- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - 第二章
プロモーション - INTRODUCTION
- -1 ニューゴルファー開拓と
eラーニングプログラム - -2 ニューゴルファー育成
ファーストティープログラム - -3 練習場常設のプラクティス
&エクササイズプログラム - -4 コース常設のエクササイズ
&トレーニングプログラム - -5 データ分析&バッジテスト
によるモチベーション高揚 - -6 チャレンジマッチとエージ
シュート・オリンピック - 第三章
インストラクション - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 1 ニューゴルファー開拓とeラーニングプログラム
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需要低迷期にはマーケットが縮小したり弱体化しているわけで、需要を喚起したり顧客を創造しなければ益々マーケットは縮小していく。このような時期には多くの業界において殆んどの企業が値下げやダンピングによって対応するが、結局は「首の絞め合い」になって弱肉強食の自然淘汰に陥る。つまりマーケットにおける総需要が増えないまま価格を下げれば全体売上は減る一方で、企業別に見れば良くて横ばい、多くは売上減少に陥る。
マーケティングの目的が未来市場を予測して顧客創造する計画とすれば、プロモーションの狙いはニューカスタマーを現実に創造することである。つまり昨日までゴルフをしなかった人が今日からゴルフを始めることであり、今日ゴルフをしない人が明日からゴルフを始めてみようと思うことである。このような新たな個の動向が集合したとき、そこに新たなマーケットが誕生し全体マーケットを拡大する。その一連の作業やプロセスをプロモーションといい、マーケティングと連携して考えなければならない。
ニューカスタマー
ニューカスタマーとニューゴルファーは同一ではない。ニューカスタマーは、ビギナーもオールドゴルファーも含めて新たに顧客化した人をいうが、ニューゴルファーといえば明らかに最近ゴルフをはじめた人をいう。
例えば10年以上ゴルフを止めていた人が定年退職後、妻と孫を誘ってゴルフをはじめれば三人ともニューカスタマーであるが、妻と孫はニューゴルファーである。妻が面白くなって隣の夫婦と孫を誘えばニューカスタマーは六人、ニューゴルファーは五人になる。こういう現象が級数的に増加すればニューマーケットが誕生する。
このような現象は偶然起こるものではなく、多くの場合は何らかの計画的な仕掛けによるが、この仕掛けをプロモーションという。マーケティングの段階ではこのような潜在需要があることを充分予測できたが、具体的なプロモーションがなければ潜在需要は顕在化することなく、ニューカスタマーは誕生しない。理由は簡単で供給側にプロモーション戦術がなければ、料金を下げ昼食セットを付けただけでは、ビギナーであるニューカスタマーは参入できないのである。
コースは未経験者や初心者をカスタマーと思っていないから、いくら潜在需要があっても決して顕在化することはない。マーケティングの逸話にアフリカの靴の話があったが、誰も靴を履いていない社会で一人靴を履くことは大変な勇気がいる。しかし誰かが外国人の真似をして靴を履きはじめ、おしゃれで衛生的な姿に多くの人が憧れて真似をするようになれば、何百年・何千年に亘る裸足の文化は崩れ、新たな靴の文化が誕生してニューマーケットが創造される。
このように、今まで存在しなかった消費者や消費文化が生まれることによってニューカスタマーが出現し、そこに全く新しいマーケットが創造されるのである。
ゴルフにおいてもニューカスタマーの殆んどは、ゴルフ未経験者か過去のゴルファーである。
業界全体で見れば上記のように言えるが、供給側を個別に見れば施設をリニューアルしたり、料金体系を改訂したり、新たなサービスプログラムを提供することによって多くのニューカスタマーを創造することができる。或いは近くに新空港ができたり、高速道路のインターチェンジができて一気にニューカスタマーが創造されることもある。このような場合にはゴルフ未体験者や過去ゴルファーがカスタマーになった訳ではなく、現在ゴルファーが利用施設を移動しただけで全体ゴルファー、つまりゴルフ人口が増加したわけではない。
ニューゴルファー
ニューゴルファーとは新たに誕生したゴルファー、つまり今までゴルフをしたことがない未経験者が、新たにゴルフを始めてゴルファーになった場合をいうが、マーケットに対してはリクルートメントとか、ニューカマー(新規参入者)という言い方をして歓迎する。
市場拡大期には今の中国のように何もしなくても新規参入が旺盛で、マーケティングやプロモーションを考えているより目の前のカスタマーを獲得することが先決である。かつて日本もこのような時期があり、1960年代後半から70年代前半にかけてと、80年代後半から91年まで今の中国以上であった。練習場やコースはオープンした日から満員御礼となり、土日祭日はスタートが取れずに苦労するために、ゴルフ会員権は募集と同時に完売するありさまだった。むしろそのような体験が仇となって真面目なゴルフビジネスや健全な経営がないがしろにされた結果、バブル崩壊によって未曾有の大破綻を招くことになるが、本書で解説するゴルフビジネスの基本は、欧米カナダ豪州では極めて常識的な事柄に過ぎず、今さら何を言うかと思われても仕方がない。
ニューゴルファー誕生の温床となるところは本来コースでなければならないが、現状ではコースに受入態勢も育成プログラムもない。基本的にはニューゴルファーを育てる環境として、コースに基本指導のできるインストラクターと基本プログラムを備えることである。米国ではすでに2000年当初、20/20プラン<Twenty -Twenty Plan>と称して、2020年までにゴルファーを二倍にする計画を立て<Link up 2><First Tee Program>などのプロモーションが行われている。社会人や子供のゴルフ未経験者に対して、コースでゴルフを体験させるイベントである。
米国といえども本来ゴルフ未経験者がコースに入ることは許されないし、今では殆んどのコースがハンディキャップ証明を提示しなければプレーすることができない。このような環境でニューゴルファーを育成するには、しっかりした指導者やプログラムがなければ不可能である。現に米国の20/20プランは必ずしも成功したとはいえない。計画もプログラムも優れたものであったが、指導を担当したプロの指導技術が未熟なことが原因だった。つまり、指導担当したプロの競技能力の問題ではなく指導能力の問題である。
未経験者や初心者を指導する場合は、基本セオリーやメソッドを熟知した指導員が、グループ指導法に基づいて行われなければならない。初心者指導は、中級者や上級者を指導する場合より遥かに難しいことを理解していなければならないのである。
参照:
ゴルフ基礎原論 / 第一部ゴルフゲーム : 第二章セオリー、第三章メソッド
ゴルフ経営原論 / 第一部ゴルフビジネス : 第三章インストラクション
未経験者のメンタルハザード
ノンカスタマーをカスタマーに、つまりゴルフ未経験者を経験者にするには大きな障害が横たわっている。何事によらず経験がないことを初めてするには実に精神的負担が大きいことは日常体験するが、特にゴルフの場合には決断するまでに相当の心の準備が必要なうえ、いざ始めようとすると色々な人から助言を賜ることになる。
聞けば聞くほど難しくなる助言は、未経験者や初心者には実に精神的負担が重く、最初に抱いた楽しそうなモチベーションは次第に萎えてきて、やがて始めたことを後悔する人すらいる。ゴルフがエチケットルールから始ることも大きな障害のひとつと考えられるが、一般にスイングの説明が難しすぎて、初心者の体をがんじがらめにしてしまうのが常だ。
NGFの教育プログラムは学校体育に導入するため、運動能力に関係なく誰もが優しく覚えられるようSimple & Easyをモットーとした。学校教育の場は全ての生徒が高いモチベーションを持っているわけではないし、全く興味を抱かない生徒すらいることを考えれば、極力メンタルハザード(精神負担)を取り除く努力をしなければならない。指導者の偏見や独りよがりはそれ自体、学習者にとってメンタルハザードである。未経験者や初心者指導が難しい理由は、指導者側の未経験や未熟が問われる点にある。米国のニューゴルファー開拓プロモーションが必ずしも成功しなかった理由はこの点にあった。
子供にしろ大人にしろ新しいことを始めるのに、一人で始めるには勇気がいるし、そのこと自体メンタルハザードになる。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という感覚は日本人固有のものではない。人間誰もが持ち合わせる共通意識として認識したうえで、初心者プログラムを設定しなければプロモーションの目的は達成されない。「サアみんなでやろう!」という動機付けから始まって明確な目標を掲げ、目標までのプロセスと方法論を明らかにしなければ誰もが不安に陥る。全員が納得し不安を克服しながら目標に向かって一歩一歩前進しはじめたとき、全員が目標達成意欲をもって希望と喜びを共有することができる。挫折し落伍しそうなものを励まし、お互いの競争意識も高まり一人では到底なし得ないことが達成できそうな気がして、益々自信とモチベーションが高まる現象効果を学習心理学で「グループダイナミックス」といっている。
eラーニング (e-learning, electronic learning)
学習能力や運動能力は人によって異なる。同じことを説明されても一回で理解できる人と、何度説明されても理解できない人がいる。同じことをやろうとしても一回でできる人と、何回も繰り返さなければできない人がいる。この能力の違いを如何に克服するかがグループ学習の最大の課題である。リアルステージである学習現場ではさまざまな工夫がなされてきたが、指導現場に立つ指導者の資質にも差があり能力も異なる。一方的に指導者の資質能力に依存してきた教育学習現場に、画期的変革をもたらそうとしているのがeラーニングシステムである。
インターネットは学習の高速道路といわれるように、マス教育や個人学習に画期的な変革をもたらそうとしている。優れた指導者による指導や優れた指導システムを誰もがオンデマンドに学習できるし、能力に応じて自分のペースで何度でも学習することができる。また文字・言葉・映像による3次元学習が容易になったため、従来とは比較にならない高い学習効果が得られる。つまり文字で伝わらない部分を言葉で補い、言葉で伝わらない部分を映像で理解させるシステムは従来の概念を決定的に覆すものである。
例えばコースを見たことがないものにとって、コースの映像を見せられることはまさに「百聞は一見に如かず」の諺どおりである。スイングについて難しい説明を聞くより素晴らしいスイングを見る方が遥かにはやい。ヘタなレッスンを何十回受けるより優れた学習プログラムをインターネット学習する方が遥かに効果的である。このような現象は現代社会に起きた「情報通信革命」の中で刻々と身の回りに起きている変化であって、利用したものは文明の恩恵に与かり、利用しなかったものは時代に立ち遅れる。
eラーニングシステムは教育の世界に革命的変化をもたらそうとしているが、教育の世界だけに留まらず世界そのものに革命的変化をもたらそうとしている。教育は常に差別の中に存在し格差を生む要因となってきた。身分の低いもの貧しいものは常に教育から疎外され、更なる身分差別と経済格差の原因となった。eラーニングシステムは、地球の隅々まで均等均質教育を可能にするだろう。本人の意志と僅かな経済負担で、世界中どんな僻地にいても最高の教育が受けられる社会は、人類にとって理想の民主平等社会が実現することを意味する。
ゴルフの世界でもeラーニングシステムを使えば、誰でも楽しく楽にゴルフを習うことができる。特別な環境に生まれ特別な環境に身を置かなくても、普通の生活環境の中で正統ゴルフを学ぶことができることになる。
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