- ゴルフ基礎原論
- 目 次
- 第一部 ゴルフゲーム
- 要 綱
- INTRODUCTION
- 第一章
フィロソフィー - 第二章
セオリー - 第三章
メソッド - INTRODUCTION
- -1 スイング形成と矯正
- -2 スイングコントロール
- -3 ピッチ&チップ
- -4 スクウェアシステムと
ボールコントロール - -5 バンカーメソッド
- -6 パッティングメソッド
- 第四章
ゲーム - 第五章
サイエンス - 第二部 ゴルフマネジメント科学
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ基礎原論 第一部 ゴルフゲーム -
Section 4 スクウェアシステムとボールコントロール
スクウェアシステム
スイング前の原理としてグリップ、エイミング、セットアップを三原則とした。このセオリーに基づいて、ショットする前に目標ターゲットラインに対してグリップ、狙い、構えを直角平行にセットする方法としてスクウェアシステムを基本メソッドに定めた。1970年代にスクウェアシステムが提唱されるまでは、スタンスとかアドレスという言い方をして、人によりクラブにより異なるものとされていた。ボールフライトロウが発表された1976年の段階でも、スタンスやアドレスは選択の原理に委ねられていた。70年代に入っても1957年に発行された「Ben Hogan`s Five Lessons」が基本バイブルとされており「ボールは左かかと線上に置き、クラブが短くなるにつれてアドレスを狭くし、よりオープンスタンスに構えなさい。」と指導しておりスクウェアという概念は何処にも出てこない。さらに「クラブが短くなれば自然にプレーンはアップライトになりアークは小さくなる」といってクラブが短くなるにつれ、ボールが体に近くなることを説明している。ベン・ホーガンがフェードの名手であったのに対し、同じ1912年生まれのバイロン・ネルソンはストレートの名手、サム・スニードはドローの名手だったことからも、スクウェアシステムを基本とするワンスイングで9種弾道を自在に打ち分けることなど、常識で考えられなかったのである。この点からもボールフライトロウが如何に革新的な理論だったか想像できよう。
このように70年代に入って、スクウェアシステムはセットアップの基本メソッドとして、誰もが採用するようになったのである。
弾道コントロール
先にも触れたように、スクウェアシステムからワンスイングによってあらゆる弾道のボールを打ち分ける技術は70年代以降に普及した。それ以前はトッププレーヤーといえどもそこまで多彩なワザは持ち合わせず、フェードボールのホーガン、ストレートボールのネルソン、ドローボールのスニードといわれたように個性を以って名人とされた。現代はクラブ製造技術の進歩と基本メソッドの確立によって、誰もが多彩なワザを簡単に使える時代となり、むしろコースの距離を伸ばしたり、グリーンやグリーン周りを難しくしなければならなくなった。
基本メソッドの確立はイノベーションの原点である。イノベーションはゴルフゲームを多彩なものにし、興味尽きぬものに変えていったが、それは基本メソッドが確立しシンプルイージーになったことにより、幅広いレベルで高度なゴルフが楽しめるようになったことを意味する。70年代には未だミラクルショットと言われたものが、ジュニアゴルファーや一般アマチュアゴルファーが打ち分け、戦略に取り入れているとは夢のような話である。70年代までは弾道をコントロールできるのは名人や達人の技で、血の出るような修行を積んだものだけが到達できる領域だったのである。
ボールフライトロウからスクウェアシステムが確立しワンスイング時代を迎えて、次々に開発される多機能クラブを便利な道具=オプションギアとして使いこなす楽しみは、ゴルフの楽しみを幅広くしたと解釈すべきだろう。1980年NGFセミナーで、マニエル・デラトーレが9種弾道を自在に打ち分けて披露したとき、日本人はみな腰を抜かすほど驚いたが、ホーガン、ネルソン、スニードの得意弾道をひとりのプレーヤーが打ち分けて見せたのだから当然である。イノベーションとはこういうもので、昨日まで不可能だったことが、今日は誰にとっても可能になることをいう。
このようにイノベーションが進むときは一層のこと、基礎概念や基本セオリーを明確にし、基本メソッドを確立しておかなければ、技術革新や時代変化に振り回され自分自身を見失う恐れがある。基盤が盤石であればどのような新理論や新技術が現れても、本質を見失うことなく新しい技術や時代に積極的に対応し自らのものにすることができる。ボールを自在にコントロールするという達人技が、スクウェアシステムによるワンスイングからクラブを変えることによって誰にもできる技術になったことにイノベーションがある。しかしその基盤となるマイスイングが不完全だったり不安定であれば、全てのショットに影響してゴルフゲームは台無しとなる。原理原則に叶った基本メソッドがあってはじめてイノベーションは開花し、技術革新によって生まれた道具の機能が生かされることを銘記すべきである。基本メソッドが確立していなければ、イノベーションの意味が分らず、常に技術革新に振り回されるだろう。
インテンショナルドロー&フェード
インテンショナルとは意図的という意味で、この言葉が使われ始めたのも1970年代からである。先にも述べたようにドローボールやフェードボールを意図的に打ち分けることは、一般的に考えて不可能なことであったが、ボールフライトロウが発表されてそれが可能であることが分って、インテンショナルと言われるようになった。ボールフライトロウから演繹的に導き出されたメソッドといえるかもしれないが、誰でもセオリー通りに再現できる点において基本メソッドのひとつになったのである。
基本メソッドとは条件が整えば誰が行っても同じ結果が出る方法をいう。ドローもフェードも方法を学んで練習すれば誰でもできる技術として一般化した。仮想ターゲットラインに対してクラブフェースをクローズにしたりオープンにするだけの簡単な方法で、ドローボールもフェードボールも打ち分けられるシンプルメソッドであるが、ボールフライトロウを知らなければ簡単な原理が納得できないかもしれない。再三述べるように、基本メソッドの定義はSimple & Easyつまり誰にとっても簡単に真似のできる方法でなければならない。更に付け加えるならば、簡単な方法を反復練習すればハイテクニックとなり、実戦演習を繰り返して確率を高めれば達人技とか職人芸といわれる域に達する方法でなければならない。ドローやフェードが打ち分けられないとすれば、その人は基本原理が理解できていないか反復練習が足りないことを意味し、そういう人は恐らくストレートボールも自在に打てないはずである。
インテンショナルハイ&ロー
高い弾道や低い弾道のボ-ルも特殊な弾道と考えられていた。日本では台湾プロ、特に淡水出身の人たちが低い弾道のボールを打つのを見て驚いたが、淡水が風の強い地方であることがその理由とされていた。陳清波プロがダウンブローという表現で紹介し、レッスン書も出版している。やがて米国でボールフライトロウが発表され、ディセンディングブローに打てば誰が打っても低く打ち出されるし、アセンディングブローに打てば誰が打っても高く打ち出されることが明らかにされた。英国スコットランド地方は淡水地方よりもっと風が強いから、全てのプレーヤーが低い弾道のボールを打っており、これらの地方ではミラクルショットでも何でもなかったのである。
ボールフライトロウによれば、クラブヘッド軌道が下降過程でボールをヒットすればロフト角度より低くボールは打ち出され、上昇過程でヒットすればロフト角度より高く打ち出される。前者をディセンディングブロー、後者をアセンディングブローといい、フラットに打ち出されるのをレベルブローといっている。換言すれば、一定のスイングに対してボールが右寄りにセットされた場合は、クラブヘッドの下降過程でインパクトを迎え、ボールは低い弾道で打ち出される。左寄りにセットされた場合は上昇過程でインパクトを迎え、ボールは高い弾道で打ち出される。最下点でインパクトを迎えた場合はレベルブローとなって、ロフトの角度通りの高さにボールが打ち出される。ワンスイングを基本とする現代ゴルフは、状況に応じた高さにボールを打ち出すのに、その都度スイングを変えないでボールの位置を変えて対応している。これも状況を一定にすれば、誰がやっても同じ結果が出るので基本メソッドとされた。
ここで注意を要するのは、上記いずれの場合もスクウェアスタンスを前提にしているが、更にオープンスタンスに構えクラブフェ-スを開けばより高い弾道に打ち出されることは言うまでもない。これもボールフライトロウの原理を応用したひとつの方法で、人為的にロフト角度を調整した結果で基本メソッドの応用と考えてよい。このように現代ゴルフはスクウェアシステムを基本にしたワンスイングから、ボールの弾道を上下左右自在にコントロールするが、これもゴルフイノベーションの成果と考えてよいだろう。
アドレスルーティーン (プリショットルーティーン)
一連のメソッドはスクウェアシステムを基本とするが、毎回スクウェアにセットするのは口で言うほど簡単ではない。そこでアドレスする手順をアドレスルーティーンといい、一定の方法が基本メソッドとして定められている。手順はGrip(グリップ)、Aiming(エイミング)、Set-up(セットアップ)の三つの要因からなりスイング前の準備としてプリショットルーティーンともいわれる。
(1) グリップはツーナックル乃至ツーハーフナックルを基準とし、自分にとってストレートボールが打てる位置をスクウェアとすればよい。右手グリップはオーバーラッピング、インターロッキング、ナチュラルいずれでも差し支えないが、両手を歪みなく合わせて右手親指と人差指のV型が右肩を差す状態をスクウェアグリップという。
(2) エイミングはボールを打ち出す方向とボールを結んだ仮想ターゲットラインを想定することをいうが、仮想ターゲットと実際ターゲットが異なることを正確に理解しておかなければならない。自然障害や地形障害を考慮して、実際ターゲットをストレートに狙えるとは限らない。多くの場合、実際ターゲットとは異なる地点に仮想ターゲットを想定し、その仮想ターゲットとボールを結ぶ後方線上にイメージラインを想定し、そのラインに対してスクウェアにセットアップしなければならない。
(3) セットアップするには、想定した仮想ターゲットラインに対してスクウェアになるようアドレスするが、スクウェアなセットアップとはターゲットライン、フットライン、ボールラインのセットアップ三要素が直角平行の関係になることをいう。実際はトッププレーヤーといえどもミスを犯すことが多く、ミスとしてエイミングミスとセットアップミスがある。仮想ターゲットは弾道の選択、風向、風速によって異なるから状況判断を誤るとエイミングミスを誘発する。次に仮想ターゲットラインと実際ターゲットラインが異なるから、自信を持って仮想ターゲットラインを想定しないと、正確にスクウェアなセットアップができない。迷いがあれば必ずセットアップに狂いが生じ、ミスの原因を生むことになる。米国のコーチは口を揃えて、ミスショットの原因の80%以上はプリショットつまりスイング前に発生する点を強調する。
コース設計が戦略的になったこととゴルフがターゲットゲーム化したことによって、マネジメントの重要性が高まると同時にセットアップの正確性が問われ、高い反復再現性をもったアドレスルーティーンが必要になってきた。アドレスルーティーンは自分自身の手順であり、どのような緊張場面にあっても正確に反復再現されなくてはならないから、絶えず実戦的にトレーニングされ習慣化されていなくては意味がない。プリショットルーティーンの練習はいつでもどこでもできるから、散歩の途中や仕事の合間にオンデマンドにトレーニングしたらよい。
アドレスルーティーンの方法に定型フォームがあるわけではないが、欧米と日本のプロに一点大きな違いがある。コットレル博士がプリショットルーティーンをGAS Checkと定義したように、欧米のプロは最初にグリップを形作ってからエイミングに入るのに対して、日本の多くのプロは右手でクラブをボールの後ろに構えてエイミングし、次に左手に持ち替えてスタンスを定めたのち最後に両手でグリップを形作る。つまり欧米のプロがGASの手順であるのに対し、日本のプロはASGの手順に従っているものが多い。各自自分のルーティーンだからマスターしてしまえばどちらでも良いが、これから始める場合はGASの手順に限るとワイレン博士もコットレル博士も口を揃えていう。理由は最も大切なグリップを最初に注意深く形作っておかないと、後にした場合は他の要因に惑わされて変形することが多いからという。そこでビギナーからトッププレーヤーまで通用する方法としてGASの手順を基本メソッドに定めた。