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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第三章 メソッド
Section 6 パッティングメソッド

パットの世界

ゴルフはショットゲーム36とパットゲーム36から成り立っているが、ゲーム全体の半分を占めるパットについて、どれほど科学のメスが入ったか甚だ疑問である。どうやら科学が入り込む余地のない神秘な領域があって、証明どころか語ることすらできないのではないか。ビッグトーナメントを観戦していても最終パットが終るまで緊張から解放されないのはなぜか。誰もがパットの恐ろしさを体験的に理解しているからである。ゴルフを知らない人がみれば、10メートルのパットを難なく沈める人は上手な人で、数十センチのパットをはずす人は下手な人だろう。しかし少しゴルフを知っている人なら、ゴルフの恐ろしさが身にしみるほど伝わってきて、自分の胸が苦しくなるはずだ。今まで米国ゴルフ界の著名な指導者たちの口からも、パットについてだけは自信を持って語るのを聞いたためしがない。名手といわれたポール・ラニアンでさえアプローチについては自信満々に語っても、パットについて何も断言しなかった。断言したのは「青木功プロはタップ打法の名手だが、タップ打法で世界は制覇できない」ということぐらいだ。パットについて未だセオリーが完全には確立されていないため、万人普遍の基本メソッドも確定できないという条件の下でなければ、本項を書き進めることはできない。

パットの基本メソッド

 

(1) パットスイングにはストローク式、タップ式、コンビネーション式の三種類がある。ストローク式は現在主流を占める振り子原理に従った方法で、世界中ほとんどのプロが採用している。タップ式は手首を使ってパターヘッドをボールにぶつけるように打つ方法で、日本の往年の名手に多く見られた。コンビネーション式はストロークとタップを組み合わせた方法で、今でも時々見かける。三種類の方法が生まれたのはグリーンの改良変化によるものと思われるが、以前は現在ほど速いグリーンは作れなかったから、プレーヤーも必然的に遅いグリーンに対応する方法を採用していた。
遅いグリーンとは芝が長めに刈ってある状態をいい、手首を使ってしっかり打たないとカップの手前で止まってしまうか、芝目の影響を受けてカップの直前で曲がってしまう傾向がある。特に日本特有のコーライグリーンでは芝目もきつく、この変化が顕著に現れるために、かつて川奈オープンに出場した外国人選手が揃って頭をかかえていた。日本のゴルフコースは今でもコーライ芝を使っている所が多いから、タップを少し入れたコンビネーション式が残っているのだろう。ポールラニアンが断言したのは、日本のコーライ芝の実情を知らなかったからかもしれないが、米国でも現在のような芝草管理ができるようになったのはバイオテクノロジーが発達したからで、高速グリーンが整備されたのはそれほど古い話ではない。
バイオテクノロジーは米国の戦略産業のひとつであるが、莫大な開発費用を投じて遺伝子組替え研究をした成果がゴルフ産業にも転用され、アラスカの極寒からアリゾナの猛暑まで対応できる強靭な芝に改良することができた。一年中青々として微妙なタッチが出せるベントグリーンは、ゴルフをおもしろくするうえで大きな貢献をしているが、日本では芝草管理技術の面で立ち遅れているコースも少なくないのでオールベント化は今後の課題となろう。日本のゴルファーは余りパットが巧くないといわれるが、グリーンや芝草管理技術の遅れと全く無縁ではないかもしれない。

 

(2) グリップはリバースオーバーラッピンググリップを基本メソッドとしているが、余り厳格に考える必要はない。実際は右手と左手を逆にしているプレーヤーもいるくらいだから、本人にとって最も成功確率の高い方法を選択すべきだろう。ただし、基本メソッドを知らないために絶えず迷っているのは危険なことで、それではどの方法にも自信がなくなる恐れがある。だから迷ったら必ずいったん基本に戻ることが大切で、帝王ジャックニクラウスがスランプに陥ったとき、幼いころからの師匠ジャック・グラウトを訪ね、昔のグリップに戻されてスランプを脱出した話はよい例ではないだろうか。
グリップする位置はパターのグリップ中央を基本にしておくとよいが、こうすると状況変化に対してチョークアップしたりチョークダウンできるメリットがある。一定にテンポを保ったストローク式パッティングでは、シャフトの長さがヘッドスピードに影響するから、その日によって強すぎる傾向ならチョークダウンし、弱すぎる傾向ならチョークアップしてみる方法もある。

 

(3) セットアップはスクウェアに構え、ボールの位置は両目の真下を基本とするが、ショットのときと異なり両足を揃え、膝も軽く折る程度でよい。どの程度前傾姿勢をとるかパターの長さにより好みによって異なるが、特に前傾姿勢が深すぎたり不安定でなければ問題ない。パッティングスタイルは十人十色とされるが、成功していれば何ら問題ないし、不調になって初めて基本に戻る必要が生まれる。
プロ競技においても実にさまざまなパッティングスタイルを見かけるが、オープンスタンスや横に構える人は少なくなり、スクウェアに構える人が多くなったが、同時にロングパターを使う人も多くなった。ロングパターを使う人は当然スクウェアに構えて、ゆっくりとしたストローク式ペンデュラースイングになるが、このスイングでは完全にスイング6原則が当てはまる。ただしスイングモーションを構成するフォーアームローテーションとウェートシフトの機能は完全に停止している。

 

(4) パッティングスパットは仮想カップのことをいうが、グリーンアンジュレーションはうねりのある斜面となっているから、パットラインは大きくカーブし微妙に変化する。従ってカップに対して直線的なターゲットラインがほとんど存在せず、仮想ターゲットラインを何処に設定するか重要な問題となる。
パットの場合にはショットと異なり9種弾道は存在しないから、全てがストレートボールとして打ち出された後、アンジュレーションによって物理的に曲がり加速減速する。従ってパットするとき、事前に状況を判断して距離方向を定め、仮想ターゲットラインを想定してその延長線上に仮想カップすなわちパッティングスパットを決める。現実カップとスパットが一致することはほとんどなく、スパットを狙って打たれたボールはカーブしながら速度を変えて現実カップに向かって転がっていく。
スパットの決め方は左右上下の傾斜を読んだ上でパットラインを想定し、最初の打ち出し方向延長線上で下り斜面なら手前に、登り斜面なら遠方にスパットを定める。アンジュレーションのあるグリーンではスパットを何処に定めるか、定めたスパットに距離を合わせて正確なパットができるかに成否がかかる。

パットの法則原理

第2章セオリーのところでパットについて何も触れなかったが、実はショットとパットでは根本的に性質が異なり、インパクトの瞬間に発現する物理現象は類似するものの、打ち出されたあとのボールの運動メカニズムは全く異質である。パットによって打ち出されたボールは専ら地上を転がるため、ほとんど空気の影響は受けずに地面の傾斜と芝草の抵抗に影響される。ショットによって打ち出されたボールは空気抵抗とマグナス効果によって上下左右に曲がるのに対して、パットによって打ち出されたボールは摩擦抵抗と斜面効果によって加速減速し左右に曲がる。またショットは風の影響を強く受けるが、パットはそれほど強く受けない。
このようにショットではインパクトの瞬間における物理原則に従って万人普遍の飛球法則が導き出せたのに対し、パットでは打ち出された後のボールの転がりについて正確な予測を導き出さなければならないという課題が発生した。しかし予測を立てるについて驚かされるのは、人間の潜在能力は科学の力では説明不可能と思われる能力を発揮することがある、ということだ。優勝する選手を見ていると成功確率1%もないパットを次々と決めたり、コンピューターが1年がかりで計算しても決定できない複雑なパットラインを、数十秒で判断して大逆転劇を演じる。セオリーやメソッドとは、万人普遍の原則であり反復再現性の高い方法であると定義付けたが、パットに関しては余りにも複雑多岐で選択無限、とても定義できないのである。
初心者が10メートルのパットを沈め、プロが1メートルをはずすことなど日常茶飯事に起こるから、このような領域に原理原則を導入することは、不合理を超えてナンセンスというべきかもしれない。むしろ万人に備わる人間の神秘的な潜在能力を大切にし、その能力を研磨する方法を探す方が遥かに賢明であろう。

パッティングコンフィデンス

研ぎ澄まされたパットの潜在能力を引き出すためには集中力が必要であるが、その集中力をパッティングコンフィデンスという。コンフィデンスを養うには集中練習が最善の方法であり、効果的に行うには課題を自分に課してプレッシャーをかけ、トレーニング効果をより高める方法がとられるが、それにはある程度ストイックになる必要がある。例えば10球トライをして、一球失敗したらはじめからやり直すとか、人によっては成功するまで寝てはならないというプレッシャーをかけたりする。しかし実際は人によって差があり、プレッシャーがかかりすぎて「イップス」という一種の精神病にかかってしまう人もいるから、必要以上にストイックになるのは考えものである。エクササイズとして次のものがある。

 

(1) パッティングトラックドリル
カップに向かって2本のクラブでレールをつくり、レールの真ん中から真直ぐにボールを打ち出す練習をする。パターヘッドがレールに沿ってまっすぐストロークされているかをチェックしながら同じテンポでパットするトレーニングを行う。

 

(2) フォーティードリル
カップから 2 - 4 - 6 - 8 フィートに4本のティーを立てて2フィートから順番にカップインさせ、途中失敗したらはじめからやり直す。デーブ・ペルツ「Short Game Bible」で紹介されているゴールデン8フィートパットの自信を付けさせるトレーニングドリル。

 

(3) ディスタンスドリル‐A
フラットなグリーンに 2.5、5.0、7.5、10ヤードの基準ラインを作り距離感覚の練習をする。フラットな場所を選ぶのは正確な距離感覚を養うためで、ストローク式パットではストロークの大きさと距離の関係をフラット感覚で養えば複雑なアンジュレーションに対しても、スパット法によって一元的に対応することができる。距離に対する基準感覚トレーニング。

 

(4) ディスタンスドリル‐B
練習グリーンでボールを2球使い、1球目を適当に打って先行ターゲットとし、2球目を慎重に狙って先行ボールに当てる練習をする。ボールに当たったらカップインしたことにし、先行ボールは数に入れないで、18回トライして何回パットしたか記録する。36パットを超えない目標を立てて、ショート、ミドル、ロングパットの距離感を養いスリーパットしないトレーニングをする。スリーパットしたら初めからやり直せば、かなり集中力が養える。異なる距離に対する順応性トレーニング。

 

(5) フォーサイドドリル
一定斜面の途中にあるカップに対して上下左右の四方向からパットする練習。それぞれ異なる仮想カップ=パッティングスパットを狙ってカップを見ないようにパットするトレーニング。ターゲットスパットに対する集中力トレーニング。

グリーンスピード

高速グリーンの時代を迎えてパットは難しくなった。アンジュレーションの強いグリーンを短く刈ってローラーをかければ、難易度はうなぎ上りに上昇する。グリーンコンディションとカップの位置でその日のスコアが決まるといっても過言ではない。コース自体は頻繁にレイアウトやコンディションを変えられないから難易度も変わらないが、グリーンは毎日変えられる。コース側もプレーヤー側もそのことを承知していないと、プレーヤーは納得いかないプレーをし不愉快な一日を過ごすことになる。
通常グリーンの速さは速い、普通、遅いの三段階で表現しているが、一般対象ならスティンプメーターで計って9.0フィート以上を速いといい、7.5フィート以下を遅いといっている。トーナメントならば10フィート以上を速い、8.5フィート以下を遅いといっているが米国PGAツアーでは13フィートの超高速グリーンもみられる。プレー回数の少ない一般アマチュアゴルファーにとっては、8フィートくらいが楽しめるところでコース側もプレーヤー側も、その辺りを承知している必要がある。グリーンの速さを表示してあるコースならよいが、表示していない所も多いから、スタート前に必ず練習グリーンで確認しておく必要がある。それでもコースと微妙な違いがあるから、その辺りも承知しておかなければならない。
グリーンの速さはコースにより、その日により異なるだけでなく午前と午後でも違う。だからグリーンスピードに対して理論的・科学的に対応しようとしても不可能で、人間に備わった潜在能力に頼らざるを得ない部分が多い。ゴルフのおもしろさは人生と同じで、良くも悪くも理屈や科学では説明が付かない点にあり、誰にも予期せぬハプニングが頻繁に起こることだろう。30センチのパットをはずした人が、次のホールで10メートルを沈めてしまうことは良くある。科学はそれをどう説明すればよいのか。