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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第三章 メソッド
Section 2 スイングコントロール

あらゆる運動や活動にとって力一杯や目一杯は最適操業度を意味するわけではない。スイングにとってもフルスイングが常に求められるわけではなく、スイングをコントロールすることが求められる。実際のゴルフゲームの中で、全力でスイングすることが求められる場面は皆無と言って差し支えないであろう。多くのプレーヤーの中には、朝から全力でスイングし一日中ゴルフ場を駆け巡るアスリートタイプを見かけることがあるが、彼らは明らかに勘違いをしているかゴルフの本質を未だ習っていない証拠である。彼らは一様に「私は百獣の王です」と照れながら挨拶するが、確かに間違いなくスコア百十以上をマークしている。ゴルフの場合に全力スイングをして結果が良かったことは、誰の場合をとっても恐らく一生に数回しかないだろう。
それほどにゴルフスイングでは全力スイングを必要とせず、フルスイングといいながら全力スイングを指している訳ではない。このことを強調したコットレル博士はNGF教育プログラムの中から、パワーという言葉や表現を全て削除している。ワイレン博士が原理のひとつに掲げた「パワーフロー」という表現を、コットレル博士は意味が同じでも「スイングモーション」に変えるよう指導したのはそのような理由からである。あらゆる人にとって全力でスイングするより、適切に制御してスイングすることが如何に難しく大切かを力説した。半世紀以上にわたって学生や若者を指導した博士の教訓は、時が経っても変わらぬ普遍理論として定着したと考えられる。
スイングモーションによってボールの飛行に必要なパワーないしエネルギーが生まれることは間違いない事実だが、それは適切にコントロールされた量であり大きさでなければならないとされる。
まずセットアップの段階で全身の緊張度はどの程度が適切か言葉を以って表現することは難しいが、コットレル博士の言葉を借りれば「自然に立って、背骨を真直ぐにした状態で前傾し、膝を少し折曲げた姿勢」ということになるが確かに何処にも力は入っていない。

セットアップの基本姿勢
セットアップの基本姿勢

 

次にどの程度の強さでクラブを握るかについてコットレル博士は「テンション」という言葉で表現するが、震えがきたり血色が変わるほど強く握った状態を「テンション5」とし、クラブが抜け落ちる状態を「テンション0」とするならば、「テンション1」でグリップしなさいと説明する。昔から「小鳥を絞め殺さない程度に柔らかくグリップせよ」という教訓はあったが、実際に絞め殺した経験のある人は少ないから実質的に意味不明である。コットレル博士は自分の腕をグリップさせて感触を理解させるが、このように体感を伴う方法によれば生涯忘れることはない。それは人間の本質を表しており、観念やバーチャルの理解ではどうしても現実やリアルの世界が理解できないのと同じ理由によるものではないか。「平常心を以って自然体に構えよ」と百の説教を聴いていても、トッププレーヤーが不治のイップス病にかかるし、どんなベテランプレーヤーでも決勝ラウンド16番ホールに来れば心身ともにコントロールが効かなくなる。だからコントロールの重要性を百回語る前に、どうすればコントロールできるかについて学ばなければならない。

腕を握ってグリップの強弱を確かめる
グリップの感触

 

イメージクロック5段階法

イメージクロック ‐Imaginary Clock‐ とは時計の文字盤をイメージしてストローク(腕の振り)の大きさを時間で理解する方法である。

第1段階    7時-5時 リストコックを使わないショートチップ
第2段階    8時-4時 リストコックをほとんど使わないロングチップ
第3段階    9時-3時 リストコックを少し使ったショートピッチ
第4段階    10時-2時 リストコックを使ったロングピッチ
第5段階    フルスイング  プレーヤー自身の自然なスイング

 

イメージクロック

第4段階まで時間で表現したものが、第5段階になって言葉の表現になった理由はフルスイングを時間で表現することが難しいからである。歴史に残るプレーヤーたちのトップスイングとフィニッシュを、共通認識できる方法によって表現することは不可能ばかりか、誰をモデルにしたところで万人普遍の形として表現することは無意味だからである。例えば多くのトッププレーヤーが11時辺りにトップの位置を決めているのに、ジョンデーリーや横峰さくらのトップの位置が12時近くだから間違っているとは誰もいえない。また最近の若手プレーヤーが10時くらいの小さなトップスイングをするといって批判するのは的外れである。フルスイングの大きさはプレーヤー自身にとって最も安定した自然な大きさでなければならず、ワイレン理論の選択の原理に委ねられる問題だからである。
かつてダグサンダースが電話ボックススイングといわれるほど小さな9時-3時のスイングで活躍していた時代があったが、その後クラブやシャフトは当時より一段と進化しているので、再び9時-3時のスイングが一世を風靡しないとは限らない。カナダが生んだ幻のチャンピオン・モウノーマンも実に小さなスイングからビッグショットを放っていた実績がある。こうしたことからスイングの大きさをアナログ時計で表示し、評価を加えることなく単純に5段階表現したのには理由があり、それは万人が誤解することなくスイングの大きさを共通理解するために他ならない。教育現場にとってもプレーヤー自身にとっても、このようなアナログ表現は理解が容易なうえ、誤解が少ないのでコントロールという感覚の領域で有効なメソッドとして定着してきた。時計の文字盤は地域や時代を超越した共通概念であるから、グローバル時代にうってつけと評価して差し支えないだろう。

時計の針

基準や定義を定めるとき普遍性や共通性を見出すのに苦心する。時計の針にあたる部分はクラブシャフトか腕かで議論されたが、結論として腕で統一された。スイングは8時-4時より大きくなると、徐々にリストコックが入りクラブシャフトと腕に角度が付いて、シャフトは時計の針を意味しなくなる。そこで腕を時計の針と見なし、グリップの位置を時刻と見なした。この定義によってプレーヤー自身も確認しやすくなり、指導者との間に誤解や混乱もなくなったがプレーヤー自身のイメージと実体の間には大分誤差があることは否めない。例えば9時―3時のスイングといっても実体は人によりかなり差があるが、これはイメージの問題なので個人の判断に委ねるべきだろう。ただし指導に当る者は誰が見ても9時-3時に見えるスイングをしなければ学習者が混乱する。
1976年に発行されたNGF「Golf Lessons」に初めて登場したイメージクロックの概念は教育界に定着し、デーブ・ペルツ「Short Game Bible」でも利用されている。デーブ・ペルツは7時半や10時半の中間時刻を使っているが、それは全く選択の自由で、何処の国に行っても年齢、性別、技量に関係なく誤解の少ないグローバル基準として通用する。時計の文字盤を使った時間表現は子供のときに習っても生涯使えるメソッドになるし、一定期間のブランクをおいても再現可能なメソッドになる。このような考えに従って基本メソッドはひとつひとつ確立してきたが、イノベーションが起きて新たな画期的概念が確立するには、相当の時間と労力を要することは間違いない。スイングコントロールの領域でイメージクロックの概念を覆すものは暫らく現れないかもしれない。

ストロークと距離弾道

飛距離に対して常に強い願望や劣等感を持っているゴルファーがいる。「ピッチングウェッジで最低100ヤードは飛ばしたい。みんなはPWで打つ距離を私は9番を使うから恥ずかしい。」という類から「PWの9時―3時なら何ヤード飛ばなければいけないか」という類まで様々だが、常に他人との比較が優先して自分自身のパフォーマンスを把握できないタイプである。これは全くナンセンスで、ストロークの大きさと距離の関係は、自分自身のパフォーマンスで他人と比較する必要は全くない。比較するのは同じストロークをした時5番なら7番なら9番なら、PWならAWならSWならという具合に他のクラブとの関係である。この関係を正確に把握しているプレーヤーは強い。それだけ多くのバリエーションと揺るぎないパフォーマンスを有しているからで、同じ大きさのストロークから実に多彩なショットを自信持って放つことができる。
ワンスイング=マイスイングが確立した今日、自分自身のスイングにクラブパフォーマンスをアジャストしてシステム化した者は、自分自身をマネジメントして多彩なパフォーマンスを発揮することができる。5段階ストローク×9種弾道×使用クラブ数=多彩なパフォーマンスということだ。完成されたワンスイング=自分だけのマイスイングこそ主力エンジンである。