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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第三章 スコアマネジメント
Section 3 スコアアナリシス

データを客観的に観察分析し、自分のパフォーマンスから最大効率を発揮するための方針やプレースタイルを組み立てることがゴルフマネジメントにとって大切なことといえる。ゴルフに限らず自分自身や自分の行為を客観的に観察することは大変難しく、多くの人が意識と行為の乖離に苦労している。2000年の昔から聖書は精神と肉体の相反性を指摘しており、人の行為を客観的に分析することはサイエンスの命題でもあった。特にゴルフは人の性格が最も顕著に現れるスポーツゲームといわれ、しかも最悪の形で現れると言われている。プレーヤー自身が原因も理由も分らず、納得のいかない結果の連続を記録しデータ化したとき、本人も気付かなかった数々の事実が判明してくる。その客観的事実を明らかにすることが分析といわれる科学的手法であり、スコアの集計をデータ化しプレーヤーの習性や傾向を分析することをスコア・アナリシスという。

コースで何をしているのか

ゴルフの後にインストラクターのもとに血相変えて飛んでくるゴルファーの多くは、コースで何が起き自分は何をしたか分らなくなってしまった人であろう。それほどにゴルフは人を異常心理に陥れ不可解な行動を取らせる特性を持っているから、常に平常心でゴルフをしている人の方が稀かもしれない。聖書の中でパウロが語るようにゴルファーとは「自分がしたいと思うことはできないで、反ってしたくないと思っていることばかりしてしまう惨めな者」なのかもしれない。ならばコースで何をしているか行動を分析する必要があるが、それを明らかにするのがスコア・アナリシス(行動記録分析)ということになろう。
インストラクターはデータ表を見れば、その人がコースで何をしているか、どんなゴルフをしているか大概は想像できる。医者が患者の健康診断書や血液検査表を見れば、その人の健康状態から生活習慣まで想像できるのと同じことだ。ゴルフの患者は全て自分のスイングに原因があると思い込んで診断を受けに来るからスイングクリニックを行うが、本当は異常な心理状態で行った行動に原因があるはずだ。練習場で患者のスイングを見ただけでは、患者がコースで見せた異常心理状態における異常行動の連続は想像がつかない。本人も恥ずかしかったり悔しかったりして正直に告白しないから、ひたすらスイングに原因があったように語る。10年間無事故・無違反の安全ドライバーの紳士が、ドライバーを持ってティーインググランドに立った途端に豹変して凶暴ドライバーに変身する様をどれほど見たことか。鉛筆一本・消しゴム一個を大切にする倹約家が反省もなくボールを次から次へと池や林に放り込む姿も枚挙に暇がない。人格者と言われる人がOBを打ってクラブを放り投げ、スリーパットをして口を利かなくなる姿も見飽きた。このようにゴルフは正常な人間を異常な姿に変える力を持っているから、行動の記録をデータ化しないと人はコースで何をしているか想像もできない。

人の行動原理

どんな紳士面をしていても凶暴ドライバーはティーショット成功率に表れるからすぐ分る。恐らくOB発生率にも表れているはずで、このような人はスイングを矯正するより性格や考え方を矯正しなければならない。ドライバーを持つと何故そうなるか本人も分らないはずだし、豹変する自分に気付いていないかもしれない。こういう人のスイングをいくら分析し診断しても外面的な結果論が得られるばかりで、本当の原因を究明することはできない。そのときどきの感情や深層心理が原因となって、凶暴ドライビングを生んだはずだから本人が冷静にデータを見つめ自分自身を観察するところから始めなければならない。
練習場でボールを打っているときから凶暴なゴルファーはほとんどいないから、インストラクターはスイング分析から原因を究明することは簡単でも、データ分析から異常心理を推測するとなると、問診によって考え方や深層心理を聞き出し、その人の行動原理を探り当てなければならない。人の行動原理は本人も意識せず自覚もないことが多いから、行動記録に基づくデータを分析し同じ現象の発生確率を求めて正常か異常かを探求する必要がある。正常か異常かを判断するとき、データだけ観察し分析しても分らないし判断を誤る。例えばティーショット成功率をみても、コース経験の浅い人が10%程度の低い数値だとしても異常とはいえず正常と見るべきだろうが、コース経験が充分ありながら50%以下であれば明らかに異常と判断しなければならない。
スイングを診断して特に異常がなければ行動原理を司る意識や感情を分析しなければならない。特に失敗したときに何を意識し、どんな感情で打ったかを追跡していくとある共通概念に到達することができる。驚くほど単純な概念や意識に到達することが多く「ドライバーこそ命」「俺は飛ばし屋」「飛距離は負けない」そのような概念が原因となってティーショットを誤らせ成功確率を低めている。「フルスイングは力一杯振る」と信じて疑わない人も同様な結果を招いている。「パーやパーオンに対する執拗なこだわり」が原因になっていることもある。人の行動原理は必ずしも確かな哲学や信念に基づいているとは限らない。むしろ衝動や雑念に基づいている方が多いかもしれない。特にゴルフをしているときは、その傾向が強く現れるように思える。

スコアは行動結果

無味乾燥な数字で表わされたスコアには人の万感が込められている。何故このような結果になったか本人が語れば話は尽きないが、他人はそれに何の興味も示さない。そのスコアを記録し集計し分析して何をしようというのか。「自分を知る」ためである。人は自分の不可解な行動に対して常に最高の理解者でありたいと願っているから自分の過ちや失敗はすぐ許せる。すぐ許すから同じ過ちや失敗を繰り返す「懲りない者」となって成長や改善が妨げられる。集計されたスコアをデータ化し分析することによって、繰り返し行われている過ちや失敗は何か、それはどのような場面や局面で行われることが多いのか。スコア・アナリシスとは過去の行動結果を検証しその人に実体や実状を客観的に明らかにすることであるから「自分を知る」ことに繋がる。自分を知ったら「懲りない者」から脱皮して、同じ過ちや失敗を繰り返さないものを目指して改善が始り新たな成長に繋がる。
松田岩男博士「スポーツ指導論」に<プラトー現象>という概念が説明されているが、よく中級者に見られる成長や進歩が停滞する状態のことで、熱が冷めたり能力に限界を感じたときに起きる現象をいう。実際は殆んどの人がこの状態に陥っているか、やがて陥るわけでスコアマネジメントの目的はプラトー現象に対する対策と考えても良いかもしれない。現状を認識し改善策を立て新たな目標を設定することによって、情熱が湧き自分の限界を乗り越えることができる。現状を認識するにも、新たな目標を設定するにもデジタルマネジメント(数値管理)が有効で、例えば現在のインデックス16.5を12.0以下に、そのためにはティーショット成功率40%台を60%台に、平均パット数2.2を2.0以下に、という具合に数値目標を掲げることがマネジメントにとって有効と考えられている。これに対して数値目標なき努力は次のプラトー現象を招きやすい。「もっと巧くなりたい」「かっこよくゴルフしたい」「頑張るぞ」ではやがて又もとのプラトー状態に戻ることになるだろう。

パラダイムの転換

スコアアナリシスを進めると、繰り返す過ちや失敗の原因が技術の問題ではなく考え方の問題であることに気付くことがある。前述したいくつかのこだわりは間違っているか或いは感心しない考え方といえるが、このような考え方や見方をパラダイムといい、物事の判断や行動原理に決定的な影響を及ぼすといわれている。例えばドライバーは「飛ばすクラブ」と考えるか「飛ぶクラブ」と考えるかでパラダイムは根本的に異なり「思い切り飛ばしてやろう」が「飛ぶから慎重に」に変わる。別の例として「ドライバーとウェッジはスイングが違う」と考えるか「ドライバーもウェッジもスイングは同じ」と考えるかで「ドライバーはフルスイングで」が「ドライバーもコントロールスイングで」に変わる。
このようにパラダイムを転換することによってドライバーショットが安定し飛距離も伸びたケースは実に多い。タイガー・ウッズのスコアデータを2008年度と2009年度で比較すると<Driving Distance>と<Driving Accuracy>が飛躍的に向上している。二律背反の関係にある距離と正確性をタイガー・ウッズほどの技術完成者が、あれほどまでに両立させたのは技術改善ではなくパラダイムの転換ではなかったかと考えられる。パラダイムの転換は人を変えるほどの効果があり、2009年全英オープンで還暦を迎えたトム・ワトソンが最後まで優勝を争ったことからも同じことが考えられる。
パラダイムの転換はプラトー現象やマネジメント対策だけでなく、あらゆる場面で必要とされる重要概念である。時代や社会の閉塞、制度やシステムの疲労、ビジネスや商売の破綻、ニューマーケットや新商品の開発など多くはパラダイムの転換を図らなければ解決しない。ゴルフは人生の縮図に例えられ、マネジメントの原点といわれるだけにパラダイムの転換をゴルフライフの中で実現してみると良い勉強になるだろう。