- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
フィロソフィー - 第二章
セオリー - INTRODUCTION
- -1 ボールフライトロウは
如何なる理論か - -2 スイングセオリーの確立
- -3 9種類の弾道を生み出す
要因と理論的根拠 - -4 距離方向弾道を確定する
理論的根拠 - -5 生体原理から見た
スイングメカニズム - -6 物理原則から見た
スイングメカニズム - 第三章
メソッド - 第四章
ゲーム - 第五章
サイエンス - 第二部 ゴルフマネジメント科学
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
Section 3 9種類の弾道を生み出す要因と理論的根拠
-2 | スイングセオリーの確立 | << | >> | -4 | 距離方向弾道を確定する理論的根拠 |
9種類の弾道
ボールフライトロウは、インパクトの瞬間における物理法則によって9種類の弾道に打ち分けられるという論理によって明確にされた。弾道は人を選ばずにインパクトの瞬間の物理反応に過ぎないことが明らかになって、いろいろの分野でイノベーションが起きたことは前述したが、プレーヤーの立場からすれば法則を理解することで、9種類の弾道が自在に打ち分けられるようになったことは革命に値する。経験と勘の世界を脱出して科学とマネジメントの世界を開拓したことは、まさにゴルフ革命と言えよう。飛球の法則によれば、9種類の弾道はインパクトにおけるヘッド軌道とフェース角度の二つの要因で決まる。
ヘッド軌道はボールの打ち出される方向に影響し、フェース角度は打ち出された後のボールの曲がりに影響する。それぞれストレートに右と左の三種類あるから3種類×3種類=9種類の弾道という極めて単純にして明快な論理である。
革命はそれほど単純明快な論理によらなければ達成されるはずがないから、多くを語らず少ない言葉で理解することも真理を知るうえで大切である。
「ヘッド軌道の方向によってストレートボール、プッシュボール、プルボールの3種類の弾道が生まれる。フェース角度によってストレートボール、フェードボール、ドローボールの3種類の弾道が生まれる。両者を掛け合わせて合計9種類の弾道が生まれる。」これがボールフライトロウから導き出される9種類の弾道の定義である。法則原理の解明によってゴルフゲームの展開はバラエティーに富み、プレーヤーはもとより観戦する側からも実に興味深いものになった。フェアウェイをキープするにもグリーンを捉えるにも、9種弾道を自在に打ち分けるさまは圧巻である。タイガー・ウッズ始め世界のトッププレーヤーが、林の中やブラインド地点から自由自在に直接グリーンを攻めてくるのは、9種弾道を計算どおりに打ち分けられるからに他ならない。法則に基づく9種弾道の解明によってゴルフはアグレッシブなゲームに変貌したが、同時に距離方向をコントロールする頭脳的なゲームにも変貌したのである。
スクウェアシステムの確立
9種弾道が解明されたからといっても、基準はあくまでもストレートボールであることに変わりはない。むしろ正確にストレートボールを打てないプレーヤーでは自由自在に9種弾道を打ち分けることなど不可能だ。正確なストレートボールを打つ方法として、米国では80年代に入りスクウェアシステムが主流となった。スクウェアシステムとはセットアップの三要素(ターゲットライン、フットライン、ボールライン)を直角平行の関係にセットすることをいう。一見なんでもないことのようだが、スクウェアシステムの確立は基本統一への大きなイノベーションであった。スイング論に関して百家争鳴の時代にあっては全てが感覚的に表現され「スタンスはややオープン」とか「ボールはやや左より」とか「女性や男性ビギナーはややストロングにグリップし、フェアウェイ左サイドにターゲットをとれ」という具合に上級者には理解できても初中級者には意味不明な表現であった。どのような基本を定めるにも、標準や基準が定められなければ、何を基準にオープンなのか、どこを基準に左なのかストロングなのか意味不明である。標準や基準のない評価や表現は混乱の元となる。
スクウェアスタンスとはボールとターゲットを結んだイメージラインに対して両足のかかとを結ぶイメージラインが平行になるようにスタンスすることをいう。つまりターゲットラインとフットラインが平行の状態をスクウェアスタンスいう。ターゲットラインに対してフットラインが左に開いた状態をオープンスタンスといい、右に閉じた状態をクローズドスタンスという。
スクウェアスタンスに構えたとき、通常右足に対して左足は少し開いているために、多少オープンスタンス気味に見えるが、かかとを結んだフットラインはターゲットラインに平行である。かかとを結んだラインを基準にしたのは、つま先の開き具合は人によって異なり、平行感覚も異なるからである。
スクウェアグリップとは左手ナックル(拳)が二つないし二つ半見える状態で、右手親指と人差指でできるⅤ字形が右肩を指す状態をいう。グリップの型(ナチュラル、オーバーラッピング、インターロッキング)は問わない。スクウェアグリップは体の正面で構えた状態ではなく、インパクトの状態つまり左足大腿部の前で構えた状態を基準とする。ナックルが一つないし一つ半見える状態をウィークグリップといい、三つ以上見える状態をストロンググリップという。
スクウェアにグリップすれば誰でもストレートボールになるということではなく、スクウェアにグリップしてスライスする人はストロンググリップにすればよいし、フックする人はウィークグリップにすればよい。右から左にローテーションしてゆくとき、その度合いは人によってまちまちだから、各自自由に基準に対して強弱を判断すればよい。また同じ人であってもスイングの完成度や年齢によって変わってくるから、その時々自分の判断で調整すればよい。かつてインストラクターは生徒に対して自分の型を強制し、生徒全員が同じグリップをさせられていたが、いま思えば恐ろしい話ではある。
スクウェアスイングとはインパクトゾーンにおけるヘッド軌道の接線が、ターゲットラインと平行の状態にあるスイングをいう。スイングは腕とクラブによる一種の振り子運動と考えられるので、その運動は基本的に左右対称であると考えるほうが良いだろう。スイングセンターを基軸に振り子運動すれば左右対称に振れるのが自然であるが、特別な意識が働いたとき、振り子の一部に異常な力が加わってバランスがこわれる。
スクウェアシステムが確立してから基準が定まり、ボールコントロールやスイングコントロールが自由にできるようになった。それまでは9種弾道の打ち分けも達人の業であって、容易に人に伝達できる技術ではなかったのである。その意味でスクウェアシステムの確立は、ゴルフイノベーションやマネジメントゴルフの出発点となったと言えるのではないか。
全てスクウェアから
直角平行なスクウェアの状態を基準としたことが、なぜそれほどイノベーションに役立ったか縷々説明しよう。人間によらずあらゆる生き物は本来、先天的あるいは後天的感性に依存して生きてきた。遠い近い、速い遅い、高い低い、強い弱い、大きい小さい。このような言葉で表現される感性の程度を示す基準は各人の感性に依存しているから、感じ方は百人百様である。何に対してという基準が定められて初めて具体性を帯びてくるわけで、その基準もデジタル化されアナログ化されればいっそう具体化する。例えばティーインググランドに立って「右を向いて打て」といわれたとき、そのアドバイスの意図を正確に汲み取れる人はほとんどいなかった。ティーインググランドに対して右を向く人、グリーン方向に対して右向きに構える人、フェアウェイの右側を狙う人、コースの右サイドを狙う人、チンバックして打つ人など実にさまざまである。ボールがフェアウェイの真ん中に飛べば「ナイスショット!」といわれ、アドバイスの意図するところと結果は一致したか確認できていない。ボールが左のラフに飛べば「もっと右に向いて」打つことになるだろうから、本能的にスイングは益々アウトサイドインになり、重度のスライスサーが誕生することになる。このように感性の領域を抽象的に表現していたときにはワイレン博士が心配したとおり、生徒と指導者の間に混乱が絶えなかった。スクウェアシステムが確立してからは、右を向いて打つということは、仮想ターゲットを右に設定し、そのターゲットラインに対してスクウェアに構え、スクウェアにスイングすることを意味する。仮想ターゲットはプレーヤーにより使用クラブにより異なる。ドライバーによるティーショットのとき、男性なら200ヤード前後先のボール落下点に仮想ターゲットを設定するだろうし、女性なら150ヤード前後先の落下点に設定する。落下点が左傾斜であれば、そこではじめて仮想ターゲットを右に修正するが、修正の度合は落下点の傾斜の度合により異なる。この修正ターゲットラインに対してスクウェアに構え、スクウェアにスイングする。これがスクウェアシステムだが、スクウェアの定義が明確になってようやく混乱や誤解はなくなった。
9種弾道の要因と根拠
ヘッド軌道に対して、クラブフェースの向きがどちらを向いているかでボールの曲がり具合に決定的な影響を及ぼす。ヘッド軌道に対してクラブフェースがスクウェアに当たれば弾道はストレートになる。フェースが右を向いていれば右回転のスピンがかかり、弾道は右にカーブしてフェードボールとなる。反対にフェースが左を向いていれば左回転のスピンがかかり、弾道は左にカーブしてドローボールとなる。スクウェアシステムの下では、基本的にこの3種類の弾道が全てである。スクウェアシステムでは、常にターゲットラインに対してスクウェアに構えスクウェアにスイングするから、ターゲットラインを右に向けようが左に向けようが、そのターゲットラインに対してスクウェアにスイングすることに何ら変わりはない。従ってターゲットラインが右を向いても左を向いても、クラブフェースが右を向いても左を向いても、常にスイングは一定であることがスクウェアシステムの条件である。 スイング一定を前提条件にしたスクウェアシステムでは、全てが単純明快になった。つまり、どのような局面においてもストレート、フェード、ドローの三種類の弾道しかないから、状況によってターゲットラインを右に定めるか、左に定めるかの違いだけで、どの場合も同じ一定のスイングをすればよいことになった。三種類×三方向で9種弾道となるが、スイングはひとつであることが重要な要件で、その都度スイングを変えてはスクウェアシステムが成立しない。ワイレン博士が力説するように、ボールはインパクトの瞬間における物理法則にだけ反応するため、常に同じスイングが反復されることによって、初めて意図的にいろいろな弾道を打ち分けることが可能になったのである。ゴルフでは同じコースを100回プレーしたところで、ティーショット以外は同じ場所からショットすることは絶対にありえない。万一あったとしても、その時によって風の具合やピンポジションが異なるため、同じ条件にはならない。このように常に状況が異なるゴルフゲームでは、なるべく可変要因は少なくしてシンプルイージーにすることが、対応を容易にし成功確率を高めることになる。現代ゴルフでは無限に変化する状況に対して、スイングを一定要因にすることによって可能な限り選択要因を基本パターン化し簡素化することに成功した。それ故に法則原理を知ることによって、少ない選択肢の中から誰でも高度な戦略性を導き出すことができるようになったのである。現代ゴルフがマネジメントゲーム化したといわれる所以である。
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