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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-1 経営マネジメント
Section 2 プロスタッフの競争原理と共通目標達成意欲

プロスタッフ

プロスタッフとは業務に熟練した意識の高い社員のことである。スポーツでいえばチームのレギュラーメンバーをいう。部門業務やチームの仕事や作業を心得ていて、リーダーから出されるサインや指示に従って確実にこなすことができる。リーダーからサインや指示が出されなくても、自分がやるべきことを心得ていて自己判断によって処理することができる。つまり与えられたポジションを確実に処理する能力を備えたスタッフのことである。コレはできるがアレはできない、指示がなければ何もしない、何でもやるがひとつとして満足なことができない。このような社員をプロスタッフとは言わない。その意味でプロスタッフとは部門やチームから選抜された優秀な社員ともいえる。
プロスポーツの場合は大変分かり易く、一軍と二軍があって一軍から選抜されたものをレギュラー選手という。レギュラー選手でも監督の期待通りに働かなければ簡単にレギュラーから外され二軍に降格される。プロスタッフはいつも同僚とレギュラーポジションを争っているが、この競争原理がチームを強くする。競争原理が働いていないチームは有能な選手を揃えていても弱い。競争原理が働かないために、チーム全体に怠惰と無気力が支配するからである。
大企業や役所の社員は雇用規定や労働基準法に守られて競争原理が働かなくなっている。逆に雇用の安定を図るために競争原理が働かないシステム、俗に言うオミコシ体質を構築してきたともいえる。このような組織の中にプロスタッフは育たない。競争原理の中ではチームメートに遅れまい、迷惑を掛けまい、頼るまいという意識が芽生え、自立した存在になるために常に切磋琢磨する環境が育つ。プロスタッフは競争原理の環境から生まれ育つ。大中小を問わず企業の中で競争原理が働くのは役職やポジションの争奪、給与やボーナス査定、正社員と契約社員の入替などがあるが、流動的な労働市場では他企業や外国企業からのヘッドハンティングやスカウトがあり、外部からの競争原理も働く。競争原理はプロスタッフが育つ重要な条件となっている。

チームワーク

団体スポーツ競技同様、ビジネスの世界でも小集団にとってチームワークは命である。ゴルフビジネスの世界に大企業や大きな組織はない。ゴルフ場によらず練習場によらず全て数人から数十人の小集団によって経営されている。さらに施設産業であるにも拘らず、経営全体に占める人件費の割合は高く経営効率は極めて悪い。医療や教育のように人的サービスに依存するビジネスに匹敵するほど高い人件費率は異常であって、原因はプロフェッショナルがいないこと、プロスタッフが育っていないこと、チームワークが取れていないことによる。
先にも述べたように、ゴルフ場や練習場はもともとキャピタルゲインを目的とした創業された不動産投機事業が多く、本来のゴルフ事業を目的にしたものは少ない。バブル崩壊後、事業再生に乗り出した企業の多くは金融投資会社か不動産投資会社で、ゴルフマネジメントを本業とする会社は少ない。本来ならゴルフ場一軒一軒がチームとなって、プロスタッフによるチームマネジメントが行われる必要があるが、日本にはプロスタッフを養成するシステムもノウハウもないので、今後の発展に期待せざるを得ない。
どんなに優秀なプロスタッフが揃っても、必ずしもチームワークができる訳ではない。肩書や権限以前に実質的なリーダーがいて、リーダーが掲げる目標に向けてスタッフ全員が一致協力して初めてチームワークが生まれる。チームワークは必ずしも金銭的利害関係によって生まれるわけではない。むしろ金銭的利害関係がない方が良い場合もある。地域ナンバーワン、オンリーワンを目指そう。会社を企業買収から守って自主再建させよう。目的動機は異なってもスタッフに結束をもたらす何かが必要である。リーダーはその何かを見出してスタッフをその方向に牽引することができればチームワークは整ってくる。一人のプロスタッフとしては有能であってもチームワークに悪影響を及ぼすプロスタッフは優秀とは言わない。プロスタッフはチームに貢献することが重要な役目であって、自分の成績を上げることや個人の利益を優先することが第一義ではない。だからプロスタッフはスペシャリストよりゼネラリストの方が適正といわれるが、とかくスペシャリストは社会性や協調性に欠け、チームワークを乱したり一人孤立することが多いからであろう。優秀なプロスタッフと評価されるのは、個人的には特別優れたところはないが、自分の仕事や役割に誇りと責任を持ち、喜んで日々働いている人に多い。

チームワークの障害

言い方を変えればプロスタッフとはチームを組んでうまく仕事ができる人ともいえる。基本的に学生時代に団体競技をしてきた人は社会に出てチームプレーができるし、個人競技をしてきた人はチームプレーが苦手だといわれる。その意味でゴルフは徹底した個人競技だから、ゴルファー出身者はプロスタッフに向くか疑問だが、なんの教育もトレーニングも受けなければ誰だってチームプレーはできないはずだ。だから競技も仕事も、本来は教育やトレーニングを受けなければ誰もスタッフになりえない。ニュースタッフもキャリアスタッフも相当のトレーニングを受けてチームワークができるまでは、とても戦力になるプロスタッフとはいえない。
先に触れたようにプロスタッフは競争原理の切磋琢磨から生まれるものだから、適性があるかないかが問題ではない。ゼネラリストは教育とトレーニング次第で、どのようにも育てられるものと考えられる。しかし、どんな企業組織にも聖域があるとチームワークはとり難い。現実問題として、ゴルフ場・練習場の職域には次のような聖域ができやすい。

フロントオフィス

顧客に直接接するフロントオフィスはいわば営業の最前線に当たり、メンバーや常連客と親しい関係にある場合が多い。予約の受付から苦情処理、サービス対応までカスタマーを掌握しているという責任と自負があるため、他の職域から口を挟ませない聖域ができやすい。特にメンバーコースの予約受付にはメンバー配慮とビジター対策という営業戦略の鍵を握る責任と権限が伴うので、一層聖域化しやすい。パブリックコースのフロントオフィスは営業部そのもので、売上に直接責任を負い企業の存亡を担っているから他の職域は頭が上がらない。

キャディーマスター室

ハウスキャディーと契約キャディーを含めて数十人の接客サービス係りを擁するゴルフ場では、営業成績の大部分をキャディーの良否に委ねている。キャディー教育責任と監督権限を有するキャディーマスターはキャディーの元締めとして女性スタッフのボス的存在になりやすい。セルフ化や合理化を進めようとすれば、キャディー軍団を抱えるマスター室は労働組合として経営の前に立ちはだかる存在になる。

レストラン売店

ゴルフ場経営から分離して独立採算事業部門を構成していることが多く完全委託経営の場合も多い。日本のコースが外国と同じように18ホールスループレーができないのも、豪華昼食メニューや食事付パーティー形式を変えられないのも、ランチ飲物持参やコース内飲食を容認できないのも、全てレストラン売店の職域保護によるものであって、料理の鍵を握る厨房が聖域となりやすい。

施設管理部

コースの命ともいえる芝草管理に全責任を負う施設管理部は素人経営者や新参支配人が一歩も立ち入ることのできない聖域そのものである。特にグリーンの管理は、高度の専門知識と豊富な経験を要するスペシャリストの領域だから、一般的に部門内のチームワークはできても経営全体のチームワークに馴染むことは少ない。

インストラクター

1970年代、日本のゴルフ場はプロ不要論を唱えて所属プロを次々と解雇し練習場に送り込んだ。練習場は多くのプロインストラクターを抱え、初心者から上級者まで幅広くカスタマーサービスを担わせた。インストラクターはスペシャリストだから練習場経営にとってまさに聖域そのものである。

 

一箇所でも聖域があっては経営マネジメントは進まない。しかも典型的な小企業であるゴルフ場・練習場にトップマネジメントが介入できない聖域があってはマネジメントの根幹が揺らぐ。聖域はとかく他部門やトップマネジメントと対立関係になりやすく、保守的であるがために経営改革や合理化の障害になることが多い。

障害を越えて

チームワークを強化して強いチームをつくるには、自分のポジションや立場を守ろうとする保身的なスタッフもチームメートにしなければならない。全員がチームメートとして集団体制を取ろうとしたとき、つまりプロスタッフを目指そうとしたとき、お互いが得意なことと不得意なことを認め合い、プロスタッフとしてはみんな不完全であるという共通認識の上に立つことが重要である。お互いがチームメートであることと不完全であることが認識できれば、お互いに得意なことを相互に教えあえば良いことが分かる。
お互いに教えあう学習法をシナゴジー ‐Synergogy‐ :相教学習法という。相教とは相互教授のことで米国で開発されたグループ学習のひとつだが、チームメイトが相互に教師になり生徒になることによって、互角の立場で学習の幅を広げ仕事の領域を広げていく方法をいう。米国においては職場のトレーニングシステムとして評価された実績があるが、問題はコーディネートするインストラクターか体系化された教材が整わないと、経験や無知のぶつけ合いになって相教学習にならない点である。
しかし障害を乗り越えなくては組織の改革やイノベーションは進まない。プロスタッフを養成するには競争原理が働かなくてはならないが、競争するときのゴールとして明確な目標点が示されなくてはならない。ゴールなき競争は単なる争いだから、社内のセクショナリズムや派閥抗争に発展する危険すらある。プロスタッフ養成の競争原理は、あくまでも全員が目指す共通目標がなければならない。

 

参考文献:
『シナゴジー理論 : J.S.ムートン / R.R.ブレーク著、田中敏夫訳』

共通目標と達成意欲

スポーツの世界は共通目標が明確で分かり易い。地区予選突破とか一部リーグ昇格、リーグ優勝とかワールドカップ出場という具合にチーム全員が一丸となって取り組む目標が掲げられる。しかし、ビジネスの世界ではまとまり難い。
ビジネスの世界で掲げられる目標は殆んど売上や利益という経済目標である。経済目標はそのまま金銭的利害関係に発展するから、組織企業と社員スタッフとの間に利害が一致するゴールを示さなければ、誰もスタートラインに付こうともしないだろう。ビジネスの世界の行動原理は基本的に経済活動であるから目標達成時に於ける成果配分について事前に明確な配分基準が示される必要がある。ゴルフのプロトーナメントのように、賞金総額いくら優勝賞金いくらと事前に提示されるから競って出場し、負けて一銭にならなくても文句を言わずに引き下がるのである。
ビジネスの世界では、チームワークによって達成しようとする目標も、最終的には経済的成果配分に与かれる目標でなければ達成意欲も湧かなければ、競争原理も働かないだろう。しかし、間違ってもゴルフトーナメントのように優勝劣敗の一人勝ち構造や仲間同士の競争原理であってはならない。成果配分の基準を誤れば間違いなくチームワークは崩壊し組織のガバナンスさえ維持できなくなるだろう。共通目標はあくまでもチームワークによって達成されなければならないし、成果配分は参加したスタッフ全員が公平に与かれるものでなくてはならない。
プロスタッフのチームワークによって達成される目標は、インセンティブを明確にすれば、既成概念を遥かに超越した高い水準に達するだろう。付け加えるならば、真のプロスタッフは成果配分に与かれることに喜びを感じるのではなく、チームワークによって目標を達成し成果を挙げたことに喜びを感じるサムライたちである。プロスタッフはひとり一人自律したプロフェッショナルであることを忘れてはならない。