- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - INTRODUCTION
- -1 マーケット縮小&顧客
減少時代の対応研究 - -2 人口動態・潜在需要と
ニューカスタマー研究 - -3 ニューカスタマー開拓と
育成プログラム研究 - -4 団塊世代復活とジュニア
ゴルファー育成研究 - -5 地域ゴルフ活性化と
クラブサークル研究 - -6 次世代ベストカスタマー
の研究 - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 1 マーケット縮小&顧客減少時代の対応研究
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未来予測
日本のゴルフマーケットは1992年をピークに縮小し始め、2010年の段階でも依然として縮小し続けている。顧客の減少以上にマーケットが縮小する最大の理由は、景気低迷期にあっても依然として供給側が規制する高額料金体制を取り続ける経営体質にあるが、日本のゴルフは典型的な贅沢娯楽なので、家計にとっては遊興費となって極めて高い価格弾力性を示す傾向が強い。家計だけでなく企業にとっても交際費や営業費として処理されていたゴルフ代は、典型的な無駄な経費として真っ先に削減される運命にあった。経済環境の悪化は恒常的な来場者減少となり、料金割引対策を以って対応するために更なる恒常的な売上減少を誘発することになって、いわゆるデフレスパイラルと同じ現象に陥ってしまった。このような状況にあるマーケットを観察するに当たって過去・現在という二次元分析に留まらず、未来を加えた三次元分析をする必要がある。
古いマーケットが縮小して消滅しようとしているとき、必ず新しいマーケットが生まれ育ってきているはずだし、これからも次々と新しいマーケットが誕生しようとしているはずである。誰にとっても未来を予測することは難しく、未来マーケットや未来顧客をつかめたらこんな楽なことはないが、マーケット縮小時や顧客減少時にあっては、どうしても悲観的な予測や消極的な観察によるマーケティングしかできないのが常である。その理由は過去分析にしろ現状分析にしろ、実際データに基づいて分析すれば必ず悲観的な現実が浮き彫りになり、減少傾向にあるデータをもとに未来予測すれば誰でも右下りを想定するに決まっているからである。例えば古いマーケットや常連客を対象に未来を予想することは、秋に冬を予想することと同じで、発展性や将来の希望を見出すのが難しい。時の経過と共に古いものが去り新しいものが生まれてくるのは自然の摂理であって、冬の先に必ず春が来ることを確信しなければならない。
マーケットやカスタマーを観察するとき、未だ目に見えないものを見出そうとすることがマーケティングの本質と考えられるが、1991年不動産バブルが崩壊したときケータイを持っている人はいないし、インターネットを知っている人もいなかった。今日のようなIT産業の発展や、ITを使った巨大マーケットの出現を誰も予想しなかったし、生活様式やビジネスのやり方がこれほど一変するとは夢にも思わなかった。未来市場や潜在需要は私たちの目に見えないけれど、確実に存在することだけは疑う余地もない。この目に見えない未来市場や潜在需要をターゲットに戦略や作戦を立てるところにマーケティングの面白さがある。
市場原理
このようにマーケティングは過去や現在のように、いま目に見えるものに囚われることなく、まだ見えない未来市場や将来顧客を想像して市場創造することである。だから過去や現在を捉えて観察する市場調査や市場分析とは根本的に性格が異なり、マーケティング概念を正しく理解していなければ、マーケット縮小時や顧客減少時には縮小撤退の姿しか見出すことができない。
例えば2003年経済産業省『ゴルフ市場活性化行動計画検討会』がゴルフマーケットの未来予測を立てて報告書を発表したが、計画的に対策を講じた場合と未対策だった場合の差異を分析している。報告書によれば「2001年に9000万人だったゴルフ場年間入場者数が、対策を講じれば2030年には1億2400万人に増加するだろうが、もし対策を講じなければ6550万人に減少するだろう」とあり、対策効果は30年間で二倍見込めるとしている。実際には成長過程にあるマーケットの勢いは恐ろしいもので、1970年に2000万人だったゴルフ場入場者数は20年後の1990年には六倍の1億2000万人に近い数に達している。成長過程にあるときは何の対策も講じなくとも恐ろしい勢いで発展するものが、ひとたびマーケットが縮小期に入ると、いくら対策を講じても容易なことでは成長に転ずることはない。それが証拠に『検討会』は色々な計画を発表したにも拘らず具体策がなかったため、現実には2001年に9000万人だった入場者数が2010年には8000万人に減少している。
もうひとつ見逃してはならない点は、この計画を推進する16団体は経済産業省および文部科学省の管轄下にある業界団体で、基本的に利害が対立するもの同士で組織される『呉越同舟団体』の性格を帯びていることだ。成長過程にあるときは結束して利権を守る関係が、ひとたび衰退期に入ると醜い利権争いや仁義なき闘いに発展する。激しい価格競争や顧客の奪い合いによって売上・利益共に減少し、いわゆる首の絞め合いになってしまう。同業者が結束して価格維持に努めれば、独禁法を巧くかわしたとしてもアウトサイダーの思う壺にはまって顧客も利益も彼らに独占されることになる。衰退期にあっては『呉越同舟団体』が如何に結束しても何事も巧く行かない理由は『業界団体』そのものが根本的に市場原理に反するため、個々の事業者は経営戦略にマーケティングを導入することができないからである。
市場原理の下では個々の事業者同士が (1) 独立している、 (2) 競争関係にある、(3) 自然淘汰される状態にある、ことを前提に存在する。だから同業者がお互いに協力して競争回避ばかりしていれば、消費者があきれて他の業者の元へ去ってしまうのは避けられない。スポーツの世界でこのようなことをすれば、観客に「八百長試合」と罵られて興行はやがて成り立たなくなるだろう。資本主義社会は常に新しい需要、新しい市場が創造されることを原理として成り立っている。
市場創造
マーケティングの真髄は市場創造にある。新しいカスタマー(顧客消費者)の誕生なくしてマーケットの存続はありえない。生涯スポーツといわれるゴルフでさえニューゴルファーは20~30年先にはもうマーケットに残っていない。『検討会』が報告するゴルフ人口の中には、既にマーケットから姿を消したゴルファーや、まだ姿を見せない潜在ゴルファーがどれくらい存在するか、全く予想がつかないところにマーケティングの意義がある。
日本のゴルフ産業が崩壊し始めた1992年に宮里藍も石川遼もマーケットにいなかったし、当時ベストカスタマーだった熱心なゴルファーたちの大部分も、既にマーケットに存在しない。このようにマーケットは川の流れのように常に流転しているから、古い水を浄化して還流する努力より、新しい水を流入させる努力の方が遥かに効率的だと考える。
NGFの打席調査資料に『当該練習場利用年数』という聞き取り調査結果があるが、「3年以上当施設を利用している」と答えた人は全体の8%に過ぎなかった。反対に『ゴルフスクール実態調査』によると、スクール生の65%はゴルフ未経験者であり、20%はゴルフ経験1~2年と回答しているから、実に85%はニューカスタマーであることが解る。調査結果からもマーケットは流動的で新しい市場創造がなければ、やがては衰退していく運命にあることが理解できるであろう。
特に衰退期に入ったマーケットでは市場創造努力が欠かせないが、この市場創造する努力をマーケティングといい、市場調査することや需要喚起することとは明らかに区別して考えられている。特にゴルフは典型的な趣味娯楽であって必需性も必然性もないから、よほど強いきっかけや動機付けがなければ、ゴルフを始めるチャンスがない。NGFの調査に対しても主体的・能動的回答を示した人は少なく「興味があった5%」と「面白そう8%」と低い数値を示している。ところが対応的・受動的回答を示した人は多く「人に勧められて25%」、「付き合いから12%」、「仕事柄9%」と半数近くの人に主体性が見られないにも拘らず「年をとってからも楽しめそう24%」や「生活を豊かに9%」と答えた人は全体の三分の一を占め、自分の生活や人生を考えているところに動機が与えられてスクールに入ったことを示している。
このように衰退期に入ったマーケットは自然成長力が乏しいから、現状維持するにもマーケティングつまりは積極的な市場創造が必要とされる。新規参入者を募って新たなマーケットを創ろうとする『スクール事業』は、マーケティングの一環と考えてよいだろう。米国のワールド・ゴルフ・ファンデーションの提案ではじまった『ゴルフ2020プラン』では、全米数十箇所のゴルフコースで運営されるゴルフラーニングセンターに、インターネットで応募するゴルフ未経験者が何処もキャンセル待ちをするほど集まった。ゴルフ未経験者というノンカスタマー市場が創造されたひとつの例であるが、マーケティングでは潜在需要を顕在化するディフィージョン(普及)という地道な作業が必要である。まずノンゴルファーをゴルファーにリクルートし、やがてカスタマーとなりリピーターに育ててこそマーケティング戦略といえるだろう。
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