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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-1 経営マネジメント
Section 1 プロスタッフのチームマネジメントと経営効率

日本のサッカーが未だローカルスポーツであった頃、選手ひとり一人の技術が未熟なうえサッカーというゲームが良く分かっていなかったという。ポジションを与えられても自分の役割や必要とされる技術について認識が乏しく、試合になると攻めても守っても機能しないために得点できずに大量失点を重ねる脆弱チームばかりだったようだ。Jリーグができてワールドカップを目指すようになってから、プロ選手としてひとり一人が何をしければいけないか分かり始めようやくチームマネジメントができるようになった。
ビジネスの世界においても自動車、家電製品のように早くから国際競争に挑戦してきた業界はプロスタッフが育ちチームマネジメントができている。しかし国の政策に保護され国内競争もロクにしてこなかった業界は、グローバル化の時代に次々とあえない最期を遂げた。プロスタッフがいない、チームマネジメントができないでは国内予選も通過できない。いまやマネジメントができないものはスポーツの世界でもビジネスの世界でも生き残ることができない時代なのである。このような時代背景からゴルフビジネスを再考する必要がある。

プロスタッフの養成

ゴルフビジネスは本来ゴルフプロフェッショナルやプロスタッフによって進められるものである。プロといってもトーナメントプロやレッスンプロのことではない。あくまでもゴルフビジネス専門職のことで、ゴルフやゴルフビジネスを専門的に勉強し経験してきた人のことである。日本にはなぜかゴルフ専門教育機関が育たなかったために、素人商売や素人経営がまかり通っている。日本は教育先進国だから殆んどの分野に専門教育機関が揃っているがゴルフの分野にはなかった。
IT社会の到来をチャンスとして創設されたのがNGFワールドカレッジである。1990年当初、日本のゴルフビジネスに携わる人は推定50万人以上いたと思われるが、そのうち99%は専門教育を受けていなかった。バブル崩壊は日本のゴルフビジネスを直撃し壊滅寸前の状態に陥って今日に至っているが、人材育成が進んでいたら別な経緯を辿ったのではないかという残念な思いが残る。
2010年ゴルフビジネス就業人口は30万人を割ったと思われるが、人材教育が進まずイノベーションが進展しなければ、ゴルファー人口も就業人口も減少し続けるだろう。経済産業省は無策が続けば日本のゴルフ産業は2030年には崩壊すると予測している。策とは行政や業界の対策ではなくマーケティング、プロモーション、マネジメントなどのゴルフビジネスを実践できる人材の育成に他ならない。
具体的にはゴルフ場や練習場で働くスタッフがゴルフやビジネスに関する専門知識を持って、積極的にニューカスタマーを開拓しゴルフを振興することが必要である。新規ゴルファーが増えなければゴルフ人口は自然減少する。ゴルフ人口が減少し更に参加率が低下すれば、益々もって入場者数が減少し売上も減少する。売上が減少すれば経営合理化を進めて益々人員削減を実施しなければならない。実にまずい負のスパイラルが進行しているが、それに歯止めを掛けるのはプロフェッショナルやプロスタッフなどの人材が育ち、施設やソフトプログラムを有効に使ってゴルファーを増やし、プレーや練習回数を増やさなければ入場者数も売上も上がらない。

プロスタッフの役割

プロスポーツを見れば分かるように、ひとり一人個性を持った優秀なプロ選手が揃って始めて強力なチームが育つ。逆に高校野球のようにずば抜けた選手は一人もいないが、優れたリーダーの下にチームワークに徹した強力なチームを編成する場合もある。
ゴルフ場にしろ練習場にしろ民間収益事業として経営されているからには、継続的にビジネスとして成立しマーケットに対応していかなければならない。かつてゴルフ場は高級接待場だったり金融投機物件だったことがあり、練習場も不動産投資物件だったことがある。しかし時代が変わり全て終った。これからは専門プロスタッフのチームマネジメントに支えられるゴルフサービス産業であり教育文化事業として大衆に受け入れられ、国際標準料金で運営されなければならない。
プロスタッフとは国際競争に対応できる戦略や戦術をもった、文化や社会に貢献できる専門技術者集団のことである。プロスタッフは少数精鋭によって効率的に施設を運営管理し、地域やコミュニティのリーダーとして地域振興や文化交流に貢献するものでなければならない。これは理想を語り無理難題を問いかけているわけではない。欧米豪州のゴルフ文化は、このようなプロフェッショナルやプロスタッフによって育てられ発展してきた。
今や日本における商業娯楽主義のゴルフ産業が崩壊しつつあるからには、新生ゴルフ産業を育てるのは新生プロスタッフの役割と考えるのが順当ではないか。グローバル化が進みグローバルスタンダードによって社会が動いていく限り、世界に目を向けないわけにはいかない。世界のゴルフ場がUSGA基準によって建設され運営されている以上、いつまでも日本だけが例外でいられる訳がない。世界のゴルフ場が20~30ドルでプレーできるのに、日本だけが10倍料金を維持できる訳がない。グローバルスタンダードを受け入れ、国際標準を実現するのもプロスタッフの役割である。

チームマネジメント

チームマネジメントは軍隊組織やスポーツの世界から発達してきたものと思われる。戦国動乱期に織田・徳川連合軍が長篠の戦に臨んで、優れたチームマネジメントによって最強武田軍団を殲滅したことは歴史の事実として今に伝わる。ピーター・ドラッカーのいう「組織とは凡人に非凡なことをさせる」意味においては、武家社会の常識にとらわれず百姓青年ニート3000人を当時の最先端技術「鉄砲」で武装したチームに仕立てたことは大きなイノベーションであった。さらに「三列縦隊一斉射撃」という常識を覆した戦闘システムを考案したことはチームマネジメントの革命に値する。現代でもニート3000人を臨時募集し「パソコン隊」を編成して「三班一斉操作」というシステムによってIT社会を制覇したら時代の革命児になるだろう。
ビジネスにおけるチームマネジメントは先端科学かもしれないが、軍隊組織では集団戦が始った何百年も前から実践されていたことだし、スポーツの世界では日常的に実践されている。野球やサッカーに代表される団体競技ではシーズンを通してチームマネジメントが巧く行われたチームが最終的に優勝する。連覇する実力も保証もない。来シーズンもチームマネジメントが巧くいったチームが優勝する。それが証拠に資金が豊富にあって一流選手ばかり揃えたチームが優勝する保証は何処にもないことは過去の事実が証明している。ゴルフビジネスの世界でも一流プロを多く抱えていた日東興行が最初に倒産した。チームマネジメントに必要なことは豊富な資金でもなければ優秀な人材でもない。リーダーシップとチームワークである。

経営効率

経営効率とは経営資源がどの程度有効活用されているかを判断する指標として考えられている。ヒト・モノ・カネの経営資源のうち人件費の占める割合から判断する場合、設備や材料の占める割合から判断する場合、投下資本や投資額から判断する場合など視点は異なる。
ゴルフ場や練習場の場合には経営効率の視点が大きく変化した経緯がある。ゴルフ場も練習場も土地不動産を主たる経営資源とする事業であるから、不動産価格が高騰する時代は他の経営資源であるヒトとカネの有効活用は問題ではなかった。人件費や資金の無駄はキャピタルゲイン(土地値上がり益)の大きさに較べて問題にする必要すらなかった。時代が一変して土地価格が暴落し、莫大なキャピタルロスが発生し始めると本来の経営効率が追求されるどころか、経営の存続も難しくなった。多くの経営が破綻した後に残った経営資源はヒト(スタッフ)とモノ(コースとハウス)だけである。破綻して再生に入ったゴルフ場経営は、ヒトとモノを有効に活用してカネを生み出さなければならないビジネスに変わったのである。
しかし状況が変わって気が付けばヒトの効率もモノの効率も余りにも悪い。基本的にゴルフ場も練習場も経営効率を考えて創設されていないから、俄かに経営効率を問われると対応できないのである。従って現在有する経営資源を有効に使えばどれだけのパフォーマンスがあるか、新たなシステムやマネジメントによって何処までパフォーマンスを高めることができるか。そこから出発するのがゴルフビジネスのマネジメントサイエンスである。
更にいえばヒト・モノ・カネの経営資源を有効活用する従来のマネジメント戦略だけでは、もはや通用しない時代になった。そもそもビジネスとはモノもカネもないヒト(起業家)が新たにコトを起こすことから始るものだからである。経営マネジメントにとって本当に必要なものは起業家精神とも言える強い情熱と信念に支えられたリーダーシップそのものではないのか。そしてそのようなリーダーシップを備えたヒトを私たちは「プロフェッショナル」と呼ぶ。プロフェッショナルはプロスタッフのチームリーダーとして潜在パフォーマンスを引き出し、既成概念を超えた経営効率を生み出す人なのである。

 

参照:
映像アーカイブ / Vital to the Golf Game (制作:PGA of America、日本語字幕:NGF FAR EAST)