- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 第二部 ゴルフマネジメント科学
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
セルフマネジメント - 第二章
コースマネジメント - INTRODUCTION
- -1 コースレーティング
- -2 ハンディキャッピング
- -3 ナビゲーティング
- 第三章
スコアマネジメント - 第四章
ゲームマネジメント - 第五章
マネジメントサイエンス - おわりに
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第二部 ゴルフマネジメント科学 -
Section 2 ハンディキャッピング
USGAはゴルフゲームをプレーヤーとコースの勝負と考え、両者に公平なハンディキャップを与えるシステムを考案した。プレーヤーだけでなくプレーするコースおよびティーインググランド毎にホールハンディキャップを与え、全ホール互角の勝負を可能にした。このように勝負毎にプレーヤーとコースに適正ハンディキャップを与えるシステムを総称してハンディキャッピングという。1970年代にUSGAアメリカゴルフ協会を中心に起こったイノベーションのテーマはゴルフを科学的に進化させ、もっとおもしろいものにすることであった。
USGAに起きたイノベーションの経緯については第一部第四章Section 5で少し詳しく述べたが、歴史と伝統を誇るゴルフを科学的に進化させ世界に普及発展させようとする米国ゴルフ界の熱意と努力には敬服させられる。イノベーションの方向や意図する所はなかなか分りづらかったが、今世紀に入って徐々に成果が見え始め意図する所を理解するに連れて、まさにイノベーションにふさわしいことが分ってきた。歴史的に見ればハンディキャップに対する概念も変化してきたが、USGAが進めたイノベーションによってストロークプレーの内容が画期的に変化したことが分る。その背景にはグローバル世界やIT社会の到来があることは明白であり、その背景を見ればイノベーションの意図する所も変化した内容も理解することができるだろう。
従来のハンディキャップ概念
従来のハンディキャップはクラブ競技に使われるものだから、各クラブのハンディキャップ委員会が査定したハンディキャップによってクラブ競技の秩序は維持された。つまりハンディキャッピングに関する権威や権限は各クラブのキャプテンやハンディキャップ委員長が掌握していたため、他のクラブと基準が違っても別に問題はなかった。またクラブ対抗競技や公式競技ではハンディキャップを使わないスクラッチ競技が行われていたため、ハンディキャップ調整の必要はほとんどなかったと思われる。そのためにUSGAによらず各国ゴルフ協会はハンディキャッピングに関する基準やマニュアルだけを提示して、最終決定は各クラブの判断に委ねていた。特に最高権威とされる英国R&Aでさえ「ハンディキャップは各クラブの裁量に委ねる」と公言していたのである。
英国では未だに多くのゴルファーがマッチプレーでゴルフをしているし、ストロークプレーをしてもステーブルフォード方式によるので、ハンディキャップに対する概念はそれほど厳密ではなさそうである。最初にハンディキャップについて公式に取り組んだのは英国レディスゴルフ協会であることを考えると、根底に騎士道精神に基づく弱者保護のジェントルマンシップの思想があったと解釈してよいのかもしれない。
しかし米国では最早この思想は通用しないはずで女性は弱者という考えそのものが差別ないし蔑視とみなされる。コースではレディスティーという表現はなくなってきたし、女性にレディスティーを使用されると飛距離でもスコアでも太刀打ちできない男性が増えてきた。男女混合競技でレディスティーやレディスハンディキャップをそのまま採用すると上位成績やドライビングコンテストを女性に独占されることが多い。「NGFインストラクターズガイド ‐スポーツ文化論‐ 」によれば、女性がフルマラソンを走るようになって一気に男女格差はなくなり、3000年の文化的進化を遂げたことを意味するそうだが、近年トライアスロンや格闘競技に女性が進出する姿を見ると女性を弱者と決め付ける思想や、弱者保護の思想に基づくハンディキャッピングは時代錯誤と考えるべきなのだろう。
静態概念によるアナログ評価機能
日本の会員性ゴルフ場のクラブハウスには剣道場や柔道場のように上段者から順番に名札が下がっているが、上位者の名札は古くなって黒ずんでおり入れ替わることはめったにない。日本のハンディキャップ概念は多分に伝統技芸の段位に相当するもので、ここには弱者保護の思想は全く含まれていない。伝統技芸なら数値が大きいほど上位者を表わすが、ゴルフは数値が小さいほど上位者を表わす。数値と技量が逆なのは奇妙に思えるが、ゴルフのハンディキャップ概念を日本の伝統技芸のように名誉技量評価に応用したせいではないか。
日本のゴルフクラブでは往年のチャンピオンや名誉会員の名札を下位に下げることは名誉を傷つける行為として憚られるのであろう。従って日本のハンディキャップ概念は正確かつ客観的にプレーヤーの技量を示すものではなく、そのクラブにおける地位身分のように扱われている場合が多いと考えられる。
日本のシングル崇拝思想は日本固有のものであって欧米諸国では理解し難いが、日本伝統技芸の段位に相当するものと説明されれば理解できる。しかしゴルフの一般常識や世界基準では通用しない概念で、場合によっては著しくゴルフの理念や精神を歪めることがあるので注意しなければならない。
動態概念によるデジタル計測機能
欧米諸国では学校教育に導入されている環境もあって、近年ではゴルフの一般普及が目覚しく、所属コースを持たないパブリックゴルファーが増えた。米国NGFの資料によればアメリカの会員制プライベートコースは約5000で平均会員数は400名であるから、所属コースを持つメンバーゴルファーは約200万人ということになるが、米国全体のゴルフ人口からみれば8%程度に過ぎない。プライベートコースの年会費は平均US$5000かかるので、余程のゴルフ愛好者か経済的富裕層でなければ所属コースのメンバーを維持することはできない。
一般ゴルファーの大部分は学校や職場、地域やサークルのクラブに所属してクラブライフを楽しんでいるが、いつも同じコースでプレーしている訳ではない。10ドル前後の安い近場のコースを利用し、時には50ドルもする有名コースに遠征してツアーを楽しんでいるから、従来のハンディキャップ概念とは明らかに異なるハンディキャップ・インデックス ‐Handicap Index‐ を使っている。
このシステムはハイハンディキャッパーを技術障害者のようにみて同情ストロークを与えるものでもなければ、ローハンディキャッパーにクラブの名誉称号を与えるものでもない。純粋にプレーヤーの現在技量を示す指標(インデックス)であり、公平なストロークプレーを可能にするシステムであるから1998年6月世界共通基準としてグローバルスタンダード化された。
今では欧米はじめ諸外国の多くのゴルファーがハンディキャップ証明を持っているが、未経験者や初心者がプレーすると事故や渋滞が発生してコースの安全や秩序が維持できないために、あたかも運転免許証の提示を求めるようにコースがハンディキャップ証明の提示を求めるようになったからである。