲームを楽しむことができる。人がコースに挑戦するストロークプレーにおいて、スロープレートは対戦相手の難度を知るうえで大切な情報になったのである。今は日本を除く世界中ほんどのコースがUSGAスロープレートを掲示し、スコアカードに記載しているから誰もがそのコースの難度を知ることが出来る。さらに自分のハンディキャップインデックスと連動したコースハンディキャップを使って、有効なコースマネジメントを行うことができるようになった。