NGF WORLD Golf Campus Image
  • メンバーログインは右の [ Login ] ボタンをクリックしてください。
National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第三章 メソッド
Section 1 スイング形成と矯正

ゴルフは2秒足らずのスイングが基本であり全てであるといえる。如何なるクラブで如何なるショットをする場合も、まずスイングがなければ全て始まらない。ところがゴルフの長い歴史の中でスイングについて語られた歴史はどうも浅いのである。先にも触れたとおり、スイングについて深く論じられるようになったのは大英ゴルフ学会から「Search for the Perfect Swing:1968」が発表された頃からで、名著といわれたベン・ホーガン「Five Lessons The Modern Fundamentals of Golf」が発刊されたのも1957年のことである。つまりそれ以前はクラブが手工芸品だったため、性能にバラツキが多くて普遍理論を確立することなど、とてもできる話ではなかった。クラブに基準が設けられ量産体制が整ってクラブ機能が均質化するまで、ワンスイング論も理想に過ぎなかった。第二次大戦後の米国を代表する同じ1912年生まれのベン・ホーガン、バイロン・ネルソン、サム・スニードは近代ゴルフを確立した人達といわれるが、ゴルフの内容は全く違っていた。フェードのホーガン、ストレートのネルソン、ドローのスニードと三者三様の個性を特徴として一世を風靡していたのである。二クラス、パーマー、トレビノのスイングに相違点を見出すことはやさしいが共通点を見出すことは難しかった。杉原、青木、尾崎のスイングからも同様なことがいえる。ボールフライトロウが発表された段階では、ゲーリー・ワイレン自身スイング原理を確定しきれず、方法については無限の選択性といって詳しく言及していない。コットレル理論によるスイング6原則が確立して20年経過した今、ウッズ、ミケルソン、キム、片山、今田、石川、宮里、上田など誰一人として6原則から外れてスイングしている者はいない。メジャートーナメントに出場するもので9種弾道が打ち分けられない者はいないはずだ。このように基本とは全てのプレーヤーを支える基盤であって、性別、年齢、技量に関係なく万人に対し普遍的に適用される技術方法をいう。

スイングの意味

スイングをしなければゴルフは始まらないから、スイングから覚えていかなければならない。従来ほとんどのひとがゴルファーから見よう見まねで習った。その代わり誰に習ったかすぐ分かるほど、習った人にそっくりなスイングが出来上がったが、その人以上に上達し出藍の誉れとなることはめったになかった。最近は一般的にスイングが美しくなったが、メディアの発達によって美しいスイングを観る機会が多くなったせいと思われる。視覚効果は87%といわれるほど影響力があるから、親や先輩の悪いスイングを見て育つより、遥かに完成度が高い。大脳生理学で明らかにされているが、子供の頃は左脳より右脳の方が発達していて、真似することが得意であったものが、大人になるに従って左脳が発達して理性的になるために段々と物真似が下手になるものらしい。子供の頃簡単に覚えられたことが、大人になるに従って覚えにくくなることは日常体験していることである。ゴルフも同じことで、子供の時代にゴルフを習うなら衛星放送で海外トーナメントを見せたり、野原でゴルフごっこをさせるだけで相当上達するはずだが、我流の域は出ないので限界はある。このとき親が指導するにせよ原則に叶ったスイングを形成しておけば、子供の将来に大きな可能性がみられる。スイングは振り子原理に基づくペンデュラースイングであり、6つの原則から成り立つことを理解した。振り子を動かす原動力は体と腕であり、4つの生体原理から成り立つことも理解した。このことから、スイングとは生体的・物理的に無理なくクラブを振り、効率よくボールを飛ばす技術手段であることが分かったはずである。

スイング形成とドリル

これらの原理原則に叶ったスイングを無意識のうちに覚える方法=メソッドとして8つの基本ドリルがある。ドリルは反復訓練のことをいうが、言葉の意味は同じでもプラクティス、エクササイズとは目的内容が異なる。ドリルとは動きや形を作るための補助訓練のことをいい、目的が分からなければ意味のない訓練である。8種ドリルの目的は明らかに原理原則に叶ったスイングを作ることにあり、ドリルを繰り返すことによってスイングを意識せずに理想の動きと形を体に覚えさせる方法である。8種ドリルにもそれぞれ明確な目的があり、目的を理解することがスイングそのものを正しく理解することに繋がる。

(1) セットアップドリル

スイングする前の構えのことで、はじめにこの形ができていないと毎回正しく同じスイングをすることができない。競走、競泳、投球、射撃など静止状態から決定的な動きが始まる競技は、全てスタート前の構えが重要である。特にワンスイングの時代になり、如何なる状況にあってもセットアップが不完全なときはスイングも不完全に終る。いつでも正しいセットアップができるよう普段から反復訓練をしておく必要がある。

(2) ショルダーターンドリル

生体的なスイングメカニズムのひとつで、上体の大きな動きをつくる要因となっている肩の回転運動の訓練。この訓練を反復することによって上体の捻転を容易にするだけでなく、正しい体全体の動きを覚えさせることができる。普通のプレーヤーは普段このような動きをすることが少なく、実践に当って中途半端な動きからミスを誘発したり、無理な動きから怪我の原因になることがある。

(3) ウェートシフトドリル

肩と腰の回転運動を助ける下半身の生体メカニズムで、自然なウェートシフトをすることによってスイングバランスを整える作用をする。肩の回転に合わせて右から左へと体重移動する感覚を覚え、ボディーターンを支えるフットワークトレーニングとして行う。ウェートシフトは肩の回転の大きさに準じ、ショートスイングやパットでは行わない。

(4) フォーアームローテーションドリル

腕が振り子運動するとき起きる上腕の自然な回転運動で、スイングプレーンに対して直角にセットされたクラブフェースが、テークバックと共に開いて平行になり、ダウンスイングと共にまた閉じてフォロースイングで裏返しになるための生体メカニズム。このメカニズムが働かないとスムーズなペンデュラースイングは行えないどころか、無理をすれば肩の関節が外れる。同時に手の数倍の速さでクラブヘッドが加速するメカニズムにもなっており、自然な動きを覚えるためのドリルである。

(5) ブックスイングドリル

ボールに対してスクウェアに構えたクラブフェースが、テークバックと共に開いてプレーン軌道に乗り、トップスイングでフェースが正面を向いた後、ダウンスイングを経てインパクトでスクウェアに戻り、ヘッドが裏返って再びプレーン軌道に乗っていくメカニズムを覚えるドリル。両手に挟んだ本の表表紙はクラブフェースを表し、裏表紙はクラブヘッドの裏側を現す。本を挟んだ手首が右に折れたときはクラブフェースが開いたことを意味し、左に折れたときはクラブフェースが閉じたことを意味する。ダウンスイングからフォロースイングにかけてクラブヘッドが裏返りながらプレーンに乗っていく状況を観察し、本を挟んだ両腕のコネクションを理解することができる。本の表紙の向きと手首の状態は直接連動しているので、僅かなミスや誤解を正すことができる。

(6) ヒッチハイクドリル

ヒッチハイクするときの手の形を意味する。この手の形は左手グリップを現し、立てた親指はシャフトの向きとヘッドの方向を指す。テークバックで親指が空を指し、フィニッシュで親指が背中の方向を指すことによって、正しい左手の動きと左腕の感覚を理解することができる。右手で左腕を押さえながらスイング動作をすれば、腕と体のコネクションと4つの生体原理のコンビネーションが理解できる。反復訓練すればクラブを持ってスイングしたときと同じスイングモーションをゆっくりした動きの中で体得することができる。

(7) スイッシュドリル

シャフトが風を切る音をスイッシュというが、クラブを逆に持ってホーゼル部分をグリップしてスイングする逆クラブスイングのことをいう。左手一本で行うワンハンドスイッシュは、クラブを逆に持ってヒッチハイクドリルをする感覚だが、スイングしたときインパクトゾーンで最も大きな音がすれば、充分ヘッドスピードのあることが分かる。ワンハンドスイッシュは左サイドリードの感覚を覚えるのに最も優れたドリルでこのドリルを反復すれば、流れるようなスイングモーションが身に付く。 両手でクラブを持って行うツーハンドスイッシュは、ヘッドの重みを感じないでスイング感覚を覚えるドリル。ヘッドの重みがないので自然なスイングモーションができるから、通常の素振り練習以上にスイング形成効果があるうえ安全性も高い。室内練習では必ずツーハンドスイッシュを励行するよう勧めたい。

(8) フリースイングドリル

何も持たずにするスイングドリルのことで、セットアップドリルとセットにして行うと効果的である。公園、広場、グランド、屋上などで仮想ターゲットを想定し、ターゲットラインにスクウェアにセットアップする訓練と、ターゲットに対してスクウェアにスイングする総合ドリル。ミスショットの80%以上はセットアップミスとスクウェアにスイングできなかったことに原因があるといわれており、このドリルはプレー以外のときはもちろん、プレーの最中でもセットアップとスイングのチェックに役立つから、トーナメントプロも試合中に頻繁に行っている。
施設や現場がなければトレーニングができないと考えるのは大間違いで理論・体力・精神・戦略・技術トレーニングにうち、前四者は現場を必要としない。肝心な技術トレーニングも80%近く施設現場以外でトレーニングできる事が分かる。史上最強のボビー・ジョーンズが、最盛期でも年に数週間しかクラブを握らなかったという伝説は、この辺りに秘密があるのかもしれない。

スイング矯正とドリル

ドリルはスイング形成に大変効果的だが、実はスイング矯正にも威力がある。特にベテラン上級者には長い経験に基づく自信とプライドがあるから、自分の技術に関する瑕疵誤謬を指摘されたくないという精神的障壁がある。ドリルを使えば他人の指摘を受けずに矯正できて、さらに以前より良いスイングに変わったことが自分の目で確認できる。一般に矯正は形成より難しいといわれるが、出来上がっているものほど作り直すのに手間隙かかるのは当然であろう。別な観点からも理解できるが、人は欠点や癖を直すのに大変苦労するのは、そのことを意識すればするほど反ってトラウマになってしまって、以前より増して悪化してしまうことは日常経験する。スイング矯正メソッドとしてドリルが効果的なのは、その欠点や癖を意識することなく、自然な形でスイング原理を形成する効果があるからで、原理に叶った新たなスイングが形成されることによって従来の不合理なスイングが自然に消滅するからである。新しい細胞が生成されることによって、古い細胞が死滅するのに似ている。