NGF WORLD Golf Campus Image
  • メンバーログインは右の [ Login ] ボタンをクリックしてください。
National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第二章 コースマネジメント
Section 3 ナビゲーティング

経済的繁栄を誇った米国でさえゴルフが国民スポーツ化したのは第二次世界大戦後である。世界恐慌と世界大戦によって多くのゴルフ場は破綻し荒廃したが、戦後NGFのゴルフ場再生プログラムによってプライベートとパブリックに分類整備され、誰もが安い料金でゴルフを楽しめる環境が整った。退職者、学生年金生活者など一般的経済弱者の立場にある人たちが、終日ゴルフを楽しめる欧米諸国の環境は私たち日本人から見ればユートピアである。本来のゴルフは市民の健全な娯楽や生涯スポーツであって決して金持ちの道楽ではない。ゴルフが一部の特権階級や成功者によってプライベートクラブ化したのは近代になってからのことであって、ゴルフがこのような人たちによって考案され普及した事実は何処にもない。クラブの起源も18世紀に入ってからのことでクラブが先かコースが先かといえば、明らかにコースが先である。セントアンドリュウス・オールドコースは現在もパブリックスペースで誰もが自由に出入りすることができる。
つまり本来ゴルフコースは公園であって空や海や道路と同じように誰もが通行できるパブリックスペースだから、安全航路が設けられ危険地帯や通行障害区域が地図上に示され注意を促している。そのために多くのコースがコースマップを用意して、俯瞰図やコースレイアウト図によって安全ルートや障害区域が一目瞭然に分るようにしてある。
それに対してプライベートコースはメンバー以外プレーすることがないから、コースマップを用意し安全ルートを示す必要がない。メンバーは何百回も回っているからコースの何処に危険が潜み何処に安全ルートがあるか、自宅の庭を歩くように承知していて目隠ししてもプレーすることができるほどである。
日本のコースは経営コンセプトが曖昧で、会員制パブリックというかビジターによって経営を成り立たたせながらメンバーコースと称しているため、ビジターに厳しくメンバーに退屈なコースが多くなった。現代は多くの大衆ゴルファーがホームコースを持たず、いろいろなコースをセルフでプレーする時代になったので、コースの設計も経営もコンセプトを明確にしないと存続が危ぶまれる時代になった。そこで多くのパブリックコースはホームページやパンフレットを使ってビジターに情報を提供しゲームのマネジメントに役立てようとしている。ビジターにとってこの情報はガイドマップでありキャディーの役割をするものであるが、多くのビジターはコースに対して不慣れであるから、キャディーにガイドしてもらわなければ満足なプレーができない。船舶が水先案内人を必要とし航空機が管制塔を必要とするのに似ている。しかし欧米諸外国のゴルフはすっかり大衆スポーツ化して今ではキャディーを全く使わない完全セルフプレーになっており、キャディーを使うのは今やゴルフ後進国の象徴といえるほどである。

ナビゲーティングの重要性

不慣れなコースをキャディーなしでプレーするにはマネジメントが必要である。ティーショットするにも何ヤードをキャリーで運び、何ヤード以上を打ってはならないか。どの方向に打てばよいか。ドローかフェードかストレートか。ミスしたとき右が危険か左が危険か。ボール落下点のフェアウェイの傾斜は。風の強さと向きは。セカンドショットに有利なポジションはどこか。これら一連の状況判断によってクラブを選択し、弾道を決定してルートを定める過程をナビゲーテイングという。キャディーはこれらのことを充分承知のうえで方向と距離の指示をするが、風速や風向も観察してクラブ選択の助言をし、絶対打ってはならない危険な場所も警告する。特にグリーン上のナビゲーティングは大変重要で、アンジュレーションやグリーンスピードによる曲がり具合を考慮してパットラインを読み、スパットや仮想カップを指示してくれる。よく訓練されたキャディーがつけば10ストローク以上違うというが、キャディーのいないセルフプレーで、自らナビゲーティングできるかはゴルファーにとって重要な課題になった。
如何に良いショットをしてもナビゲーティングを間違えば次々にミスショットの連鎖を起こし、スコアがまとまらないばかりか集中力を失ってゲーム全体を台無しにする。キャディーは常に客観的にプレーヤーを見ているし、自我や欲がないから冷静な判断を下せるが、プレーヤー自身は一端頭に血が上ったら収拾がつかない。セルフプレーの難しさと危険性はここにあり、セルフプレーの時代を迎えてナビゲーティングの重要性が再認識された。
多くの人はビッグショットの打てるプレーヤーを上級者と思いがちだが、実際は決してそうではなく、貧打の持主でもナビゲーティングの巧みなプレーヤーは実力がある。ナビゲート ‐navigate‐ とは航海とか操縦を表わす言葉だが、ゴルフの場合はゲームを誘導するとでも訳せば分りやすいかもしれない。
具体的にはティーショットではセカンドショットを考慮し、ミスした場合も大きなトラブルにならないポジションにボールを運ぶ技術などを指すから、必ずしも目の覚めるようなショットを要求しない。貧打に見えてもボール地点に行けば、そこがベストポジションであることが分るナビゲーティングは一級であろう。よい方向よい所に誘導して常によい結果を生み出していくゲーム展開は優れたナビゲーティングの結果といえよう。優れたナビゲーターは常に状況を把握し先を読んでゲームの流れを壊さないし、逆に悪い流れを変える策も知っているからミスの連鎖を起こさない。優勝を争うトッププレーヤーといえども、ひとつのミスに端を発して次々とミスを誘発し優勝戦線から脱落する姿をどれほど見ることか。ナビゲーティングの重要性を思い知らされるが、次のショットが容易な所や安全なポジションにボールを誘導する自制心や洞察力を伴わなければナビゲーティングにならないことも分る。

ナビゲーティングの方法

キャディー任せだったことを自分で行うとはどういうことか。これがセルフプレー時代のコースマネジメントの課題である。バンカーを均したり、ボールマークやディボット跡を修復することだけではない。状況を観察する、ターゲットを定める、距離を測定する、クラブを選択する、ボールの行方を確認する、アプローチ方法を決定する、アンジュレーションを見る、パットラインを読む。これら全てがキャディーに代わって自ら行わなければならないナビゲーティングである。
ナビゲーティングには事前情報が必要で、コースの難度、ホールハンディキャップ、各ホールの距離、グリーンまでの距離、ピンポジション、OB区域、ハザードの配置、フェアウェイの幅と長さ、アンジュレーション、グリーンスピード、ピンポジションなどさまざまあるが、その殆んどはコースから提供されなければ分らない。近年では米国、豪州、カナダのコースはかなり詳細な事前情報を提供してくれるようになり、スコアカードには各ティーからのコースレートとスロープレート、ホールヤーデージ、ホールハンディキャップ、コースレイアウトなどが記載されている。ティーインググランドにはホールレイアウト図にOB、ハザード、クリークなどの配置が示されている。コース内に無数あるスクリンプラーのキャップには、グリーンまでのヤーデージが刻印されていてナビゲーティングの助けとなっている。さらにコースによってはフェアウェイセンターからグリーンまで100、150、200ヤードの表示板が埋め込まれていて正確な距離測定ができるよう情報提供してくれるコースもある。印刷技術を駆使してグリーンアンジュレーションが分るようなコースガイドマップを提供してくれるところもある。これらは全てセルフプレーを助けるナビゲーティング情報で、慣れるに従って貴重な情報資料となる。乗用カートに本物のナビゲーターが搭載されていることもあるが、その是非については第5章マネジメントサイエンスで検討してみたい。

エクササイズ

ナビゲーティング能力を養成するエクササイズとして、スクランブルゲームとペアマッチ(ツーボールフォアサム)がある。どちらもゲーム方式の一つであるがスクランブルゲームの場合には4人がベストポジションから全員が4球プレーを続け4人でひとつのスコアを作るゲームなので、4人の観察力でナビゲーティングすることができる。
学生の場合4人の中の最上級生やベストプレーヤーがチームリーダーとなって、クルーに意見を求めたり観察させたりして作戦を立て意思決定するから、実戦を通してナビゲーティングやマネジメントの良いトレーニングになる。ティーショットの段階からチームリーダーはクルーに状況を説明し、バーディールートを狙わせる者とパーセーブを狙わせる者に作戦指示を与え、セカンドショットのポジションを選択する段階では選択の判断基準や根拠を説明するから、リーダーは勿論クルーにとっても大変勉強になる。アプローチの段階でもクルーに異なった方法を試みさせて全員で結果を判定したり、全員で同じ方法を試みて結果を観察することもできる。パットの段階でも全員でグリーンを観察しラインを読んで順番にトライするから、同じラインのトライ&エラーを実践することができる。一回のゲームで個人プレーの何倍ものトレーニング効果があることが分っている。団体戦なので全員がポジティブ志向になりハイな気分で協力し合えるから、一段とグループダイナミックス効果が現れるものと思われる。
ペアマッチの場合には二組のペアがパートナーと交互に1球をプレーしながらホールバイホールの勝負をするため、パートナーに迷惑や負担がかからないよう自我や自己主張を捨てて次に繋がるプレーに徹する。そのため常に次のショットが楽なポジションやライにボールを運ぶ習慣が養われ、最高のナビゲーティングエクササイズになると考えられている。
個人プレーにおいても次のショットのことを考えたら、本来は無謀なチャレンジや強引な自己主張をすべきではないが、つい自己責任の気軽さから反省のない過ちが繰り返され勝ちである。ペアマッチではお互いがパートナーのことを考えて強い自制心を働かせ、自己犠牲を負うことによって勝利を分かち合おうとするから、強い連帯意識によって一打一打に責任を感じてショットすることになる。個人プレーでは養えない徹底したトラブル処理やレイアップ、セイビングショットを実行するようになる。
ナビゲーティング能力を机上学習で養うのは難しいので、どうしても現場学習で養わなければならないが競技力に直結する能力養成だけに、同じレベルの者同士でトレーニングしても学習効果が低い。自分より上級者のナビゲーティングつまりゲーム運びやボールの扱い方を観察し参考にすることによって養われるものと考えられているから、上級者との実戦経験が有効となる。
現代ゴルフがセルフプレーによるマネジメントゲームになったため、競技力を養うのにナビゲーティング・エクササイズは欠かすことのできないトレーニングとなっている。残念なことに、日本のゴルフ環境にはこの種のプログラムも指導者もいないため、ゴルファーは育ってもプレーヤーがなかなか育たない。ナビゲーティングはコースマネジメントの中核をなす重要な概念であり、実戦手段であることを認識する必要がある。

ナビゲーティングの背景

欧米諸外国では完全セルフプレー化が進んだうえ、プライベートコースのメンバーゴルファーはゴルフ人口の一部に過ぎなくなった。大多数はパブリックゴルファーでいろいろなコースをビジターとして回っている。生涯で何コースプレーできるかを目標にしている人もいるし、お気に入りのコースをツアーするツアーゴルファーも多い。今や全コースの三分の二以上はパブリックコースとしてビジターを対象に営業しているから、ぺブルビーチ、パインハーストNo.2、ラコスタ、ラキンタ、セントアンドリュウス、カーヌスティなど海外のツアーゴルファーが生涯に一度はプレーしたい候補に挙げている有名コースも多い。
このようなツアーゴルファーを受け入れるコース側は生涯に一回のゴルフを楽しんでもらうため、情報資料としてコースのガイドマップを発行するが、ビジターはガイドマップを詳細に研究して自分の技量に応じたルートを探索する。これが本来のナビゲーティングの姿である。だからナビゲーティングの原点は船舶航空や旅行と同じように、コースのチャレンジルート探索と考えてよい。世界のゴルフは益々クラブゴルフからツアーゴルフに変わってきており、ナビゲーティングの重要性は一層高まると思われる。ナビゲーティングができなければホームコースなら80台で回る人もアウェイで100打つだろう。イヤ、100で回れたことを喜べるようになるかもしれない。コースにはそれほどに難度差がありその難度に挑戦するのがツアーゴルフの楽しみだからである。だからコースは4箇所以上のティー、コースレートやスロープレート、コースハンディキャップ換算表、ガイドマップ、ヤーデージ、ピンポジション、グリーンスピードなどの情報資料を提供しマネジメントしやすいよう配慮している。
これに対してプレーヤーは自分の技量を示すハンディキャップ・インデックスを提示してコースや他のプレーヤーに迷惑を掛けないことを事前に証明し、技量に応じたティーを選択して時間内にプレーを終了させるだけでなく、自らも満足するスコアで回るためには巧みなナビゲーティングが必要になる。巧みなナビゲーティングとは素早い状況判断と的確な状況処理によって、プレーの無駄を省きストローク数を減らしてよいスコアを出すことを意味する。

 

巧みなナビゲーティングに必要な条件に迅速なプレーがあるが、通常ゴルフコースはPar5×4、Par4×10、Par3×4の合計18ホールで構成される。

 

Par5(15分)×4=60分

 

Par4(12分)×10=120分

 

Par 3(10分)×4=40分

 

の合計220分 + 移動時間20分 = 240分(4時間) とされている。

 

ゴルフコースがパブリックスペースになっただけに、最も大切なエチケットは「迅速なプレー」といわれている。全てのゴルファーは18ホール4時間以内のプレーに尽力し、無駄な動きとストロークを排除して巧みなナビゲーティングをすれば、結果として素晴らしいスコアが記録されるはずである。モータリゼーションの発達は全てのドライバーにセイフティドライブを要求するようになったが、ゴルフィゼーションの発達は全てのゴルファーにセイフティプレーを要求するようになった。その背景には世界中にゴルフの大衆化が進んでいる現実がある。