- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - INTRODUCTION
- -1 マーケット縮小&顧客
減少時代の対応研究 - -2 人口動態・潜在需要と
ニューカスタマー研究 - -3 ニューカスタマー開拓と
育成プログラム研究 - -4 団塊世代復活とジュニア
ゴルファー育成研究 - -5 地域ゴルフ活性化と
クラブサークル研究 - -6 次世代ベストカスタマー
の研究 - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 6 次世代ベストカスタマーの研究
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マーケティングの世界は長期戦略に基づいて短期戦術を立てることを常套手段とする。戦略は長期方針に基づく全体構想であり目標とするゴールでもある。
それに対して戦術は戦略のプロセスであり短期方針に基づく当座対応である。だから戦略なき戦術とは「場当り的対応」を意味し、将来の存続が危ぶまれる。
時系列的にマーケットを観察するとき<トレンド>という言葉を良く聞くが、<ファッド:2~3年の流行><トレンド:20~30年の傾向><トラッド:100年の時代>として使われているようだ。
日本ゴルフ史100年のトラッドを通覧すると戦前・戦後~1970年代は上流階級のステイタスシンボル、70~90年代は高額会員権ブーム、90~2010年はバブル崩壊再編成がトレンドで、その間に大衆ゴルファーはパンチ打法・ダウンブロー・逆ハチスイング・ニーアクション・アップライトスイング・回転打法・ハンマー打法・二軸スイング・コンパクトスイングなどさまざまなスイングファッド=流行を追って今日に至っている。
用品に関してはパーシモンからメタルウッド、ステールシャフトからカーボングラファイト、長尺シャフトやオーバーサイズヘッドなどの時代変遷があった。100年経ってもゴルフそのものは変わらないが、その時々にファッドやトレンドが変わりマーケットも変化してきたことがわかる。そしてそれぞれのファッドやトレンドの中にマーケットの中心となるベストカスタマーが存在したことも実に良く分かるが、次のファッドやトレンドそして中心となるベストカスタマーはどう変化するのか、となると急に分からなくなる。マーケティングの重要性は理解できても実践の難しさを痛感するゆえんである。
トレンドを過去・現代・未来で時系列観察し、現在を定点観察すると
*現代社会は常に過去社会と未来社会が共存している。
*現代社会には過去社会と未来社会に共通する点が存在する。
*過去社会を好むか未来社会を好むかは概ね世代の違いによる。
*伝統を守ろうとする人と未来を開こうとする人の対立は利害である。
*時系列で変化するのは経済よりも社会でありマーケットである。
といえるが、過去社会と現代社会は分かり易いが、未来社会は見えにくいので米国ゴルフ界の現状を見ることによって、かなり的確には日本の未来社会を見ることができるのではないか。日本のゴルフ界は確実に米国の30年後を歩いていることは確かだからである。
次世代ベストカスタマー研究
米国ゴルフ界のマーケティング展望20/20プラン(2020年の展望)を見ると現状を次のように分析している。
*年間25R以上プレーする全ゴルファーの26%の人が総ラウンド数の78%をラウンドする。
*年間1000$以上使う30%のゴルファーが全体の75%を消費する。
*全ゴルファーの40%を占めるベストカスタマーが、ゴルフ事業総売上の81%を消費し
全米総ラウンド数の85%をラウンドする。
つまりゴルファー全体の1/3程度の熱心なベストカスタマーによって業界は支えられている(40/80の法則ともいい、40%の人が80%を消費する)ことが分かるが、業界を支えるベストカスタマーのプロフィールは、
年 齢 | 40-60歳 | 51% | ||
家計所得 | 年間750万円以上 | 55% | ||
家 族 | 子供なし | 60% | ||
会 員 | ノンメンバー | 73% | ||
ゴルフ歴 | 10年以上 | 66% |
となっていおり、このデータからベストカスタマーの全体像を画くと「共稼ぎを含めて家計所得が年間750万円以上ある40歳から60歳以下の子供のいないゴルフ経験者」ということになる。
具体的には子供のいない大手企業幹部及び公務員幹部、医師弁護士などの有資格自由業、先端技術者、スポーツ技芸などの特殊技能者などが考えられるが、共通する点として経済的余裕があるほど時間的余裕がないことが窺える。どうやら経済性と時間性が二律背反の関係にあって両者の妥協点は時間が許す限りということらしい。
ベストカスタマー候補に対するマーケティングで問題になるのが、この人達に対する情報伝達手段がないことで、個人情報法によって守られる人たちは意外に情報疎外されていて簡単にアプローチする手段がない。この人達の情報源は極めて特殊な専門領域であり同業者情報である場合が多く、一般的なマスコミや人の噂など大衆情報に依存していない場合が多い。つまり常に時間に追われている階層であり、ゆっくりとインターネットを検索し新聞雑誌に目を通す時間がない人たちのようである。この人たちを組織的に取り込みカスタマーにするのは難しいが、従来クレジット会社がゴールドカード会員などによって取り込んでおり、今後どのようなマーケティング手法があるか大いに研究の余地が残されている。
ベストカスタマーの余暇時間が極めて非日常的であることを考えると、この人達を常連客として取り込むことは一般的には難しい。ベストカスタマーは有名リゾートコースや名門会員制クラブなど、オンリーワンやナンバーワンの競争優位を既に獲得している所の常連客になっている場合が多い。
ゴルフスクール生
全国ゴルフスクールの実態調査によると、ゴルフスクールに通う生徒の年間施設利用回数は平均70回、一回当たりの消費金額は約2000円で年間14万円を使っている。このデータからゴルフスクール生は業界にとっても当該施設にとってもベストカスタマーといえる存在で、スクールが充実した練習場の経営を支えている。
例えば東京都内の某中堅練習場は常時400名のスクール生を有しているが、スクール生に対する売上は400名×14万円=5,600万円で入場回数は28,000人を記録する。施設規模からすれば全体の70%近い割合を占めると思われるが、ベストカスタマーによって支えられる一例と考えてよいだろう。
スクール生がベストカスタマーとして定着しリピーターになるのは「ふるさと回帰性」ともいうべき本能的な習性によるものと思われるくらい確率が高い。
つまりゴルフスクールに入門してゴルフをはじめた人は、なかなか他の施設に移動しない習性があり、いつまでも当該施設で練習し続ける。更に家族友人を誘って来場することが多く、相乗効果は計り知れない。一般に上級者を歓迎し初心者を敬遠する施設が多いことを考えると、マーケティング戦術を誤って捉えている経営者は多いのかもしれない。前述したNGFの打席聞取調査によれば「3年以上の当該施設利用者8%」であったことと比較して余りの格差に驚く。
マーケティングの立場から考えてもスクール生は地域ベストカスタマーであることは間違いなく、NGFスクール調査結果によればスクール生は目的を持って始めるために、常に時間的・経済的にある程度余裕のある人達によって構成されているようである。ちなみにスクール生がゴルフのために用意している年間予算は用品コース代を含めて平均約30万円である。
次世代の捉え方
ITグローバル世界として幕開けした21世紀は、まさに100年に一度の大転換期を迎え、トラッド変化としてデジタルサイバーワールドが始まる時代と考えなければならない。つまり情報通信手段がインターネットに変化するだけでなく商業活動から教育サービス事業に至るまで、あらゆるものが地球規模に拡大していく時代と考えられている。
時代が変わり社会も変わることは、人々の考えや生活様式も変わることを意味するから、当然マーケティングの世界にも変化が見られるだろう。大きな変化のひとつは、あらゆるマーケットに於いて需要側が供給側を圧倒するほど豊富な情報を持つようになることだ。しかも供給過剰マーケットで需要側が豊富な情報を持つことは、完全な買手市場が成立することを意味するから、供給者は常に需要者から選択される立場に立たされることになる。これは失業率の高い労働市場にも似た、需要独占市場が出現することで、供給者が競争優位の地位を得るには、よほど確かなナンバーワンやオンリーワンの立場を保たなければならないことを意味し、情報社会の中ではその地位や立場も簡単に逆転する。このような社会でも伝統や権威は競争優位を維持する上で大きな力となるが、油断すれば一晩で崩壊する恐ろしい世界でもある。既に老舗フォードや王者タイガー・ウッズがその事実を証明して見せたが、次世代カスタマーはこのような条件下で誕生することを忘れてはならない。
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