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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-1 経営マネジメント
Section 6 損益分岐点管理による費用効果と価格戦略

損益分岐点の概念が重視されていたのは需要に限界があった時代のように思われる。高度成長の時代になって、全ての企業が量産体制による増収増益を目指して成長戦略をとるようになり、損益分岐点概念は忘れられたかのように聞かれなくなった。損益分岐点という考えは需要に限界がある市場において、費用を管理しつつ売上利益の増大を図る優れた概念である。特にコース・練習場のように施設規模によって売上上限が定められ、施設維持費という固定費が経費の大部分を占める業態では、損益分岐点の概念なくして経営マネジメントは考えられない。ゴルフビジネスを取り巻く経営環境が一変した現代の経営マネジメントにとって、今あらためて損益分岐点の概念を考え直さなければならない。

損益分岐点とは何か

損益分岐点とは売上から経費を差し引いて利益が0の時点をいう。経費には売上高に関係なく常に一定の固定費と売上高に関係して変化する変動費がある。
地代家賃・固定資産税・正規社員給与は売上高0でも変わらない固定費である。
これに対し仕入・販売経費・臨時給与等は売上高に準じて変わる変動費である。
だから景気低迷期や売上減少時にあっては、大企業も零細企業も余分な施設や生産性の低い設備を整理処分し、正社員や無駄な経費を減らして固定費を削減しようとする。つまり損益分岐点を下方修正して売上減少に対応しようとする経営努力の現れである。
損益分岐点管理こそトップマネジメントの重要テーマであり、硬直した固定費を如何にして弾力的な変動費に換えられるか、常に検証し対応して非常事態に備えようとするのである。例えばコースの場合には大きなクラブハウスを維持するために莫大な固定資産税、水道光熱費、人件費を負担していることがある。クラブハウスの存在は一般に売上に殆んど貢献しないうえ、莫大な経費負担として経営を圧迫する。カスタマーはメンテナンスの行き届いたコースには価値を認めるが、豪華なクラブハウスにはさほど価値を見出さない。
パブリックコースのカスタマーはプレーが目的で、クラブハウスを利用しに来るわけではない。外国のプライベートコースの場合にはメンバーと家族だけが食事や団欒、パーティーやセレモニーなどのクラブ活動に利用するからクラブハウスがメイン施設でコースは付帯設備である。だからクラブライフを維持するために、損益分岐点が高くても高額メンバーフィーを負担してメンバーはその責任を果たさなければならない。しかし、プライベートコースといえども損益分岐点管理はトップマネジメントの重要テーマである。

損益分岐点管理

損益分岐点管理とは、経済変動期ないし低迷期の環境変化に備えて経営に機動性ないし流動性を持たせることで、トップマネジメントの重要な使命である。高い損益分岐点を維持したまま経済衰退期を迎えた企業は忽ち経営危機を迎え立て直す暇もなく倒産に追い込まれるからだ。
バブル崩壊後、コースが次々と倒産に追い込まれた原因のひとつには、損益分岐点管理に対する認識が全くなかったことが考えられる。バブルとは「資産価値が騰貴し続け、いつでも資金調達が容易にできる」と信じられていた時期をいうが、実際には誰もが崩壊を疑うことなく長期繁栄を信じていたことは事実である。その錯覚をバブルというのかもしれない。しかし、歴史に学べばバブルは必ず崩壊する。なぜならばバブルは中央銀行の一時的な金融緩和政策によって起こるもので、中央銀行が緊縮政策を採れば直ちに元に戻るものだからである。
むしろトップマネジメントが常に対処すべきは社会変動や経済変動であり、その重要な対処法のひとつが損益分岐点管理といえる。中央銀行の狡猾と中央政府の暗愚に気付いた民間企業のトップマネジメントは、必死に損益分岐点の下方修正に取り組んでいる。正社員の大幅削減、無駄な施設の処分、製造工場の海外移転、支店の整理統合など、全て固定費削減及び変動費移転による損益分岐点の下方修正方針によるものだ。政府や銀行がいくら設備投資や雇用の促進を求めても、民間企業のトップマネジメントは容易に方針を変えることはない。損益分岐点管理を怠ることが如何に恐ろしい結果を招くか、トップマネジメントは経済の長期低迷の中でイヤというほど学んだからである。
それに対して損益分岐点の概念すら持ち合わせない中央政府や地方自治体は結局のところ巨額の財政赤字と負債を負うことになったが、損益分岐点概念が理解できなければ、いつまでたっても固定管理費のかかる無駄な公営施設やスタッフ、効率の悪い組織やシステムを抱え続けることになるだろう。民間企業ではありえないことだが。

コース練習場の損益分岐点

コースも練習場も損益分岐点の高さが指摘されている。つまり経費全体に占める固定費比率が高いということである。
コース練習場の固定費となる経費は固定資産税、地代家賃、水道光熱費、施設管理費、そして社員給与である。このうち社員給与が経費全体の50%を占めるところが多く、大胆なリストラを敢行しない限り容易に損益分岐点を下方修正することはできない。
次に高い固定費比率を占めるのが固定資産税又は地代家賃であるが、所有か賃借かの違いで両者はセットになって固定費になっている。特に固定資産税は国の評価によって一方的に決められるものだから、施設産業であるコース練習場側は自分勝手に修正することはできない。
このように固定費は容易なことで変更することができないから固定費というわけだが、損益分岐点はこの固定費が決定要因になるために、トップマネジメントは強い意思をもって断行しなければ容易にこれを下方修正することはできない。固定費の削減を伴うものは、行政改革によらず経営改革によらず簡単に実行できないものである。例えばコース練習場の経費のうち変動費を構成しているものは、僅かに営業消耗品費とパート給与くらいで殆んど何もないことに気が付く。
このようにコース練習場の損益分岐点は高いまま硬直的で売上に対して非弾力的であることが分かる。別な観点から見れば、損益分岐点を基点に上方では極端な利益率を示し、下方では極端な損失率を示すことを意味する。コース練習場経営の場合には、事業計画の段階から固定費をできるだけ少なくおさえて、損益分岐点を低く設定することが鍵となる。固定費はその名の通り、後になって下方修正することが大変難しいので、あらゆるビジネスにおいて損益分岐点は経営マネジメントの出発点と考えても良いかもしれない。

ケーススタディ

コース練習場の費用構成は固定費率が高く変動費率が低いため、損益分岐点を越えた時点から高い利益率を示す一方、損益分岐点に満たなければ極端な損失を招く。ところが一般小売店は変動費率が高いために汗水たらす割に儲けが少ないが、同時に売上減少に対しても赤字幅が少ないので持久力がある。その構造の違いを損益分岐点から研究してみよう。
損益分岐点は次の計算式から求められる。 <損益分岐点=固定費÷売上利益率>

 

  固定費   売上利益率   損益分岐点
コース練習場   4500万円   90%(0.9)   5000万円
一般小売商店   1500万円   30%(0.3)   5000万円

 

このケースでは、コース練習場も一般小売商店も売上5000万円のときは両者とも利益0であるが、売上を1000万円伸ばして6000万円にすると、コース練習場の利益は900万円になるが、一般小売商店の利益は300万円に留まる。逆に売上が4000万円に減少するとコース練習場の赤字は900万円になるのに対して一般小売商店の赤字は300万円で済む。
このようにコース練習場の損益分岐点は、高い固定費率と売上利益率によって構成されているのでマーケティング、プロモーション、インストラクションなど活用したマネジメント戦略によって、付加価値の高いビジネスが展開できる反面、ひとたび損益分岐点を割れば崖っぷちに転落するような危険なビジネスであることも承知していなければならない。

費用効果と価格戦略

NGFがゴルフ練習場でナショナルゴルフスクールを展開し始めたのは1979年のことであるが、通常の広告宣伝や新規顧客開拓では、費用に対してどれほど売上効果があったか判然としないことが多かった 。
多くの場合、多額の費用と労力を使う割に効果が認識できず常に費用効果が問題なるが、経営マネジメントにおいて損益分岐点管理がされている場合には、確かな数値によって効果を認識することができる。しかし、広告宣伝費や生徒募集経費を変動費として扱うと、どうしても売上に対する限界費用と考えるから生徒一人当りの儲けに目がいき、目先の費用効果にとらわれとて全体収益や利益変化に考えが及ばない。そのためにゴルフスクールは最初から儲からないと決め付けて開催するのをやめたり、開催してもインストラクターの副業ぐらいに考えて熱心に取り組まない練習場が多かった。
ところがスクールを練習場の主力戦略として捉え、生徒募集経費を固定費として年間計上し、損益分岐点管理によって全体収益や年間利益の変化をマネジメントしたところは、景気低迷にも強い経営体質をつくり高い利益率を維持している。また損益分岐点を把握していれば、リピーターや新規来場者の利益貢献度が計算できるから、大胆な割引料金策や特典を設けることができる。無策の近隣ライバルに対して絶対的な地域優位性を確保して、不動の地域ナンバーワンを確立することができるのである。
損益分岐点管理は長期戦略に欠かすことのできないトップマネジメントであり、怠れば知らぬ間に高い分岐点に誘導される恐ろしい性格を持つから、常に管理を怠らず積極的な経営戦略として活用することが大切である。