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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第一章 マーケティング
Section 2 人口動態・潜在需要とニューカスタマー研究

人口動態

人口減少や少子高齢化は人類が初めて経験することだと言われているが、なるほど小学校や中学校が次々閉鎖され、養老院や介護施設が不足する現状を見ればすぐ分かる。また人口に占める高齢者の比率が高まり、人口の4割近くが60歳以上であることも公園や図書館、劇場や観光地、近郊住宅街や練習場を見れば現実を理解できる。
人口構成が極端に変わり始め、どの年齢層に新たな需要を求めるかを研究するのがマーケティングの重要テーマである。少子化社会は子供が減少する社会ではあるが、少ない子供を大切に育てる社会でもあるから「貧乏人の子沢山」といわれた時代とは子供に対するお金のかけ方が違うという観点から、確かに需要に変化が生まれたはずである。子供は幼い頃から学習塾や稽古事に通い、成人するまでの教育投資は一時代前の数倍に及んでいる。つまり子供の教育というニューマーケットが誕生したことを意味するが、小・中学校が次々に閉鎖される一方で特殊教育市場が育っていることが分かる。また高齢者がどんどん増加して養老院や介護施設が不足する現状をみて、介護福祉市場だけが拡大していると判断するのはいささか視野が狭く、大半の高齢者は元気一杯に新たな生き甲斐を求めて趣味や実益の世界を模索している。ここにもニューマーケットが誕生しようとしていることに気が付くであろう。このように人口動態は古いマーケットが徐々に消滅して、新しいマーケットが誕生することを如実に観察できる良い対象と思われる。
人口動態は単に子供や高齢者に留まらず成人層にも及んでおり、都市部を中心に未婚の成人比率がどんどん高くなっている。独身家庭や子供のいない家庭には時間的・経済的余裕が増大し、確実に従来見られなかったニューマーケットが育ち始めていることが想像できる。人口動態の変化は常に新たなマーケットやビジネスが誕生する温床をつくり、ここに探りを入れることにマーケティングの妙味がある。

潜在需要

潜在需要とは水中の魚のような存在で、殆んど目に見えないか見えたとしても釣れるかどうか分からない状態をいう。子供の頃は入江に魚が一杯いるのを見てきっと釣れるに違いないと思い、竿を入れてみてはがっかりして帰ることが何度もあった。反対に深みに仕掛けを投げて、全く見えないところから沢山釣れて大喜びしたこともあるが、ビジネスの世界でも潜在需要を探り当てることは決して易しいことではない。
マーケティングの逸話としてよく使われる例に『シューズメーカーに勤める二人のセールスマンがアフリカの市場調査に出かけた。ひとりのセールスマンは「現地で靴を履いている人を見かけない。現状で靴の需要は皆無と思われる」と報告したが、別のセールスマンは「誰も靴を履いていない。潜在需要は無限にあると思われる」と報告した。』という話だ。この話はマーケティングの本質を絶妙に表わしており、マーケットをどの次元で捉えるかによって正反対の評価ができることを意味する。90年代に中国ゴルフ市場の調査に行った際、この逸話を実感した。北京にコースや練習場はいくつかあったが、中国人ゴルファーは皆無に等しかった。大連や瀋陽ではゴルフそのものを知っている人が皆無に等しかった。しかしゴルフの話を聞いた人の多くが興味を示し「いつかはゴルフをしてみたい」と笑った。ゴルファーはひとりもいなかったが、潜在需要は無限にあるという観察は間違っていなかった証拠に、2010年万国博覧会を開催する上海では多くの中国人ゴルファーが贅沢なゴルフを楽しんでいる。
潜在需要は市場調査によって掴みうるものではなく、色々な資料や情報から予測し感じ取るものであって、判断を誤ることも多い。もし簡単に予測できるものならばビジネスに失敗する人はいないはずで、その意味でビジネスは慎重なマーケティングから始るといっても過言ではない。

ニューカスタマー研究

マーケットは常に変動しており、昨日のマーケットは今日のマーケットではなく明日はまた変わる。マーケティングが重要なのは、移り変わるマーケットを的確に把握していないと、ビジネスの世界で生き残れなくなったからである。
かつて常に需要が供給を上回っていた時代は、名門や老舗が絶対優位の立場を維持していたが、供給が需要を上回るような時代を迎えると、ブランドや伝統だけで競争優位を保つことはできなくなった。さらにインターネットの出現によって、需要者が充分なマーケット情報を把握できるようになったために適切な商品知識や価値を知りうるようになった。供給側も需要側もマーケット参入が自由で、両者とも常に充分な情報を持っているという理想的な完全競争市場ができたため、選択権を持つ消費者に極めて有利な時代になった。
反対に選択権のない供給者にとっては極めて厳しい時代となり、商品価値やサービス内容に照らして価格が適正か否か冷静に検証されるようになった。名門や老舗といえども市場や消費者を裏切れば、たちどころに市場から退場を迫られるし、新規参入者といえども市場や消費者から認められれば、たちどころにナンバーワンに上り詰める。その代わり昨日の王者は今日いないかもしれないし、今日の王者は明日いないかもしれない。このように市場規模は一定だとしても常に市場を構成する供給者と需要者は入れ替わっている。
このようなマーケットでは無数の供給者と無数の需要者が、日々相手を変えて取引しているわけだから選択権のない供給者は安定した取引を継続するには、市場や消費者から余程の信用を勝ち得ない限り現状維持すら難しくなった。かつてのように常連客やリピーターに支えられて安穏とした商売がでる時代は終わり、日々新しい顧客・ニューカスタマーを獲得しなければ、ビジネスを継続し事業を存続することができない時代を迎えているのである。
ゴルフの世界でニューカスタマーといえば広義には「ゴルフをはじめる人」を指し、狭義には「初めてくる人」を指す。先に述べたように日本のゴルフマーケットはゴルフ人口も来場者も共に減少する縮小状態にあるために、経営的な焦りから料金作戦で「初めてくる人」をニューカスタマーとして取り込もうとしがちだが、この種のニューカスタマーはインターネットで料金情報を豊富に持っているからリピーターになりにくい。この種のリピーターを定着しようとすれば、他の要因においても地域ナンバーワンかオンリーワンの競争優位の条件を備えなければならない。
インターネット時代は消費者側に豊富な情報を提供する社会なので、ニューカスタマーは豊富な情報をもとに移動するツアーゴルファー(移動客)であることを承知しておかなければならない。特に会員権制度に支えられるメンバーシステムの崩壊によって、80%近くが所属クラブのないツアーゴルファーになった今日、この流動的なカスタマーをリピーターにするには余程のマーケティング戦略がなければ自縄自縛に陥る危険性すらある。