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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第一章 マーケティング
Section 4 団塊世代復活とジュニアゴルファー育成研究

米国のベビーブーマー世代と日本の団塊世代は同じである。第二次世界大戦が終わり、帰還兵たちによって誕生した1946年から1948、9年生まれの3、4年間に集中する世代で、人口構成図の上でも突出した一群の塊となっている。この一群の世代はシェアの大きさからマーケティングにも大きな影響を及ぼすとされ、2000年ごろから順次定年退職してシニアゴルフの復活に繋がるだろうと予想されていた。
米国は予想通り着実なゴルフ人口の増加を見たが、日本は必ずしもそうならなかった。米国の公営ゴルフ場ではシニアやジュニア料金が5~6ドル程度だから、リタイアしたあと年金暮らしになっても毎日孫や奥さんを連れてゴルフができるから、ベビーブーマー世代のリタイアはマーケット拡大に繋がったが、日本ではそうならなかった。米国と日本には料金体系に於いて決定的な差異がある。日本では公営ゴルフ場でも平日8000円前後、休日で12000円ほどするし、シニア・ジュニアの割引制度もほとんど無いから、リタイアしたあと孫とゴルフ三昧に耽る楽しみは夢に終わり、マーケット拡大には繋がらなかった。結局は社会からもゴルフからもリタイアする結果となった。
団塊世代が復活するにはいくつかの条件が必要であるが、大きく分けて経済条件、健康条件、生活条件の三つが整わなければならない。年金受給額に対してゴルフ料金が高すぎるのが経済条件の齟齬。リタイア後に健康を害してゴルフができなくなったのが健康条件の齟齬。親や配偶者の介護、子や孫の生活支援、自分自身の生活不安などが生活条件の齟齬である。この世代に於いても全体の90%はゴルフ未経験者だから、この世代のノンカスタマーに働きかけてゴルフを始める機会を提供することはマーケティング戦略として妥当と考えられた。しかしゴルフ経験の有無にかかわらず、三つの条件は同じように整わなければならないから、この条件をクリアするようなマーケティング及びプロモーション活動を進める必要がある。
団塊世代にとって最大の障害は経済条件の齟齬ではないだろうか。健康条件、生活条件は簡単に解決の道を見つけ出すことはできないが、経済条件は料金が安くなるだけですぐ解決する。ゴルフマーケットにとっても高額料金体質は最大の未解決課題である。早い話が欧米豪州並みの料金体系が確立すれば、今日からでも団塊世代もジュニア世代も爆発的に拡大することは目に見えている。

団塊世代復活

団塊世代が続々と年金生活に入り豊かな老後を送ろうとしている。高齢社会の問題点を介護医療の面でしか捉えないのは発想が貧困で、高齢者の60%以上、全国民の20%以上が旅行やゴルフによって人生を楽しもうとしている現代社会で、ゴルフライフの在り方を大転換できるとすれば団塊世代ではないか。
団塊世代は家庭や企業を支えるために、自己を犠牲にして戦後の厳しい生存競争を生き抜いてきた企業戦士の退役軍人だから、自由を得て自己を回復し家族の絆を回復するためにも貪欲な世代である。進学競争、就職競争、市場競争を勝ち抜くために勉強し努力してきた世代は休むことを知らない。戦争世代が休むことに罪悪感を覚えたのに対し、団塊世代は休むことに敗北感を覚える。それゆえ常に何か行動しようとする。この団塊世代の行動原理に明確な目的や動機が与えられれば、再び強力な推進パワーになるに違いない。
団塊世代がゴルフマーケットに参入する条件としては、交際接待を目的としたビジネスゴルフから解放された、家族や仲間と楽しむファミリーゴルフの環境が整わなければならないだろう。団塊世代はリタイアした後も自分一人で遊んだり楽しむことができないから、今度こそ家族や友人と遊んだり楽しんだりしたいと考えている。
そんな彼らの願望や期待をゴルフマーケットは何も理解していない。ホテルのレストランや高級レストランに飽き飽きした団塊世代は、家族と一緒に普段着姿でハンバーガーショップやファミリーレストランに入り浸っている。メニューの料金表を見ても、孫に何を注文されても財布の心配はない。この安心感は家族と共に過ごす至福のときの重要な要因となっている。日本のゴルフ環境が依然として供給側の条件に規制されていることが、団塊世代をゴルフマーケットから離反させることになった。米国カナダ豪州のゴルフ場のように、50ドルも用意すれば家族4人で終日ゴルフ場で遊べる環境は日本にない。団塊世代マーケット復活の条件を満たすことは、同時にシニア、ジュニア、女性のマーケットを振興させることに繋がる。

ジュニア育成

ジュニアの育成と言うと短絡的に石川遼、宮里藍、横峰さくらの名を思い出すが如き商業主義的な英才教育を連想すべきではない。ゴルフは青少年にとって欠けがえのない情操教育手段であり、親子孫三世代が失われつつある家族の絆を涵養する場だからである。詳しくは『ゴルフ基礎原論』『神聖ゴルフ武士道』に譲るとして、欧米諸国がゴルフを情操教育手段としゴルフ場を倫理道徳教育道場として活用してきたことに倣い、青少年育成をジュニアゴルフの大義とすべきである。教育改革が遅々として進まず、少子高齢化政策が選挙対策に終始している現状から一刻も早く脱皮して、豊かな人間作りに貢献できるジュニア育成にしなければならない。
人間教育環境としてのゴルフ場経営の在り方は抜本的な改革を必要とするが(詳細は『ゴルフ経営原論』参照)日本のゴルフ場経営の実状からはジュニア育成に期待できることは少ない。少なくとも文部科学省や教育委員会および既存の業界団体の手から離れた地域ボランティアサークルによるジュニア育成でなければ、現状では返って未来に禍根を残すことになるだろう。その意味では、ジュニア育成を本書マーケティングの項で取り上げること自体誤りであるかもしれない。ジュニア育成は商業主義やビジネスの領域を超越した高邁な理念のもとに行われなければならず、豊かな未来を支える人材育成政策であり、豊かな人間性を育む教育政策でなければならないからである。(参考資料『ジュニアゴルフプログラムの運営と計画:NGF』)
ジュニア育成を未来の日本つくり、日本人づくりとして取り組むならば国家の政策としても家庭の教育としても素晴らしいプログラムになるに違いないが、そこに掛かるコストは国や社会、大人が負担する社会投資でなければならない。それは利潤追求手段やハイリターンを求める投資目的であってはならないということである。もし目的や趣旨がしっかりしていれば、社会コストはいくら掛かっても惜しくないはずだが、残念ながら現状では商業娯楽主義が優先して社会教育事業に至っていない。
個人投資としての英才教育で考えると、成功すれば他に類を見ないほど大きなリターンが得られ、名声を上げた若者は未成年のときから莫大な賞金を稼ぎ出す。プロトーナメントは完全な賭博でありながら未成年者の出場が許され、堂々と賞金を稼ぐことができる稀な世界でもある。本来なら法治国家において未成年者はパチンコ酒場に出入りすることはおろか、隠れて喫煙飲酒することすら許されないが、なぜかゴルフの世界はこの不条理を誰からも咎められていない。従ってジュニア育成は社会投資か商業投資のいずれかに徹底して行なわれるべきで、軽々しくマーケティング戦略として短絡的戦術を掲げるのは危険である。