- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
フィロソフィー - 第二章
セオリー - INTRODUCTION
- -1 ボールフライトロウは
如何なる理論か - -2 スイングセオリーの確立
- -3 9種類の弾道を生み出す
要因と理論的根拠 - -4 距離方向弾道を確定する
理論的根拠 - -5 生体原理から見た
スイングメカニズム - -6 物理原則から見た
スイングメカニズム - 第三章
メソッド - 第四章
ゲーム - 第五章
サイエンス - 第二部 ゴルフマネジメント科学
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
Section 4 距離・方向・弾道を確定する要因と理論的根拠
-3 | 9種類の弾道を生み出す 要因と理論的根拠 |
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マネジメントゲーム
米国型科学ゴルフでは、ゴルフをターゲットゲームとかマネジメントゲームというようになったのは、オーガスタ・ナショナルの設計変更を担当したボビー・ジョーンズの設計思想に基づくといわれる。それ以前のアリスター・マッケンジーやドナルド・ロスの設計では、それほど厳密な距離と方向に対する条件は要求されなかったが、ボビー・ジョーンズはターゲットを線や面で設定せず、点や位置で条件設定し、ピンポイントで攻めることを要求した。ゴルフがターゲットゲーム化したといわれる所以であるが、プレーヤーがそれに対応できるようになったのは、スイングを一定にしてクラブ機能を働かせる現代ゴルフが確立したからに他ならない。スイングの変遷はクラブの進化と共にあったと述べたが、だからといってクラブが主役であったわけではない。ストロークプレーはあくまでもコースとプレーヤーの勝負であって、クラブは単なる道具に過ぎない。クラブメーカーの商業戦略に乗って、ゴルファーたちがクラブ優先主義に陥ったとき、ターゲットゲーム思想が起こったことはコース設計者の逆襲とも思える。クラブが精巧になった分、それを使いこなすプレーヤーの技量も求められるようになったが、ボールフライトロウの発見やスクウェアシステムの確立は、見事にその期待に応えたといっても過言ではあるまい。
気象条件が安定しコース整備が整った米国のコースでは、設計者の意図が直接プレーに反映するから、設計者の要求するショットをしなければスコアはまとまらない。設計者の要求は正確な距離方向と弾道である。「結果オーライ」という絶妙な言葉があるが、ターゲットゲーム思想が生まれるまでは、まさに言葉の通り結果がよければ過程は問われなかった。キャリーオンしようがランニングオンしようが、グリーンを捉えることが大切であって、弾道の素晴らしさは自己満足以外の何物でもない。しかし、ターゲットゴルフでは設計者の要求に応えなければスコアにならないから、嫌でも設計意図を読み取る必要がある。例えば「150ヤードをフェードボールで攻めよ」とか「ドローボールでないと危険」とか「150ヤード以上キャリーボールを打たないと池に入る」というように、距離方向の条件さえ満たせばグッドショットという訳にはいかない。いわゆるスピンコントロールが要求されるのである。またティーショットにしても距離を稼げば有利という訳にはいかない。例えば「250ヤード先のフェアウェイが極端に狭い」、「250から280ヤードにクリークやラフがある」、「ボール落下点が斜面になっている」という具合に、距離弾道を間違えば必ずペナルティーを伴う設計が施されている。このようにターゲットゲームとなった現代ゴルフは偶然や幸運に期待してもほとんどその可能性はなくなり、コースの特徴や設計者の意図を汲み取って対策を講じなければ、ゲームを楽しむことができなくなったという意味でもマネジメントゲーム化したのである。
距離を確定する要因
ターゲットゲーム化した米国型現科学ゴルフは、距離に対してより厳格に正確性を要求する。つまりキャリーで何ヤード、ランで何ヤードと内容まで細かく要求しターゲットまでの距離を単純に満たせばよいという訳にはいかない。要求された内容を満たさなければ確実にペナルティーが伴うか、リカバリーが難しい状況に追い込まれる。ランの予測を誤ればターゲットが遠くなるか、ペナルティーを伴うこともある。そのうえ、ランの予測も前後左右と落下地点の状況によって複雑に異なるから、距離の判断は単純な直線で計ることはできない。さらに無風状態ならともかく、風は常にどちらからか吹いているから、風速風向を絶えず観察しなければならない。距離測定する前に自然障害や地形障害について状況を観察して距離判定しなければならないが、このような障害に対してはセオリーよりメソッドを優先して対処するほうが適切だろう。
距離はゴルファーにとって最も関心の高い要因かもしれない。より遠くに飛ばしたい願望は人間の本能かと思わせるほど根強く、飛ばすためなら如何なる犠牲も厭わないゴルファーがどれほど多いことか。飛ぶクラブが飛ぶように売れる現実が証明している。基本的なことをいえば飛ぶクラブはドライバーであってスプーン以下のクラブではない。既にアンスレイ卿実験チームが明らかにしたとおり、ドライバーの飛距離≒ヘッドスピード×5メートルとなっている。アンスレイ卿が全財産を投入してもこの方程式は変えられない。誰でも飛ぶようになったのは、飛球法則の発見からシャフトが長く軽くなり、ヘッドが大きく軽くなったお陰である。「プロは飛ばすから自分もプロのように飛ばしたい。ライバルにあっと言わせたい」実に他愛ない動機ではあるが、ジェームス王の時代から「Far & Sure」は王の願いでもあった訳で、恐らく永遠不滅の願望に違いない。ところがこの「より遠く正確に」という王の願いも、21世紀現在益々もって実現の可能性が乏しく、むしろ永遠不滅の二律背反になる可能性の方が高い。
最新のPGA Tourデータを見ると、2008年度ドライビング平均飛距離ナンバーワンのババ・ワトソンも、正確性部門では183位と低く、飛距離部門2位以下9位デービス・ラブIIIまで、正確性部門125位以内に入っている者はひとりもいないというのが現状である。距離と方向が永遠の二律背反であることを世界のトッププレーヤー達が証明している。
ゴルフが単純に飛距離を争う競技であるならば二律背反性を何としても解決しなければならないが、ゴルフは基本的にターゲットゲームであるから、ゴルフの成熟に伴って飛距離へのこだわりもやがて収まる。飛ばす人は巧いと思うから飛距離にこだわるのであって、飛ばす人が必ずしも巧い訳ではないと分かれば飛距離にこだわらなくなる。クルマと一緒で初心者でも200キロのスピードは出せるが、ベテランほど危険性を知っているから、むやみにスピードは出さない。ゴルフでは飛球法則により、ボールの飛距離は技量に関係なくヘッドスピードに比例するから、100を切れなくても300ヤード飛ばせる人は結構いるはずだ。飛距離にこだわるゴルファーが出血努力や高額投資をしているのに、安物の軽量長尺クラブを使うジュニアゴルファーが、いとも簡単に自分より50ヤード先に打っていくのを目の当たりにしたとき、初めてその人の前に悟りが啓け、同時に達人への道も開ける。
飛球法則を理解すれば、ヘッドスピードが増すと方向に対する危険度が相乗的に増すことも理解できる。インパクトの瞬間発生する僅かなヘッド軌道に対するフェース角度の誤差が、物理法則に従って強烈なサイドスピンを生み、ディンプル効果と相俟って弾道に大きな影響を与えるから、ボールは恐ろしい弾道を描いてターゲットから大きくそれていくのである。ボールは物理法則に従って飛ぶことしかできない。
方向を確定する要因
弾道の打ち出し方向を確定する要因はインパクトの瞬間に於けるヘッド軌道の方向である。ある程度のヘッドスピードがある限り、インパクトの瞬間に於けるヘッド軌道の方向に向かってボールは打ち出される。打ち出された直後から弧を描くことはめったにない。たまに極端に強いサイドスピンがかかったとき、野球のスローカーブのような最初から大きな弧を描いて飛び出すボールがあるが明らかにミスショットであって、戦略的にこのようなボールを打つことはほとんどありえない。ある程度のヘッドスピードがある限り、弾道の方向を確定する要因はヘッド軌道の方向であることは基本原理といえる。しかしこの基本原理も、あくまでもクラブフェースの中心部分で打った場合を条件にしていることを忘れてはならない。
ではスイートスポット以外のフェース面で打った場合はどうなるか。この研究はアンスレイ卿チームによる「Search for the Perfect Swing 1968;大英ゴルフ学会」に報告されている。この報告によれば、トウといわれるクラブヘッドの先端部分で打った場合はボールと衝突した衝撃によって、クラブフェースは一瞬右方向を向くからボールは右方向に打ち出される。反対にヒールといわれるクラブフェースの手前部分で打った場合は、衝撃によってクラブフェースは一瞬左方向を向いてボールも左方向に打ち出される。打ち出された後に大変興味深い現象が現れるが、アイアンクラブで打ち出されたボールは左右に方向を変えてストレートに飛んでいくが、ウッドクラブで打ち出されたボールはトウに当たった場合、フックしてターゲット方向に軌道修正し、ヒールに当たったボールはスライスしてターゲット方向に軌道修正する。達人プロたちはこのことを経験的に知っており、ドローボールを持ち球にしている人はトウ部分で打ち、フェードボールを持ち球にしている人はヒール部分で打っていた。
研究報告によれば、ウッドクラブのフェース面はバルジといわれる丸みを帯びた湾曲形になっていて、衝突の瞬間における摩擦によって、ボールとクラブフェースの間にギア効果といわれる現象が起きる。ギア効果はクラブフェースが右に向いた場合、摩擦によってボールに左回転を与え、反対の場合はボールに右回転を与えてそれぞれフックボール、スライスボールを生み出す。理論的には慣性モーメントの働きによってこのような現象が起きるというのだが、現実には職人芸として長い間、プロの企業秘密のように言われ続けて来た。結局方向を確定する要因はヘッド軌道が決定的であり、補足要因としてフェースの打点位置ということになる。
ゴルフゲームにとって方向は最重要課題であり、方向が定まらない限り永久にカップに近づくことができないばかりか攻略ルートの設定すら難しくなる。そこで方向性を安定させるためにいろいろな研究がなされた結果、方向に対する正確性を高めるメソッドとしてスクウェアシステムが確立した。どのようなポジションからもターゲットに正対してセットアップし、インパクトの瞬間ターゲットラインに接するヘッド軌道を画くことによって、常にターゲットライン上にボールが打ち出されるシステムは、シンプルイージーにして合理的と言わざるを得ない。
スクウェアシステムを基本にするというと、必ずといってよいほどアプローチやバンカーショットにはオープンスタンスの方が良いとか、肩のラインはややオープンに構えた方がスムーズに回転するという意見が出る。最もな意見だしその通りなのだが、スクウェアシステムの意味を誤解してはいけない。ターゲットライン、フットライン、ボールラインをスクウェア(平行直角)になるよう構えてスイングすると、ヘッド軌道とターゲットラインがボールの位置で接するシステムのことをスクウェアシステムという。スクウェアな基準が定められて初めてオープンやクローズの概念が明確になるのであって、スクウェアの概念を疎かにすると、基準が曖昧になって無限の選択という迷路に陥ることになる。
方向に対する概念として常にストレートラインが基準であって、ストレートに対してスライスライン・フックラインがあり、スクウェアセンターに対して右サイド・左サイドがある。何事によらず基点や基軸が明確に定まって初めて応用や調整が可能になるのであって、基点や基軸が定まらなくては、限りなく試行錯誤が続くことになる。「ターゲットラインに対してスクウェアにセットアップし、スクウェアにストロークした時、ボールがストレートに打ち出される状態をスクウェアシステムという。」と定義するならば、この状態でボールが右に打ち出されたら接線は右向きでありスイングプレーン全体が右方向を指していることになる。反対に左に打ち出されたら接線は左向きでありスイングプレーン全体が左方向を指していることになる。結論として方向を確定する主要因はスイングプレーンの向きであり、打点位置は補足要因といえる。
この結論を得たところで、ショートスイングにも言及しておかないと誤解を招くかもしれない。ショートスイングとくに7時-5時のようなスイングの場合には、ヘッドスピードが極端に遅いため、クラブフェースの向きによって方向は強く影響される。スクウェアに構えスクウェアにストロークしたつもりでも、インパクトの瞬間クラブフェースが右を向いていればボールは右に打ち出されるし、左を向いていれば左に打ち出される。ショートスイングではヘッドスピードが遅いために、ボールが当たった瞬間ベクトルの関係で、ヘッド軌道よりフェースの向きに対して正確に反応するからである。ショートアプローチやショートパットが決まらないときは、ストロークの方向以上にフェースの向きをチェックしてみる必要がある。このことは1968年発表された「Search for the Perfect Swing」によって既に解明されている。
弾道を確定する要因
ボールが打ち出される方向は、相当のヘッドスピードがある場合にはクラブヘッド軌道に大きく影響されることを理解したが、打ち出された後の弾道変化は弾道学-Ballistics-という学問領域で研究される。弾丸や砲弾と異なり、ゴルフボールの場合にはディンプルといわれる凹凸の付いた球体が回転することによって生まれるディンプル効果について、いろいろな角度から風洞実験による研究が行われている。ディンプル効果の発見はかなり古い話で、樹脂を固めたハスケルボールが世に出たときには、既にいろいろな形状のディンプルが付けられていたから、弾道距離が伸びたのはスイングの進化より用具の進化に負うところが大きいと思われる。用具もヘッドよりシャフト、シャフトよりボール、ボールも素材より表皮、表皮よりディンプルの進化に負うところが大きいといえるのではないか。
つまりディンプルの発見と研究こそボールの飛距離に貢献したと思うが、実はディンプルがボールの曲がりにも多大な貢献をしていることを忘れてはならないのである。それが距離と方向の二律背反性の原因であって、Far & Sureは王が願ってもアンスレイ卿が全財産を投げ出しても永遠に実現できない理想といえる。
ディンプル効果はボールの回転に伴って発生するボール周辺の空気流動が揚力となり、弾道を上下左右に変える働きをする。ヘッドスピードが増せば増すほど距離にも回転にも強く影響するわけで、両者の関係は相関関係にある。ボールはディンプルがない球体ならば昔の弾丸や砲弾のように単純な放物線を画いて飛ぶと思われるが、アンスレイ卿チームの実験によれば曲がりも少ない代わりに大した飛距離も得られないという。ディンプルはボールの周囲に大きな空気流動を起こし、スピンによってマグナス効果といわれるボールを前方に引く力と浮き上がらせる力を発生させて、より大きな飛距離を生み出すと報告している。
ボールが打ち出される方向はヘッド軌道によって決定的な影響を受けるが、一端打ち出されたボールの弾道はボールの回転速度や回転方向によって決定的な影響を受ける。強いバックスピンがかかれば、ボールを前方と上方に引っ張る力が作用して距離が高さに変わるし、サイドスピンが加わればボールを左右に曲げる力が作用する。弾道を決定する要因がボールスピンであることに間違いないが、スピンを生み出す要因はインパクトの瞬間におけるフェース角度、ロフトを含む打撃角度であることはワイレン博士によって明らかにされボールフライトロウとして発表されている。法則とはプレーヤーの技量・年齢・性別に係わりなく所与の条件に対して同一の反応を示すことをいうから、法則そのものは信じて疑う余地はないが、問題は状況に応じて条件を作り出すプレーヤー側にある。ゴルフは自然の中でプレーするゲームだから、常に状況が異なるうえ条件も変わる。更に試し打ちが許されない一発勝負のゲームだから如何に慎重に状況判断をしたつもりでも、多くの場合は期待した結果が得られない。ゴルフがミスゲームといわれる所以であり、人生ゲームに例えられる理由である。
人に与えられた時間と経験には限りがあるから、無限の状況変化にとても対応しきれない。だから状況をいくつかのパターンに分けて、それぞれの状況パターンに対応する最適方法をシステム化するのである。弾道でいうならば9種弾道に高低差を加味したもので、ハイドローとかローフェード、あるいはロビングショットとかバンプ&ランショットという具合にパターン化されたメソッドにしている。これらパターン化されたメソッドは、以前ならば達人プロたちのミラクルショットであったが、裏付理論に叶った基本セオリーが確立してからは中級者でも利用できる基本メソッドのひとつとなった。
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