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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第二部 ゴルフマネジメント科学  -
第四章 ゲームマネジメント
Section 3 ストラテジー&タクティクス

ストラテジーは戦略を意味しタクティクスは作戦を意味する軍事用語で、政治外交から経営、スポーツの領域まで一般的に広く使われている。しかしゴルフの領域では従来余り使われたことがなく、ゴルフに対するマネジメント概念が確立し始めた頃つまり今世紀になってから使われるようになったと言えよう。ゴルフはジェントルマンシップを大切にする紳士のスポーツといわれ、自然やコースを相手に人格形成する人間教育プログラムであるといわれているだけに、戦略だの作戦という過激に聞こえる言葉がふさわしくなかったのかもしれない。
しかし1970年代以降、米国に起きたゴルフイノベーションはゴルフをスポーツ化しマネジメントゲーム化していったために「金持の道楽」「紳士の遊び」といった概念より「大衆スポーツ」という概念が強まったと考えるべきであろう。コースの設計概念も変わり、ゲーム性や戦略性を重視してプレーヤーの挑戦意欲を掻き立てるように造られるため、ゴルフを楽しもうと悠長に構えていると完膚なきまでに叩きのめされ、二度とゴルフがしたくなくなることすらある。現代ゴルフはプレーヤーとコースの真剣勝負というスポーツとして大衆の人気を博し、観ても参加してもエキサイティングなゲームに変貌した。
戦いや勝負の世界に、戦略や戦術は欠かすことのできない重要な要件である。優勝劣敗や弱肉強食の自然法則の前に、人智を駆使してパフォーマンスを最大限に発揮し、戦いを有利に進めることをマネジメントいい、そこに要求される人智をストラテジーとかタクティクスという。

コースのストラテジー

ゴルフコース設計概念の基本原理は戦略性、景観性、管理性のトライアングル・バランスといわれている。如何に戦略性に優れていても景観が悪く管理し難いコースは設計思想が問われる。同時に戦略性が優れていても弱者を完膚なきまで叩きのめすコース設計は、設計者或いはコースそのものの品格が問われる。ゴルフコースにとって戦略性は品格まで問われる重要な要件であるが、その理由はゴルフゲームの本質まで遡って考えなければ解らない。
マッチプレーに始ったゴルフは現代に至ってストロークプレーを主流に世界に普及した。マッチプレーが人対人の勝負であるのに対し、ストロークプレーは人対コースの勝負であることは本編で詳しく述べた。人と人の勝負ならば感情むき出しの闘いもエキサイティングで楽しいが、沈黙のコースに陰険な設計を施され卑怯な罠を仕掛けられると、プレーヤーだけが感情的になって恥かしい醜態をさらし自らの人格を卑しめることになる。本来は設計者やコースの品格が問われなければならないのに、プレーヤーの品格が問われるのはいささか理不尽といえよう。
コースの側に求められる戦略性は冷静沈着な守りの姿勢で、神秘的な誘惑の裏に恐るべき罠が仕掛けられているのではないかという恐怖心を覚えさせる設計はプレーヤーの側に畏敬の念を抱かせるだろう。プレーヤー側が相手を見くびって安易に攻め立てた結果、手痛いし打ち受けて己の未熟と軽率を恥じて深く反省したとき、人は大きく成長する。大自然を背景に不動の構えを示す私たちの挑戦相手は、慎重にして大胆な攻撃に対しては限りない賞賛を与え、軽率にして小心な攻撃に対しては鞭撻を与えてくれる。品格の備わった威風堂々たるコースはプレーヤーの技術を高めるだけでなく人間的に成長させる力がある。
コース側のストラテジーとは何を基本戦略に防御体制を固めるかということになるが、スコットランドのリンクスコースは明らかに自然条件を防衛戦略にしている。フロリダの湿地コースはウォーターハザードを防衛戦略に取り入れ、アリゾナの砂漠コースはサンドトラップを防衛戦略に取り入れている。通常のコースは挑戦者の技量に合わせて、設計者が自然障害や地形障害を利用しながら優美な防衛戦略を練るが、誰を相手に何を守るか戦略意図がまるで解らないコースもある。旅行先のリゾートコースや地域住民のパブリックコースは一般的に誰でも楽しめることを基本コンセプトにすべきで、ストラテジーや戦略性を重視した設計は特殊な例と考えるべきだろう。ぺブルビーチ・スパイグラスヒルやサンディエゴ・トーリーパインなどがその例に該当する。

プレーヤーのストラテジー

これに対してプレーヤー側のストラテジーとは多くの選択肢の中から、プレーヤー自身が自分なりのプレースタイルを見出すことで個性的であることが好ましい。だからといってゴルフの本質や基本理念を無視したプレースタイルはプレーヤー自身の品位を疑われ、人格を問われることになるのでそれも覚悟しなければならない。常にアグレッシブな攻撃を信条とするのは結構だが、喜怒哀楽が激しすぎて同伴プレーヤーを不愉快にする人がいる。慎重な状況判断に基づく堅実なプレーを戦略とするのも結構だが、スロープレーに周囲が泣かされることも多い。
ストラテジーとはプレーヤー自身のパフォーマンスを最大限に引き出せるようなゲーム戦略のことであり、自分自身の技量や特性を承知したうえでストラテジーを組立てることが大切である。初級者の場合なら使いこなせないフルセットを持ち歩かず、数本に限定してクラブ選択の迷いやミスショットを減らすのもひとつの戦略である。グリーン周りをパターだけで攻めるのも戦略のひとつだし、上級者でも状況によって作戦的に使う手である。中級者になると自分の飛距離やパーオン率などを勘案して、常にボギールートを設定するのも戦略のひとつである。アプローチにピッチショットを使わず徹底してバンプ&ランとチップショットを使うのも優れたストラテジーと考えられる。最近では中間ショットにフェアウェイウッドやロングアイアンを使わず全てユーティリティーを使う人もいる。ロングパットが苦手な人なら常にグリーン手前からランニング・アプローチで攻めるのも優れた戦略といえる。
戦略にとって大切なことは、巧くいかないからといって頻繁に変更することなく、一定期間一貫して継続することである。一貫性や継続性のない戦略はむしろ危険で言い換えれば一貫性や継続性のある方針をストラテジーというべきかもしれない。現実には初中級者にストラテジーのあるプレーヤーは少なく、ストラテジーがあればもっと早く上級者に上達していたに違いない。ストラテジーや戦略などは初中級者には関係なく、上級者にだけ必要なものと考えている人が少なくないようだが実際は逆である。
上級者とは自分の戦略なり一定の型ができたプレーヤーのことで、一貫性のない場当たり的なプレーをする人はいない。初級者が中級者になるにも、中級者が上級者になるにも自分なりのストラテジーをもって闘い続け、従来の自分から脱皮した新たな自分が形成されたとき上達したことが実感できるはずである。初級者や中級者こそ同じ失敗の繰り返しから脱皮するためには、まず自分のストラテジーを組み立て、それを継続的に実施し観察するマネジメントプランを立てて実行することが大切である。

ストラテジーの意味

ストラテジーとは戦略を意味するが、国家戦略・事業戦略・開発戦略など大きな意味に使われる。国家や事業、開発プロジェクトの発展的将来像を画き、確かな理想や理念に基づいて目的や目標を定めることを戦略といっているようだ。反対に戦略なき戦いとか戦略に反する計画など、場当たり的な行動を批判的に表現する場合にも使われる。戦略とは目指すべき長期的な姿やビジョンを指すと考えて良いのではないか。
ゴルフストラテジーという場合、コース側からはプレーヤーにどのようなゴルフをさせるコースか、という基本コンセプトを指す。スコットランドのゴッドメイドコースならば、子供や大人が神の審判の下で自然と闘いながら正直・忍耐・勇気を学んで、人間的成長を遂げるための修道場という基本コンセプトがあるから、できるだけ自然のまま放置して人の手を加えないという伝統があるようだ。オーガスタ・ナショナルの場合には、ボビー・ジョーンズの理想に基づいた世界のトッププレーヤー達に競演舞台を提供するという崇高な理念があるから、この場合もストラテジーというよりフィロソフィーというべきだろう。
プレーヤーに対してもストラテジーはフィロソフィーより短期かつ下位の位置付けで使われる。フィロソフィーが不動の理念や信念として揺るぎないのに対して、ストラテジーは中長期ビジョンとして目標や方向が明確に示される場合が多い。ストラテジーは具体的・合目的でなければ、抽象的・概念的では戦略に沿った戦術や作戦計画が立てられない。ゴルフの場合で言えば、1年以内に90を切るとか、ハンディキャップ18を目指すというような目標を設定し、その目標を達成するためにパーフェクト・ボギープレーヤーの概念に沿ってプレースタイルを構築し、すべてのホールにボギールートを設定してゲームマネジメントプランを作るなど明確な具体性が必要である。「早く90を切りたい」「いつかHP18になるぞ」ではストラテジーにならない。

ストラテジーからタクティクスへ

タクティクスは通常、作戦とか戦術という意味で使われている。実際は戦略も戦術も作戦も同じように使われている場合が多く、それだけに概念が曖昧で的確なマネジメントがなされていない現実を物語っているのかもしれない。戦略には大きな目標や理想、長期的なビジョンやプランがあるが、戦術はもっと小さな当座の目的を達成する手段であり、現実的な対応策である場合が多い。
ストラテジーは容易に変更されることはないが、戦術は臨機応変に変更され中止される。例えば戦略的に高い弾道のボールを持ち球にしているプレーヤーが、強い向え風に対応して急遽低い弾道のボールを打つのは明らかに戦術変更といえるし、次のホールで追い風になって元の高い弾道に戻すのは臨時作戦の撤回に当たる。次のホールが距離の長いパーオンの難しい難度の高いホールだったとしても、追い風に乗ってティーショットが飛び、残り200ヤードも追い風でパーオン可能な状況ならば、急遽作戦を変更してボギールートをパールートに変えることも作戦変更と考えられる。ところが往々にして間違いを犯しやすいのは、距離の長い難ホールを追い風に乗ってパーやバーディーが取れたのを実力と勘違いして、無風や向え風でさえも最初からパールートを設定しがちなことである。幸運と実力を混同するのは殆んど初中級者の犯す過ちで、上級者は戦略がしっかりしているから、めったにこの種の過ちは犯さない。
タクティクスとは状況に対応して臨機応変に手段を選ぶことで、一貫性や継続性がないように思えるが、臨機応変の中にパターン化された一貫性や変わらぬ継続性があることを見逃してはならない。

実戦タクティクス

戦術とは戦局ごとの情勢判断と目的達成に有効な手段の選択を言う。初級者には選択の余地がなく中級者には選択の幅がない。上級者は状況判断が的確なうえ有効手段の選択肢が多いから、多くのピンチを無難に切り抜ける能力があるが初級者は状況判断ができないうえ何の選択肢も持ち合わせない。中級者は状況判断が甘いうえ有効手段の選択が不的確で、選択肢が少ないことによってピンチを脱出できないかピンチの連鎖に陥ることが多い。しかし上級者といえども状況判断の誤りや手段の選択ミスは頻繁に犯している。世界のトッププレーヤーといえども予選落ちしたり、決勝ラウンド最終日に大叩きして脱落する姿は毎週見る光景だが、その殆んどが戦術ミスによるものと考えられる。
私たちの日常プレーでも頻繁に起きることは、風向風速の観測ミスとクラブ選択の誤り、スイングの大きさや弾道選択の誤り、アプローチ方法の選択ミスなど実例を挙げればきりがない。ゴルフがミスゲームといわれるのは、連続する状況変化に対して如何に戦術的に対応していくかという競技に他ならないからである。

リスクマネジメント

ミスゲームといわれるゴルフをマネジメントするうえで最も大切なことは、如何にミスを少なくするかという以前に、ミスの原因となるリスクをどれだけ事前に回避できるか、という課題に対するリスクマネジメントとも考えられる。基本的にゴルフコースは設計段階から意図的に安全ルートと危険ルートが設けられており、プレーヤーは相手の防御体制を見抜いて作戦を立てるのに、各ルートにどの程度のリスクが伴うか判断しなければならない。殆んどのホールが安全ルートはボギールートにし、危険ルートはパールートにしているにもかかわらず、人の欲がリスクを忘れて危険ルートを選ばせる。結果はパーを取ろうとしてダブルボギーやトリプルボギーを叩いて打ちのめされる。人は失敗から多くを学ぶといわれるが、即ちリスクマネジメントを学ぶことに他ならない。成長するとか大人になるということはリスクマネジメントが巧みになることを意味する。しかし、勇士の称号は慎重なリスクマネジメントに裏付けられた果敢なチャレンジ精神に与えられることを考えると、中途半端な大人になるより常に若くありたいと願う心もまた人の欲なのだろうか。