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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第四章 ゲームマネジメント
Section 2 スタティスティックス

ゴルフに統計データが利用されるようになってからまだ日は浅い。ましてゲームマネジメントに利用されるのはこれからと言えるだろう。大学ゴルフコーチが選手養成のために統計データを取ってマネジメントに利用している姿は米国や豪州でよく見かけたが、選手自身が統計データを利用して自らマネジメントしている姿は余り見かけない。ツアープロといえども少なく、1970年代に豪州出身のグラハム・マーシュが丹念に統計データを取ってマネジメントしている姿を見たが、マーシュは高校の数学教師をしながらツアープロになった人だからそのような習慣がついた特殊な例と思われていた。マーシュのマネジメントは練習ラウンドにメジャーを持ち込み、一打一打の飛距離とグリーンまでの残り距離を測って記録データ化するほど徹底していた。ティーショットもフェアウェイセンター、右ラフ、左ラフに三球打ち、そこからグリーンまでの距離を測り、リカバリーの方法も色々試みて克明に記録していた。そこまで徹底するのがプロの仕事なのか、プロだからそこまで徹底するのか当時から意見の分かれるところであったが、彼と一緒に練習するプロも見習うプロもいなかったところをみると、プロの中でも例外だったに違いない。高校教師からツアープロに転職した彼の真剣な職業意識が統計データを活用したマネジメント・テクノロジーを生み出したとするならば、他の産業領域におけるマネジメント・テクノロジーの発達も、テイラーやマーシュと同じような動機から誕生したものに違いない。

統計数値

米国のプロコーチで第一人者といわれるデープ・ペルツは米国航空宇宙局NASA出身で統計確率論を得意としている。彼はインディアナ大学にゴルフ奨学生として入学するほど有望なプレーヤーで、常に二クラスなどと学生トップテンに入るほどの腕前だったが、4年生のときPGAツアープロより研究者になりたくてNASAの宇宙航空研究員になっている。そんな訳でペルツは競技出身のゴルフプロフェッショナルではなく技術研究出身のゴルフコーチであるが、今ではゴルフマネジメントの専門家として活躍している。
ペルツによればゴルフはマネジメント、メンタル、パワー、ショート、パットゲームの5領域で構成され、ショートとパットをスコアリングゲームといってこの100ヤード以内のショートゲームでスコア全体の60%以上が決まると言っている。統計確率論に裏付けられた彼の技術論は科学的で説得力がある。例えばスコアリングに対する重要度で最も高いのはパット、次にアプローチ、最後にパワーショットとし、スコアを良くするにはショートゲームを巧くするに限ると言う。
彼の実験の中でワンパットの確率を統計データにしたものがあるが「ゴールデンエイトパット ‐Golden Eight Putt‐ 」と称して、プロは6フィート(180cm)のパットを50%の確率で決めるが、アマチュアでも8フィート(240cm)以内を1/3以上の確率で決めることができるから8フィートパットこそ鍵という。それ以上になると急速に確率が悪くなるから、堅実なアプローチパットに切り替えることを勧めており、10メートルのパットを一発で決めることもあるが、所詮アプローチパットが偶然決まっただけで、確率的にはスリーパットの危険性のほうが遥かに高いことを警告している。
人の行動結果はそのときどき気まぐれに見えて、長期的に観察すると一定の傾向や普遍性を持っている。また自然の条件も短期的には予測不可能であっても、長期的には一定の傾向や反復性を有しており、そこに統計確率論や自然法則が成立するから、長期データを統計化したとき法則や原則が見出される。
コンピューターを利用するとスコアとパットの記録を継続的に統計データ化するだけで、実にさまざまなデータが導き出され、その人の長所弱点が分かるだけでなくマネジメントに必要な目標管理や作戦戦略を有効に進めることができる。統計数値は無情なほど厳しい現実を突きつけて改善対応を認識させてくれるので、抽象論や理想論はマネジメントの世界では通用しない。

PGA Tour STATS

米国PGAツアーのスタッツは事実上の世界ランキングとしてホームページ上に統計数値を公開している。ツアー観戦や話の種としては大変興味深いが、彼らの統計データから私たちは何を参考にし、何を学ばなければならないか。
PGAのホームページは次のような統計数値を公表している。

Scoring Average (平均スコア)   Best 68.64st   Average 71.42st
Driving Distance (平均飛距離)   Best 307.9ys   Average 278.9ys
Driving Accuracy (正確性)   Best 82.35%   Average 60.32%
Greens Regulation (パーオン)   Best 81.67%   Average 68.61%
Proximity to Hole (ニアピン)   Best 30.00ft   Average 36.10ft
Putts per Round (パット数)   Best 27.17pt   Average 29.30pt
Scrambling (寄せワン)   Best 77.92%   Average 60.73%
(Feb. 2010)                

 

世界のトッププロ200名のデータであるが、私たちが参考にすべき点は世界のトッププロといえども300ヤード飛ばし、2/3の成功率を達成することは難しいことを証明していることだろう。米国PGAツアーは極めて厳しい条件のもとで世界の強豪が生活や人生を賭けてしのぎを削っているが、その環境から生まれる統計数値から読み取れることは、ゴルフゲームの特徴は成功の確率を高めるより、失敗の確率を少なくする方が巧くなるスポーツといえる。そして彼らが「成功より失敗から多くを学んだ」と語る深い意味を学ばなければならない。
この統計数値から世界のトッププレーヤーの平均像を映し出すとドライバーの平均飛距離270ヤードでフェアウェイをキープするのは3回に2回。セカンドショットでパーオンするのは3回に2回でピンから10m前後に乗せる。乗らなかった場合も5回に2回は寄せワンに失敗しながらも、3回に1回はワンパットでホールアウトしている。この平均像を想像する限り華やかなトップスターの姿はどこにも見当たらず、コツコツと我慢のゴルフをしている地味な姿しか見えてこない。全てショウビジネスは成功者の華やかな部分しか見せないし報道もしない。だから私たちが彼らから学ぶとすれば、見えない部分や報道されない点から克服すべき課題を抽出し、解決方法やマネジメント手法を見出すことが必要となる。

必要な統計数値

多くの一般ゴルファーはスコアしか記録していないから、平均スコアしかデータ化することができない。平均スコアだけではプレーヤーの傾向も特徴もつかむことができないうえ、スコアアップを図るための具体的な課題や目標が設定できないからマネジメントに発展しない。マネジメントに有効な統計数値を導き出すには最低パット数を記録しなければならない。実はパット数を追加記録するだけで驚くほどマネジメントに有効な各種のデータが算出される。平均パット数だけでなくショート、ミドル、ロングホール別のパーオン率、ワンパット率、寄せワン率、スリーパット以上発生率などプレーの内容や習性が可なり具体的に浮き彫りにされる。
パット数にティーショット成功数、OB数、バンカーショット数を記録すれば一般ゴルファーのマネジメントに必要なデータはほぼ充分と言えよう。テレビコマーシャルや雑誌広告の影響もあってか、ゴルフはボールを飛ばすゲームと考え、高額なドライバーを使えばいくらでも飛ばせると考えている人が多いようである。練習場においても大半はドライバーの練習をしている光景を見るし、飛距離の出るゴルファーが上級者と思っている人も多い。ゴルフが上達することは平均スコアが良くなることであり、それは平均飛距離が落ちてフェアウェイキープ率が高まり、パット数が減って寄せワン率が高まることに裏付けられることを理解しなければならない。
平均スコアの悪いゴルファーを「ヘタな人」と称して、ほとんどの人がヘタから脱皮したいと思っている訳だが、ゴルフの特質から考えてスコアを良くする方法を考えるより、悪くする原因を調べて改善策を講じる方が早い。ティーショット成功率とOB発生率からプレーヤーの性格や傾向が推測できるが飛距離にこだわって長尺ドライバーを振り回し、その結果ティーショットの正確性を悪くしてOBを多発していないか。パット数と寄せワン率からショートゲームの技量が推測できるが、ワンパット率とスリーパット率からはショートパットかアプローチパットか、どちらに課題が残されているか判断できる。一般ゴルファーにとって必要なデータとは、スコアを悪くする原因となっている思考や習性を検索し、上達への道しるべとなるものでなければならない。