－ 神 聖 ゴ ル フ 武 士 道 －
日本の伝統精神 ＋ 英国の伝統文化
実践倫理道徳教育
武士道は学ぶに学ぶ処なく、教えるに教える術がない。母親が幼い子を膝に抱いて、耳元で諭し聞かせるように語り続け、我が子が武士道に沿うことをすれば涙を流して喜び、反することをすれば心から落胆する母の姿を見つめて育つものとすれば、究極の形而上学とも実践倫理学とも思える武士道は何処でどのように教え、そして学べば良いのか。「今こそ倫理道徳教育を施せ、修身を復活させろ」と勇ましい声は聞かれるが、戦後60年余を経過して実践されたためしがない。一言で言えば、それ程難しいことに違いない。国策として取り上げれば必ずや軍国教育に利用されるだろうし、教育理念に取り上げれば右翼思想や国粋主義に発展しかねない。結局はどの時代どの社会を取ってみても、愛するわが子を膝に抱いて三つ子の魂に語り聞かせるのが最も効果的だったのではなかったのか。既述したように武士道は武道から生まれたものではない。ましてや武道師範が伝授した秘伝や教訓などと言う教条的なものであるはずがない。武士道は戦国時代や封建社会を人間として生き抜こうとする武士たちの魂のうめきから生まれたもので、武士が人としてあるべき姿を日常生活の中で実践履行し、武士として本懐を果たすとき、子供や後世の教訓になるよう人として最期を飾ろうとする思想ではないのか。武士道とは論語読みや曲学阿世が入り込む一分の隙もないほど厳しい人生の真剣勝負であるがために、国の政策や学校の教育方針などの策では扱いきれなかったに違いない。極言すれば、武士道は為政者や教育者の手に負えるような代物ではなかったということではないのか。
ゴルフマインドの涵養
しかし欧米社会では倫理道徳の教育や正義感の涵養にゴルフを利用してきた歴史がある。ゴルフの思想源流がキリスト教騎士道精神にあることを考えれば、ゴルフを通して道徳心や正義感の涵養を図った理由が理解できるし、益々盛んに行われていることも納得できる。ならば日本も欧米に倣って、ゴルフによる倫理道徳教育や人格形成を図ってみたらどうかという考えが浮かんでくる。日本には既に莫大な資金を使って建設したゴルフ場が2500コースもあるばかりか、何処も顧客減少に悩む現実がある。不良資産化したゴルフ場が青少年の人格形成道場として甦るならば、日本人の魂の再生にも役立ち一挙両得ではないか。ゴルフで武士道精神の涵養をというと奇異に聞こえるかもしれないが、ゴルフの思想源流を訪ねゴルフマインドとは何かを探ると、ゴルフが英国の国技となり英国人の精神や魂を育ててきた事実を知り、ゴルフマインドとはジェントルマンシップそのものであることが分かる。ジェントルマンの由来は、15世紀頃に於ける高貴な身分階級の人たちをさす総称だったようだが、宗教改革によって人間社会に構築された身分制度や差別意識は、デモクラシーやプロテスタンティズムの前に木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。むしろ身分や階級に関係なく、神の前に正しき人かどうかが問われることになり、聖書に「人はうわべを見るが、神は心を見られる」とあるようにジェントルマンは実質を伴わなければならない。14世紀に書かれた聖書に次ぐ古典『イミタチオ・クリスチナ－キリストにならいて－』に示される如く、心優しく謙虚にして親切、礼儀正しく正直にして誠実でなければ人の尊敬も社会的地位も得られない。宗教改革によってジェントルマンの条件は俄然厳しくなり、親から相続したり権力者を買収して得られる身分総称ではなくなってしまった。日常の行動から礼節を弁え品格を備えることは、俄仕込みの付け焼刃でできることではないから、武士道と同様に幼い時から生活習慣の中で涵養されなければ身に付かない。それだけに今やジェントルマンもサムライも探すのに骨が折れるくらいだから、教えたくとも教える術がなくなってしまった。ジェントルマンを外観で想像しようとすれば、三つ揃いのスーツに銀縁めがねをかけ、ステッキを付いている姿になるが、ロンドンを歩き回ってもめったに見るものではない。サムライだって羽織袴に刀を差して、ちょんまげ結った姿になるが、京都の撮影所にでも行かなければお目にかかることはできない。だからジェントルマンシップも武士道精神も外観教育から入ろうとすると、学芸会の稽古を見るようで噴飯物となってしまう。ゴルフゲームという遊びの世界から入り、エチケットルールを通してゴルフマインドを涵養しながらジェントルマンやサムライを育てない限り、ほかに術が見当たらない。米国のゴルフ場でジュニアゴルファーに出会うと、大人に対する言葉遣いや礼儀正しさに驚くばかりか、途中で追い着けば「プリーズ」と言ってプレーの先行権を譲ってくれる。ジェントルキッズを前にして自分がプロゴルファー猿のように見える。