- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - 第四章-1
経営マネジメント - INTRODUCTION
- -1 プロスタッフのチーム
マネジメントと経営効率 - -2 プロスタッフの競争原理と
共通目標達成意欲 - -3 目標と情報を共有する
ネットワークシステム - -4 継続的に顧客満足を求める
SQCシステムの基本原則 - -5 ITネットワーク時代の
共通ソフトプログラム - -6 損益分岐点管理による
費用効果と価格戦略 - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 4 継続的に顧客満足を求めるSQCシステムの基本原則
-3 | 目標と情報を共有する ネットワークシステム |
<< | >> | -5 | ITネットワーク時代の 共通ソフトプログラム |
グローバル世界のネット社会に住む私たちは、知らず知らずのうちに情報を共有する社会に生きている。いま世界で何が起きているか、どのような商品が開発されているか、世界の情勢や趨勢を小学生も心得ている。世界の何処でどのような教育が受けられるか、世界のどの医師からどのような治療が受けられるか、世界の誰からどのようなサービスが提供されるか、目に見える生産物だけでなく目に見えないサービスプログラムまでお見通しの世界<サイバーワールド>が出現した。
C.S. : Customers Satisfaction(顧客満足)といわれる需要者の欲求は、どんどんグローバルスタンダード化し進化している。だから供給者は一時といえども停滞が許されない。これは人間生活の善悪、人間社会の正義の問題ではなく、資本主義社会のビジネスに対する法則原理に過ぎない。マーケットという自由競争原理に従ったビジネスフィールドは、プロスポーツ世界にも似て、観客やファンに支持されないチームや選手は容赦なく退場を迫られ、存続できなくなる。常に顧客満足を求めて進化し続けなければならない。
SQCとは何か
20世紀後半、日本においても先進工業社会を目指していた頃は盛んにQ.C. : Quality Control(品質管理)ということが叫ばれ、生産現場でQC活動が積極的に行われていた。日本製品の品質が世界一級といわれるようになったのは、この生産現場の隅々まで行き届いた自発的QC活動の成果といわれている。
ところが日本は先進国の仲間入りをした途端、脱工業化社会を目標にして先進商業社会ないし先進福祉社会を目指さなければならなくなった。20世紀末に先進国から発展途上国に生産技術や品質管理技術が移転され、21世紀には完全に工業生産拠点がアジア諸国に移ってしまった。今では世界一級品が安価にアジア諸国で生産され、日本を含む先進諸国に大量に輸出されている。従ってQCという品質管理技術も発展途上国に移転されたことになる。
現在、日本を含む先進諸国では商業サービス産業が国の基幹産業となり、激しい国際競争となっている。商業サービス産業とは教育、医療、介護、健康、福祉、環境、生命、金融、保険など顧客満足が物質的満足から精神的満足に移行した、いわば目に見えない商品によって構成される産業をいう。この目に見えないサービス商品の品質を管理するシステムをS.Q.C. : Service Quality Control(サービス品質管理)という。その品質管理は国内基準ではなく世界標準によって評価されるから、日本一を誇っても必ずしも世界に通用しない時代なのである。日本の教育サービスは一級だと思っていたら世界ランキング20位内に入る大学が一校もなかったという現実や、日本の医療サービスは先進諸国並みと思っていたら先進諸国の中では遅れていた事実など、いろいろなサービス産業で先進諸国の後塵を拝している分野が多いことが分かってきた。
かつて積極的なQC活動によって工業生産部門で先進諸国に追いつきリードした時と同様、21世紀はSQC活動によって世界先進国をリードする立場にならなくてはならない。その立場は国家管理体制や保護主義に基づく政官業の三極癒着構造による護送船団によって構築されるものではなく、21世紀は供給側と需要側が情報公開を通してマーケットを管理し、ディファクトスタンダードによる世界標準によって品質管理が行われる時代である。
インターネットによって実現したサイバーワールドとは「何でも分かってしまう世界」でもあるから、SQCを怠れば歴史や伝統のある企業も簡単に崩壊する。三菱自動車、雪印乳業、不二家などはその典型的な例といえよう。ゴルフビジネスは施設管理業からサービス管理業に変わらなくてはならない。それゆえにSQCはゴルフビジネスにとっても重要な経営戦略になるだろう。
IT社会のSQC
先にも触れたようにIT社会は需要側が供給側を上回る情報を持つマーケットを創造した。供給側が自分に都合の良い情報を提供していれば需要側は都合よく騙されてくれた時代が終ったのである。だから市場原理は冷酷に見えるが、本当の意味で民主的といえる。
供給側がいくらサービスクオリティを謳ってみても、需要側が反応しなかったり評価しなければ何の意味もない。顧客満足とは需要側の一方的な感覚であって必ずしも正しい評価という訳ではない。消費者は勝手気ままで我がままである。その意味でディファクトスタンダードは需要側が決める基準のように思えるが実際はそうとも限らない。消費者は賢いようでも無知であり、情報を豊富に持っているようで本当の情報は持っていない。だから供給側がどれだけ誠実に本当の情報を提供したかで消費者の意識は変わるし、供給側の努力次第で消費者をマインドコントロールすることもできる。つまり供給側の継続的な意思と努力によって時系列的に需要側の満足度を高めたり継続することができるのである。
コントロールという言葉は「管理」という意味と「操作」という意味に使われる。「管理」というと保守的・消極的ニュアンスが強いし、「操作」というと攻撃的・積極的ニュアンスが強い。サービスクオリティをコントロールするといえば、現代では殆んど後者の意味に使われるのが一般である。IT社会では供給側が積極的に情報ノウハウを開示して需要側のマインドをコントロールする戦略がとられている。
IT社会はグローバル世界であるから、供給側も何処にどんなライバルが潜んでいるか分からないし、需要側は潜在需要も含めると実体のつかめない不特定多数である。不特定多数の顧客満足を得るというのは、もはや経営マネジメントの領域を超えており、最大多数の最大幸福と同じように抽象的で言葉の遊びに近い。
経営マネジメントにおいては具体的な目標数値を掲げ、最低何人から最高何人までの顧客満足を得るのか、マーケット全体の何%の支持を得ることができるか、サービス商品の何に満足しているか何に不満足か。マーケットではどのような消費者がなぜ支持しているか、そのうち何%がカスタマーになったか。クオリティコントロールは果てしなく続き、長期戦略をもって臨まなければ対応できない。
IT社会ではマーケットに情報ソフトを公開し、不特定多数の消費者から支持選択されてカスタマーというファンをつくっていかなければならない。つまりIT社会のSQCはマーケティング戦略そのもので、移り行くマーケットで継続的にニューカスタマーを創造していくことに他ならない。
サービスクオリティの内容
既にマーケティングの章で詳述した如く、ゴルフビジネスの世界でニューカスタマーはニューゴルファーとニューカマーをいう。継続的にこの人たちの満足を得るには、どのようなサービスクオリティを提供すれば良いか研究しなければならないが、少なくとも選択され続けるにはハード、ソフト、ヒューマンの有機的三次元サービスを提供しなければならない。
従来のサービスはハードとヒューマンの二次元サービスが限界だった。例えばメンテナンスの行き届いたコース18ホール当たりの料金+キャディー付きの場合、セルフの場合の二種類の料金が平日と土日祭日に分かれて設定されている。さらに季節によって料金が変わるシステムを採用するところが多く、サービスクオリティはコースの良し悪しとメンテナンスの状態、キャディーの質と食事の内容までである。カスタマーが初心者、上級者、女性、高齢者に関係なくオプションや選択の余地のない同一サービスを提供してきた。ゴルフビジネスの世界では供給側に厳しい規制があって、規制に合わない人は入場お断りや退場処分にすることすらあった。需要側にサービス選択権は殆んどなく、不愉快ならば別の所に行くしかなかった。ゴルフビジネスの世界では顧客満足とかSQCサービスクオリティコントロールの概念は存在しなかったというべきかも知れない。
しかしゴルフ場は増加しゴルファーは減少することによって状況が一変した。選択権が供給側から需要側に移転してしまったのである。つまりカスタマーは何処のコースでも好きなようにプレーできるようになったから、料金、利便性、サービスクオリティを比較検討して冷静に選択することができる。料金と利便性はネットで検索すればすぐ比較検討できるが、サービスクオリティは比較も検討もできない。ホームページには立派なクラブハウスと景観の良いホールが写っているだけで、どのようなサービスプログラムが用意されているか分からない。初心者でも受け入れ可能か、指導してもらえるか、家族を連れて行けるか、18ホールプレーのコースメニューしかなければ、カスタマーにとって選択の余地がない。
現代SQCシステム
IT社会を迎えてSQCはインターネットによるマーケティングに変わった。つまりオリジナリティの強いサービスプログラムをネット上に公開して、不特定多数の消費者から選択してもらう時代になったのである。カスタマーが選択を続ける限り、そのサービスクオリティは顧客満足を得たものとしてマーケットに残ることができるが、選択されなくなればそのサービスクオリティは市場価値を失ったものと判断しなければならない。
ネット上に展開されるマーケットは流動的なカスタマーが自由に出入りするところだから、マーケットの性格も大きく変わったと考えなければならない。従来のマーケットは物理的にも空間的にもいろいろな制約や限られた条件のもとに存在していた。その制約や条件の下で顧客満足を得るサービスクオリティにも、同様に制約や条件が存在することは避けられなかった。マーケットもカスタマーもそのことを承知したうえで暗黙のうちにクオリティの限界を認め合っていたのである。
IT社会になってからはマーケットインする全ての供給者が公平にグローバルマーケットに晒されるようになったため、供給者側から市場や需要者を操作することは全く不可能になった。仮に行政や国家権力をもって操作しようとしても、反って市場からその何倍ものしっぺ返しを喰うことになるだろう。つまりサービスクオリティは供給者自身がコントロールするものではなく、マーケットを通してカスタマーがコントロールするものに変わったといえる。これを市場原理というが、グローバルマーケットはスポーツの世界ならば国際試合やオリンピックを意味する。
グローバルマーケットで継続的に顧客満足を得るには相当の実力や個性を必要とするが、ナンバーワンよりオンリーワンを目指せといわれる理由は、絶対的競争優位の地位に立てという意味である。オンリーワンに競争相手はいないがナンバーワンの後ろには常にナンバーツー、ナンバースリーが迫っている。ナンバーワンの座にあれば、常にウィークポイントを攻撃されることになるから、パフォーマンスを発揮する以前に過剰に神経と体力を消耗する。SQCは攻撃的・積極的性格を失って、段々と防衛的・消極的性格を帯びてくる。やがて経営マネジメントは責任回避や隠蔽体質に犯され、市場原理によってマーケットから追放されることになるだろう。歴史や伝統のある大企業も巨象が一本のトゲであえない最後を遂げるようにして倒れる。
IT社会となった現代では個人や弱小企業といえどもパフォーマンスを発揮してオンリーワンのクオリティを持てば、グローバルマーケットに進出して大企業と互角の勝負ができる時代なのである。従って、現代のSQCはマーケットシステムによって行われるからマーケティングの具体的戦略と考えるべきであろう。
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